統合報告書やサステナビリティレポートに携わっておられる企業担当者さまに、ぜひ知っておいていただきたい報告書があります。
名前は、「企業情報開示のあり方に関する懇談会 課題と今後の方向性(中間報告)」(以下、「中間報告」と記載します)。
経済産業省 企業会計室が事務局をつとめる「企業情報開示のあり方に関する懇談会 *1」が6月25日に発表した資料です。(資料の入手はこちら)
この「中間報告」では、“企業情報開示の目指す姿”として2つの案が示されています。
ひとつは、任意開示としての統合報告書を維持する形。
(=「イメージ案1」)
そしてもうひとつは、統合報告書の内容を法定開示に取り込んでしまう形です。
(=「イメージ案2」)
イメージ案1と2、どちらが実現に向かうのかは、もちろん現時点ではわかりません。ただ、個人的には「案2」の可能性が高いのではないかと思っています。
理由は、以下の3点です。
①懇談会の議論で案2を支持する声が「比較的多かった」と書いてある *2
②「企業情報開示のあり方に関する懇談会」はその立ち上げ当初から統合報告書の問題点を複数指摘していた *3
③「中間報告」においても統合報告書の課題がさらに指摘されている *4
と、ここまでお読みいただいたことで、もしかすると「将来的になくなってしまうのなら、今、頑張って作っている統合報告書は意味がないものだってこと?」と心配になった方がおられるかもしれませんが…
ご安心ください。
そんなことはありません。
イメージ案2でも、統合報告書の重要な内容 (例:ビジネスモデル、価値創造プロセス、戦略に関する情報、トップメッセージ、取締役メッセージ等) は法定開示書類の中にしっかりと残っています。
つまり、担当者さまが今、工夫をこらし、労力をかけて作っておられるコンテンツは、媒体が法定開示書類になろうとも、引き続き活かされることになるはずです。
「中間報告」を含め、企業情報開示のあり方に関する懇談会では、現在の統合報告書に関する課題をいくつも挙げていますが、それらはつまるところ、情報の「質」にかかわる課題の指摘とみることができます。
懇談会の目的(下記*1をご覧ください)は、「企業価値の向上に資するには、どのような開示体系に基づく/どのような情報開示が望ましいのか」を議論することにあります。
つまり、「中間報告」等で指摘されている統合報告書の課題は、企業価値向上に役立つ「質の高い」情報開示へのヒントであり、それを前向きに受け止めて、ひとつひとつのコンテンツのありかたや書き方を真剣に検討していくことが、今、担当者さまにとっては重要なことではないでしょうか。
本ブログでも、そのご参考のひとつとしていただけるよう、具体的なご提案を続けていきたいと思います。
今日はなんだか堅苦しい話になってしまいましてすみません。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで!
川上 佳子
*1:企業情報開示のあり方に関する懇談会について
背景・問題意識:
企業の情報開示に、今、重複の存在や企業側の負担が指摘される一方、企業価値評価には不十分との指摘も出ている。
→ 企業・投資家等双方にとって効率的かつ効果的な開示のあり方を検討することが必要ではないか?
目的:
主に①開示体系、②サステナビリティ情報を含めた企業価値向上に資する情報開示の観点から、日本企業の情報開示の課題について議論
→企業価値の向上に資するには、どのような開示体系に基づくどのような情報開示が望ましいのかについて議論を行う
開催実績:
2024年4月30日/5月1日・7日/6月5日/6月14~21日(書面審議)/6月25日(中間報告)
内容の公開:
議論… 原則非公開(率直かつ自由な意見交換のため)
資料… 事務局作成資料については、原則として公開。資料等はこちらから
*2:「イメージ案1・2について議論を行ったところ、今回の懇談会では、一つの法定開示書類により多くの情報を盛り込む体系であるイメージ案2を目指すべきとする意見が比較的多く挙げられた」
*3:2024年5月上旬に開催された第1-A/B回の事務局資料として提示された「日本の企業情報開示の特徴と課題」では統合報告書の問題点として下記を挙げ、特に2~5の結果、投資家の企業情報収集や比較分析に支障をきたしていることへの懸念を示していました。
1. 情報の重複(有報、ガバナンス報告書などと同じ内容を繰り返し開示)
2. 報告書の一体化が不十分
3.ガバナンス情報の分散
4. 非財務情報の不足
5. 統一されたフレームワークの欠如
*4:「中間報告」では、統合報告書の課題として下記が挙げられていました。
1. ステークホルダーのニーズを満たしていない可能性(制作側の懸念として)
2. 情報の重複 → 情報収集コスト
3. 情報の分断
4. 発行時期の不一致(有報発行から数か月後に統合報告書を開示
5. 企業側の費用と労力負担の大きさ
6. アナリスト予想精度向上に寄与していない可能性
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。