SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

CDP2026の質問書に「海」が入った——任意・非採点での初登場、その置きどころ

自然資本

海は、清掃写真から質問項目へ

統合報告書やサステナビリティサイトをめくると、「海」はしばしば海岸清掃の集合写真として登場します。社員がごみ袋を手に浜辺に並ぶ、あの一枚です。長いあいだ、多くの企業にとっての海は、その写真の中にありました。

このブログでは以前、「今こそ、海について考える」という連載で、海は遠い自然ではなく、物流・食料・気候・防災を支える足元のインフラである、という話をしてきました。

 

「今こそ、海について考える」シリーズ

 

同じ海が、2026年のCDP質問書に、開示項目として加わりました。

CDPは、世界の大手企業の多くが回答する環境開示の仕組みです。日本でも日経225構成企業のほとんどが回答しており、2026年は540を超える金融機関が4万超の組織に開示を求めています。海洋の項目は、その質問書に初めて組み込まれました。

2026年の回答受付は、6月中旬に始まります。

 

「海洋モジュール新設」ではなく、自然分野の拡張

表現には少し注意が要ります。

CDPは今回の変更を「独立した海洋モジュールの新設」とは説明していません。公式の整理は、自然分野のカバー範囲を海まで広げる、というものです。
実際の質問書でも、まったく新しい区画が立つのではなく、既存の各モジュールの設問に、海洋に紐づく回答選択肢が加わる形になります。

海を、森林や水と並ぶ自然分野の一領域として、既存の枠組みに組み込んだ、と読むのが正確です。

 

2026年サイクルでの海洋は、任意・非採点です。回答してもスコアには反映されず、回答しなくてもスコアが下がるわけではありません。CDPはこの扱いを、企業が海洋開示に慣れるための移行期間と位置づけています。
背景には、海洋データを求める市場の声があり、金融機関の側から開示を促す動きも出ています。

一方で、水産、海運、沿岸観光、海洋再生可能エネルギーなど、海への依存や影響が大きい業種には、回答が特に推奨されています。

非採点という言葉だけを見ると様子見の項目に映るかもしれませんが、CDPは、スコアの有無にかかわらず、開示されたデータが投資家や取引先に利用されると説明しています。海洋と同じく、プラスチックや生物多様性も2026年は非採点のまま据え置かれており、採点されない領域が即座に重要でない領域を意味するわけではない、という整理になっています。

海の設問が具体的に何を問うのかも、輪郭が見えてきています。海洋生態系への依存と影響、バリューチェーンの中で海洋関連リスクにさらされやすい重要拠点、そして海への環境負荷を下げる目標。気候や水ですでに問われてきた論点を、海という領域に置き換えて並べたもの、と考えると見取り図をつかみやすいかもしれません。

 

TNFDの領域区分が、回答実務に近づいた

置きどころを考えるうえで補助線になるのが、TNFDです。TNFDは自然を陸・淡水・海・大気という領域で捉えます。自然関連の開示は、森林・生物多様性・水資源が先行し、海は越境性や因果の見えにくさから、後ろに置かれがちでした。CDPが海を加えた動きは、TNFDが示してきた領域の分け方が、企業の回答実務の側に一歩近づいたもの、と位置づけられます。

思い出しておきたいのは、海に関係する企業が水産業や海運業に限られない、ということです。海上輸送、海洋由来の原材料調達、沿岸部の拠点、排水を通じた海域への影響まで含めると、食品・商社・化学・素材・小売・物流・建設・不動産・金融まで、多くの企業が直接または間接に海とつながっています。

 

散らばった環境情報が、「海」で交わる

ひとつだけ、実務の補助線を添えておきます。海の情報は、水資源・廃棄物・プラスチック・生物多様性・社会貢献といった別々の場所に分かれて置かれてきました。任意・非採点のうちに、分散した既存情報を「海」という一本の線で束ね直して眺めてみる。採点が始まる前のいまは、その作業に向いた時期にあたります。

CDPが海を問いに加えたことは、海洋開示の義務化を意味するものではありません。ただ、これまで別々の項目に散らばっていた環境情報を、「海」という視点でつなぎ直す合図ではあります。

 

ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

記事一覧へ