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日本企業が統合報告書やサスレポを
CSRD/ESRSに沿って作ることは想定されていない?

開示基準等 / 開示媒体

昨日(8月1日)、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第3回) 議事録が公開されましたので、資料とあわせて目を通しました。

その中で、「欧州CSRD等の海外制度に基づくサステナビリティ情報の開示を海外に向けて行った場合」に関する議論が気になりましたので、本日はこの件を皆さまにご報告したいと思います。

 

事務局の臨時報告書&法定開示推しに対し、委員の皆さんの反応は

資料を見ると、日本企業が海外で「CSRD等」(と書いてありますが、実際にはほぼイコールでCSRD/ESRSを想定していると思われますので、以下ではCSRDと記載します) の開示を行った際に、国内では

  • 臨時報告書で
  • 法定開示する

ことを、金融庁としては推しているようですね。

 

(出典:金融庁「第3回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」事務局説明資料(2024年6月28日)p12)

 

これに対し、委員の皆さんからは結構な反対が寄せられていました。

論点1:そもそも海外で行ったCSRD開示を国内でも開示する必要があるか

この点からすでに、意見が分かれていたのが印象的でした…

※以下は読みやすくするために議事録の内容を編集しておりますので、正確な内容については議事録および意見書をご参照いただけますようお願いいたします。

賛成意見
  • 昨今、国内の機関投資家含めインパクト投資が1つの大きなテーマになっており、また大きく広がっているので、ESRS等のインパクトマテリアリティに基づいた開示は有用な開示になり得ると思う
  • 海外で開示した情報を日本の投資者に対して提供しないでよいとすることは金融商品取引法が定める開示規制の目的からは不適切。
    (中略)
    国内投資者が外国投資者より少ない情報しか得られないという制度は合理的ではありえないと思われ、外国で開示した情報をそのまま(当該開示に用いられた言語で)臨時報告書で開示することは最低限要求されるべきなのではないか(理由:この最低限であれば、企業にとっての追加的費用や手間はきわめて小さいものと思われるから)。
反対意見
  • CSRDの開示を行った場合、日本の臨報でそれの中身を全部開示せよという御提案については全く受け入れられない。そんなことになるのであれば、外国で開示したものを日本の開示とするというのは、日本の開示基準を検討する必要がないことになってしまうのではないか
  • CSRDは報告の連結範囲がISSB基準と異なっていたり、報告主体も欧州子会社が開示するケースもあり得る→利用者のサイドでも混乱が起こるということもあるのではないか
論点2:臨時報告書という法定開示にする必要があるか

特にこの点に反対意見が多かったように、私には読み取れました。

反対意見
  • そもそも日本の有報でサステナビリティ開示を強制している=本質的にはそこで必要な情報は開示されているはず。にも拘わらず、海外で別基準で開示したものを日本でさらに開示せよ法定開示の枠組みで義務づけるというのはトゥマッチなのではないか
  • サステナビリティ情報についての虚偽記載に関する認識がまだ不明瞭で、共通認識になり切ってはいない状況においては、金商法上の虚偽記載のエンフォースメントによって企業の開示を萎縮させるおそれがあり、開示内容に影響が出る可能性があるため、臨時報告書として提出することに反対
    (代替案として、企業のホームページで日本語の要約を任意開示する方法など、実務面を考慮した対応が適当ではないか)
  • 有価証券報告書というのは投資家保護の観点から、重要なサステナビリティ情報は開示されているはずであり、臨時報告書の用途としてもそぐわないのではないか。また、エンフォースメントの観点でもやや過度な開示をしなければならないことや、虚偽記載が発生した場合にどうなるのかも考える必要があるのではないか。
    (代替案として、企業がCSRDで開示を実施したとの情報を金融庁がリスト化して開示するなど、別の周知を行う方法も考えられるのではないか)
  • 性質上臨時報告書の趣旨に該当すると思えない。
    (代替案:「好事例」として任意開示を促せば良いのでは?)
  • 海外の開示情報が国内でも同じように公表され、共有されるべきではないか、という意見は一般論としては分かるが、それが開示の萎縮につながりかねないことも、同時に考えなければならない。
    (代替案として、臨時報告書を「情報へのアクセスを保障する」手段として使うという考え方はどうか)

 

「統合報告書等」でCSRD開示という話は議論されなかった

反対意見が思ったよりずっとアツイものでしたので、少々気圧されてしまいましたが…… 個人的には、CSRD/ESRSは国内でも開示されたほうが良いと思っております(ただし、任意開示の形で)。

もちろん、ISSBの今後の追加テーマ検討やインターオペラビリティの進捗によるところはあると思いますが、現状を見る限り、CSRD/ESRSの内容をISSB&SSBJですべてカバーできるとはあまり思われないですから…

 

委員の皆さまも、主に反対されているのは「法定開示」「臨時報告書」の部分でしたので、今後はCSRD/ESRSについて統合報告書等での任意開示の方向でも検討が進むのかもしれませんが、少なくとも今回のワーキング・グループ会合ではその点にはまったく触れられなかったようです。

なぜだろう…

と思ったところで、はたと気が付きました。

任意開示の話はもしかすると、経済産業省 企業会計室が事務局をつとめる「企業情報開示のあり方に関する懇談会 」の守備範囲なのかもしれないと…

 

と、それは私の邪推でしかありませんので、これ以上掘り下げるのは控えることにし、引き続き今後の議論の進展を見守っていきたいと思います。

 

なお、2024年に入ってから、CSRD/ESRSのEarly Adopterの企業群が発行したアニュアルレポートや統合レポート、サステナビリティレポートの事例が少しずつ出始めていますので、まずはこれらを研究し、学ぶことを私自身の「夏休みの宿題」にしたいと思います。

 

本日も、お読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

 

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