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【ニュース走り書き】内部通報者保護へと一歩前進?
報復人事に刑事罰導入の可能性

コーポレート・ガバナンス / コンプライアンス

通報者が特定され不利益をこうむってしまう現行制度

最近、Transparency(透明性)関連のお仕事に携わっていることもあり、私、内部通報制度には強い関心があります。

 

このブログでも、今年9月、内部通報制度の実効性に関する以下3つの記事を書き、

 

内部通報制度の実効性向上をさまたげているのは、「通報者の特定と報復」を可能にしてしまう現在の制度だ、というお話をいたしました。

 

内部通報担当者の守秘義務に違反した場合でも、刑事罰は「30万円以下の罰金」に過ぎないのです。また、刑事罰の対象は「担当者(個人)」であり、企業等が不利益取り扱いの禁止に違反した場合などの罰則はありません。

 

これが、同時期の国際水準と比べていかに「緩い」ものであるかは、2019年12月に成立したEU公益通報者保護指令*1 と比較することで見えてきます。

 

EU公益通報者保護指令では、通報を理由とした通報者への報復(停職・降格・転勤・減給・一時雇用契約の不更新等)は禁止されています。

 

そして、通報者が受けた不利益取扱いに関する訴訟において、通報者が通報を行った事実及び不利益取扱いを受けた事実を立証すれば、当該取扱いは通報への報復として行われたと推定されます。

 

この場合、このような不利益取扱いの措置が「通報以外の理由に基づくものである」ということは、「措置を行った者が」立証しなければなりません。

 

(つまり、事業者側が立証責任を負うことになります。日本はその逆で、通報者が事業者を相手に裁判を起こした場合、通報との因果関係を「通報者自身が」立証しなければなりません)

(出典:当ブログ「内部通報制度、その課題と実効性向上策③公益通報者保護制度の課題と最近の状況」)

 

ついに報復人事を行った「企業側」にも刑事罰を導入か

この問題、どうにかならないものか…と常々考えておりましたところ、昨夜(11月5日夜)、日経電子版に速報が入ってきました。

消費者庁が6日の会合で公益通報者保護法改正に向けた素案を示す。刑事罰は解雇のほか、減給や降格といった懲戒処分など「不利益性が客観的に明確で労働者への影響が大きい取り扱い」を対象に導入するとした。

(出典:日経電子版 2024年11月5日『内部通報者の不利益処分に罰則案 「報復人事」に歯止め』)

 

ええと、明記されてはいませんが、これは、「企業等が不利益取り扱いの禁止に違反した場合」に罰則を設ける、という意味ですよね。

であるならば、一歩前進、と考えてよいと思います。

 

もっとも、経団連からの強い反対などもあり、刑事罰の対象は「不利益であることが客観的に明確で、かつ労働者の職業人生や雇用への影響の観点から、不利益の程度が比較的大きいものに限る*1」とされるなど、いろいろと限定がつきそうな雰囲気も出ているところが気になりますが。

 

そもそも「不利益処分」という言葉を使ってよいものか

ちなみにですが、

行政法を少々学んだことのある私といたしましては、そもそも、報道の中で、企業における報復人事を「不利益処分」と書いていることに納得できないでおります。

 

検討会の今後の議論は、具体的にどのような不利益処分を対象とするかがポイントとなる。

一般的に不利益処分には解雇や懲戒処分、降格、減給が挙げられる。解雇も形態に応じて普通解雇や懲戒解雇、諭旨解雇と分かれ、懲戒処分も譴責(けんせき)や戒告などの軽い処分から解雇や減給、出勤停止などの重い処分まで様々だ。降格や減給も本人の能力や成果に応じて行われるものもある。

(出典:日経電子版  2024年11月6日『内部通報「報復人事」抑止へ罰則 対象行為の範囲が焦点

 

なぜ私が「不利益処分」という言葉にひっかるかと申しますと。

同じ人事でも、国家公務員の場合は、「職員は、懲戒処分やその意に反して免職、休職、降任、降給などの処分を受けた場合、人事院に対し審査請求ができ」ることになっています*2

と申しますか、国家公務員の人事に限らず、行政庁の行った処分又は不作為に不服がある場合には、行政不服審査法に基づいて、不服を申し立てる(審査請求をする)ことができるのです*3

そこまでセットになっていてこその「不利益処分」だと私は思っておりますので、「審査請求」ができない企業人事に「不利益処分」という単語を使うのは不適当ではないか…と思っていたりします。

 

・・・・失礼しました。
最後は少しアツク語ってしまいましたが…

まずはこの件、年内にまとまるとのことですので、続報を待ちたいと思います。

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:日経電子版  2024年11月6日『内部通報「報復人事」抑止へ罰則 対象行為の範囲が焦点

*2 出典:人事院ホームページ「国家公務員の公平審査制度

*3 出典:総務省ホームページ「行政不服審査法の概要

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