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今こそ、海について考える ②海は「自然」ではなく「インフラ」だった——企業活動と海の意外な関係

TNFD / 勉強用(初学者様向け) / 水資源 / 自然資本

この記事の3つのポイント

  • 海は「守るべき自然」であるだけでなく、物流・食料・気候・防災を支える経済インフラでもある
  • 企業が海を「遠い環境問題」としてではなく、「劣化すると事業に響く基盤」として捉え直すことが重要になっている
  • ESRS E3など制度面でも、水だけでなく海洋資源への依存・影響を開示する方向へと議論が進み始めている

 


 

前回は、海が長い間「企業から遠い問題」として扱われてきた背景を整理しました。

文化的な思い込み、制度設計の偏り、公海という法的空白——それらが重なり、海は後回しにされ続けてきた。

今回は、「なぜ後回しにできなくなってきたのか」の前段として、海が実際にどれほど経済活動の基盤になっているかを整理します。

結論を先に言えば、海は「守るべき自然」であると同時に、経済活動を支える巨大なインフラです。

 

まず「ブルーエコノミー」という言葉を知っておく

漁業、海上輸送、沿岸ツーリズム、洋上風力発電など、海に関連する経済活動の総体を「ブルーエコノミー(海洋経済)」と呼びます。その規模は年間約2.3〜3兆ドル、世界の財とサービスの最大5%に相当するとも言われています。

「海の話はどこか遠い」という感覚があるなら、まずこの規模感を頭に置いておくことが出発点になります。

海が担う四つのインフラ機能

海のインフラ機能は、大きく四つに整理できます。

第一に、物流インフラ。

世界の貿易量の約80%は海上輸送が支えています。² 港湾の閉鎖、海上ルートの混乱、海運コストの急騰——2020年代前半の経験は、サプライチェーンの海への依存を改めて実感させるものでした。

 

第二に、食料インフラ。

世界で30億人以上が海洋由来のタンパク質や生計の恩恵を受けています。

飼料や食品加工まで含めれば、「漁業と無関係」と思っている企業も、調達経路をたどると海と無縁ではないことに気づくはずです。

 

第三に、気候インフラ。

海は人間活動由来のCO₂の約30%を吸収し、地球に蓄積された余剰熱の大半を取り込んでいます。気候変動を語るとき、その安定化を担う海の存在が抜け落ちているなら、議論の前提に穴があるとも言えます。

 

第四に、防災インフラ。

マングローブ林やサンゴ礁、湿地帯は高潮や嵐の波エネルギーを吸収し、被害を軽減します。沿岸に工場や物流拠点を持つ企業にとって、こうした生態系の劣化は事業継続リスクに直結します。

 

「インフラの劣化」として語り直す

「自然環境の保護」と言うと、どこか遠い。しかし「インフラの劣化」と語り直せば、話はぐっと実務的になります。道路が傷めば物流が止まり、電力網が不安定になれば工場が止まる。それと同じ論理が、海洋生態系にも当てはまります。

プラスチック廃棄物による海洋経済への損失は年間130億ドルとも試算されています。⁴ しかもその多くは、現時点では誰もコストを払わないまま蓄積する「先送りされた損失」です。発生源のひとつが企業活動であるなら、責任が問われる日は決して遠くありません。

 

制度が動き始めている

最後に予告をひとつ。欧州のサステナビリティ報告基準(ESRS)では、「水(Water)」だったトピックが「水および海洋資源(Water and Marine Resources)」(ESRS E3)へと拡張されています。⁵ 単なる名称変更ではなく、海洋生態系への依存・影響、海洋資源リスクの財務的影響までが開示対象として明示されました。

制度が「海をインフラとして扱え」という方向に動いている——次回は、そのことをもう少し具体的に見ていきます。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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