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内部通報制度、その課題と実効性向上策②
制度の実効的な運用を阻害する要因とは

コーポレート・ガバナンス / コンプライアンス

このシリーズ・前回のブログでは、

消費者庁が2023年後半、内部通報制度に関する3種類の大規模調査を実施したことをお伝えしました。

今回のブログでは、
これら3種類の調査から消費者庁が導き出した、

内部通報制度の実効性を阻害する要因と、経営トップへの提言

の内容をご紹介したいと思います。

 

(以下、出典は、消費者庁「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析  ‐ 不正の早期発見・是正に向けた経営トップに対する提言 ‐ 」(令和6年3月)

 

実効性阻害要因と提言①:規範意識の鈍麻

(1)内部通報制度の実効性を阻害する要因

内部通報が行われなかった要因↓

  • 問題となる行為が従前から繰り返されていたこと
  • 法令に違反するとの確信のなさにより、その行為を問題視しない又は正当化する独自の規範意識が形成されたこと(規範意識の鈍麻)
(2)経営トップへの提言
  • 以下のような取組みを通じ、従業員が、どのような行為が法令に違反するかの具体的なイメージを持ちながら、安心して不正に声を上げられるよう、定期的な研修・教育を実施するとともに、経営トップからもメッセージを発信する。

- 自社の業務内容を踏まえて想定される具体的な不正行為事例の紹介
- 同業他社で発覚した不正行為の周知

 

  • 新たに配属された者の方が、問題意識を持ちやすいことから、例えば、新規採用・異動者に対するコンプライアンス研修の一環で、アンケート調査やヒアリングを実施するなど、新規採用・異動者からの通報を促す施策も有効。

 

【筆者よりひとこと(サステナビリティ開示の観点から)】

(1)の「規範意識の鈍麻」については、職場のダイバーシティや、スピークアップできる文化・環境づくりとあわせて記載できると良さそうです。

 

(2)については、コンプライアンス研修や施策について記載する際、新規採用・異動者向けのものをフィーチャーするのも一つの方法かと考えました。

 

実効性阻害要因と提言②:内部通報窓口の問題

(1)内部通報制度の実効性を阻害する要因

内部通報が行われなかった要因↓

  • 窓口の利用者の制限の問題
    (例:グループ子会社が親会社に通報する手段や海外子会社の従業員が日本語以外で親会社に通報する手段がなかった)
  • 上司への報告が内部通報の前提条件であると誤解されるような形での制度の周知
(2)経営トップへの提言

グループ会社の従業員等が安心・信頼して通報できるよう、以下のような体制を構築し、グループ会社の従業員等にも広く周知することが必要:

  • グループ会社の従業員等からの通報を受け付ける体制
  • 具体的な内部通報の方法、手続きの周知(前提条件があると誤解されない、わかりやすい形での周知)
  • グローバルな事業展開をしている場合、通報窓口の多言語対応
  • 通報者が、匿名性を保ったまま通報窓口とコミュニケーションできる体制の構築

 

【筆者よりひとこと(サステナビリティ開示の観点から)】

(2)について、内部通報制度の周知や窓口の多言語対応については、開示の際に記載をおすすめすることが(個人的に)多いのですが、今後は「具体的な内部通報の方法、手続きの周知」についても、状況に応じておすすめしていきたいと思いました。

 

実効性阻害要因と提言③:制度に対する認識の欠如

(1)内部通報制度の実効性を阻害する要因

内部通報が行われなかった要因↓

  • 従業員が制度の存在を認識していなかった
  • 制度の対象はパワハラ等の労働問題であり、問題となった不祥事は対象外であると誤解していた
(2)経営トップへの提言

従業員が安心して不正を通報できるよう、以下のような取組みを通じて、定期的・継続的な研修・教育や情報発信を行う:

  • 制度の意義・役割や受け付ける通報の対象範囲を説明
  • 周知方法の工夫(例:ポスターの掲示、携行カードの配布、ロールプレイング要素を含む研修など)
  • 従業員の制度の理解度を定期的に確認(例:研修後の確認テストの実施やアンケート調査など)

 

【筆者よりひとこと(サステナビリティ開示の観点から)】

(1)の「制度の対象はパワハラ等の労働問題であり、問題となった不祥事は対象外であると誤解していた」は、職場で起きがちな誤解であるように思います。

(公益通報者保護法についての理解が広まっていれば、こうした誤解も減るかもしれないのですが…)

なお、公益通報者保護法を参照すると、通報できる事例は意外に多いことがわかりますので、このあたりを周知すると良いかもしれません。
(出典:政府広報オンライン

 

(通報対象となる行為の具体例)
– 部長が会社の資金を横領している
– 自動車修理工場で自動車を故意に傷つけ、保険金を不正請求している
– 役員が業務委託先の社員に性犯罪行為をしている
– 安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売している
– 残業代の不払いや労災隠しをしている
– 産地表示を偽装して別の産地を表示して商品を販売している
– リコールに相当する不良車が発生したにもかかわらず、虚偽の届出をしている  など

なお、上述の政府広報オンラインでは、公益通報の対象とならない通報についても

 

「労働法のルールが適用され、権利の濫用と認められる出向命令や懲戒、解雇などは無効となる場合があります。経営者は、法令違反行為全般、自社の内部規程違反に関する通報や相談も積極的に受け入れて調査・是正し、通報者を不利益な取扱いから守る姿勢を示すことが望ましいでしょう」

 

としています。

 

実効性阻害要因と提言④:内部通報を妨げる心理的要因

(1)内部通報制度の実効性を阻害する要因

内部通報制度に対する従業員の主な懸念↓

  • 通報者として特定され、不利益を被る懸念
  • 不正行為に関与している者などが内部通報対応に従事しており、実効的な調査が行われない懸念
(2)経営トップへの提言

経営トップが、内部通報により不正を早期発見することで、問題が大きくなる前に不正に対処できるという組織にとっての意義を理解し、その意義を従業員等に対し、継続的かつ積極的に発信する。
(Tone from the Top)

 

従業員が通報後のプロセスをイメージできるよう、以下のような取組みを実施し、制度に対する信頼の確保に努めるべき:

  • 経営トップのメッセージ発信や定期研修による、通報を理由とする不利益取扱い禁止の周知
  • 通報者を特定する情報に法律上の守秘義務があることの周知や情報共有の範囲
  • 管理方法等の具体的な周知
  • 窓口の社外設置や社外取締役等の関与
  • 不利益な取扱いや情報漏洩、通報者の探索を行った者などに対する懲戒処分など厳正な対処
  • 通報者が特定されない調査方法の工夫

 

【筆者よりひとこと(サステナビリティ開示の観点から)】

「犯人(通報者)探し」なんて、そんなことするわけないのでは?と思う方がおられるかもしれませんが…最近のニュースで言えば、兵庫県知事らをめぐる内部告発では「通報者捜し」の疑いが指摘されています。

この点については、次回のブログでもう少しくわしくお伝えしたいと思います。

 

実効性阻害要因と提言⑤:内部通報後の不適切な対応

(1)内部通報制度の実効性を阻害する要因

内部通報があったにも関わらず、報告を受けた者の思い込み(バイアス)や調査担当者の権限・能力不足、大事になることを避ける目的から、適切な対応が取られなかった事例がある

(2)経営トップへの提言
  • 内部通報窓口及び調査担当者(「従事者」)のモチベーションと能力の向上
    (適切な人選と研修・教育)
  • 調査担当部署に十分な調査権限や独立性を付与
    →他部署に対し、調査への協力を周知
  • 内部通報窓口以外への報告・通報が適切に処理されるよう、通報対応を明確化し、全部署を対象とした定期的かつ継続的な研修・教育を行う
    (例:職制上のレポーティングラインへの報告、ホームページのお問い合わせフォームへの連絡)

 

【筆者よりひとこと(サステナビリティ開示の観点から)】

「内部通報窓口及び調査担当者(「従事者」)のモチベーションと能力の向上」という観点はこれまで持ったことがなかったのですが、考えてみれば実にもっともなことです。この指摘は(個人的に)大変勉強になりましたので、今後のクライアント企業様への質問や開示等に活かしていきたいと思います。

 

次回は、公益通報者保護法をめぐる最新の動向をお伝えします

以上、ご紹介が長くなってしまい恐縮ですが、

なかなかご覧になることのない報告書と存じますので、内容が今後のご参考となりましたら幸いです。

 

さて。

「④:内部通報を妨げる心理的要因」へのコメントにも記載しましたが、

このシリーズのブログ・次回は、公益通報者保護制度をめぐる最新の動向をお伝えしたいと思います。

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子

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執筆者

  • 代表取締役 福島 隆史

    公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。

  • 川上 佳子

    中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。