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HINTサステナ情報のヒント

サステナビリティ開示の一環としての税務開示③
PRIが推奨する税務開示の内容とは

サステナ開示をめぐる動向

引き続き、「税務開示」をテーマにお話をしてまいります。

ここまでの内容は:

第1回:サステナビリティ開示の一環としての税務開示①全体像の把握におすすめの資料

第2回:サステナビリティ開示の一環としての税務開示②OECDと「税の透明性」

 

さて今回からは、サステナビリティ担当者さまのご関心が高いであろう内容、つまり、

企業には今、税務開示としてどのような内容が求められているのか

について考えていきます。
(PRI、GRI、OECDなどを参照し、最後に全体をまとめていきますので、ここから数回に分けて書く形になると思います)

 

本日のブログではまず、PRI(責任投資原則)による提言をご紹介します。

 

PRIの税への取り組み

PRIは2015年以降、世界中の機関投資家と共同で税の透明性をテーマに取り組みを続けています。*1 

2015年には、「Engagement guidance on corporate tax responsibility」を公表しました。PRIのホームページを見ると、2016年には特に多くの「税」に関する記事を掲載しています

2017年には投資家が企業と対話をするためのガイダンスを公表し、投資家からみた企業開示の問題点を整理するとともに、企業が情報開示すべき要素をまとめた「Investors’ recommendations on corporate income tax disclosure」を公表し、提言しました*1

 

税務開示に関する「提言」の内容

「企業には今、税務開示としてどのような内容が求められているのか」を知る手がかりの1点目として、今回は、PRIの「Investors’ recommendations on corporate income tax disclosure」を読み解いてみます。

この提言は、

  • Policy(方針)
  • Governance and Risk Management (ガバナンスとリスクマネジメント)
  • Performance(税務パフォーマンス)

の3分野に分かれていました。

以下、それぞれの内容をご紹介します。

■Policy(税務方針)

開示に関する提言の1点目は、取締役会レベルの代表者が署名した税務方針(tax policy)です。

税務方針には、自社の税務に対するアプローチと、そのアプローチが事業戦略およびサステナビリティ戦略とどのように整合しているかを示すようにと記載されています。

税務方針に含めるべき具体的な内容としては以下が挙げられています。

 

  • 法人税に関する組織と取締役会の見解:
    特に会社の全体的な収益性および広範な経済的影響について

 

  • 会社の税務構造と戦略の全体像:
    利益が計上される場所と、その場所で実際に行われている商業活動の具体的な根拠を含む
    (例:グループ内で移転価格がどのように設定されているか、また、該当する場合にはタックスヘイブンがどのように利用されているか)

 

  • リスク:
    許容できる慣行と許容できない慣行の例、そして主要な税務リスクについて説明し、税務活動に関する会社のリスク許容度を明示

 

  •  ステークホルダーとの関係:

①税務方針がステークホルダーの信頼をどのように保護し、事業活動を支える仕組みとして機能し、企業価値や行動規範とどのように整合するかについての議論

②税務当局やその他のステークホルダー(消費者や市民団体など)との現在の関係。また、ステークホルダーとの関わりが税務方針に影響を与えたか

 

  • アドボカシーとロビー活動:
    租税に関するアドボカシー活動やロビー活動について説明
    (含:租税政策に積極的な業界団体の一員であること)

 

  • 開示や報告について:
    ①法律を解釈し、曖昧な点への対処方法を説明
    ②税務関連事項をカバーする第三者基準やガイドラインへの言及を含める
    ③継続的かつ透明性のある税務関連報告を行うことへのコミットメント

※見出し(例:「法人税に関する組織と取締役会の見解」)は原文にはありませんが、内容の理解促進目的で私が付けたものです。正式な内容は、原文をご参照ください。

■Governance and Risk Management(税務ガバナンスとリスクマネジメント)

提言の2点目は、ガバナンスとリスクマネジメントです。

 

  • 取締役会の責任:

①税務ガバナンスは、取締役会のリスク管理の責任範囲に含まれる
(税務方針の遵守を維持するための明確な責任と仕組みの設定を含む)

②取締役会は、税務方針の趣旨に対するステークホルダーの意識や反応を把握し、税務アプローチが会社のブランドや評判に及ぼす影響について議論を行う

③取締役会は少なくとも年1回、税務方針と税務戦略を見直す
(取締役会の下にある、リスク評価を担当する委員会だけでなく、取締役会自身が実施)

 

  • 社員に対し、会社が提供すべきこと:

①税務と全体的な企業戦略との関連性についての定期的な研修とガイダンスの実施
(対象は、税務戦略の実行に直接関与していない人員も含むすべての社員)

②税務戦略に背く活動や決定について通報できる仕組み(内部通報チャネル)の整備

※見出し(例:「取締役会の責任」)は原文にはありませんが、内容の理解促進目的で私が付けたものです。正式な内容は、原文をご参照ください。

■Performance(税務パフォーマンス)

3点目は、税務に関するパフォーマンス――具体的には、税務戦略や税務関連リスク、国別活動に関する税の透明性を高めるための情報開示などの状況についての提言です。

 

  • 事業を展開する国や地域での状況:

①地域別の売上構成に基づく実効税率と加重平均法定税率との乖離の主な要因
(特に、採用されている主要な税務戦略――知的財産権や移転価格の役割がある場合、その詳細を含む――およびそれらの戦略に関連する潜在的な規制変更に重点を置く)

②グループ内の借入金残高(債務が存在する国およびその債務に対して子会社が支払った平均金利を含む)

③ 各国・地域から提供される最も財務的に重要な税制優遇措置(例:租税免除)
(各優遇措置の終了期限、投資要件、およびその優遇措置が更新されない可能性に関するコメントを含む)

④国別報告の詳細
(全子会社のリストとその事業内容(OECD-BEPS の該当するテンプレートに準拠したもの)を含む)

 

  • 税務戦略:
    税務上の利益残高(未計上)の増加につながる新たな税務戦略

 

  • 税務当局との関係:
    税務当局との間で、現在進行中の係争

※見出し(例:「事業を展開する国や地域での状況」)は原文にはありませんが、内容の理解促進目的で私が付けたものです。正式な内容は、原文をご参照ください。

ここまでお読みいただいた方、ありがとうございます。

今回は PRIの「Investors’ recommendations on corporate income tax disclosure」の内容紹介だけとなってしまい申し訳ありません。

ただ、私が調べた限りでは、この資料の内容をきちんと紹介しているところは他にあまりなさそうに見えますので、今回のブログには資料としての意義があるのではと期待しております。

 

次回は「税の公平性」に関してPRIが2021年に発表したディスカッションペーパーをご紹介していきます。

 

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上佳子


*1 出典:【QUICK ESG研究所】「ESG課題としての「税の透明性」:拡大する投資家エンゲージメントと企業の情報開示」(2021年2月26日)

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