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トランプ政権下でも後退しないPFAS規制 —— ESG経営に問われる、企業と地域の信頼設計とは

品質・安全 / 水資源

この記事の3つのポイント

  • 米国では政権交代後もPFAS規制が強化され、「環境」ではなく公衆衛生と国家リスクとして扱われている
  • 日本では対応が遅れているが、2026年に向けて水質基準の法定化や企業責任の明確化が進む見通し
  • 企業に求められるのは、「対応」ではなく地域社会との信頼を再構築する姿勢の可視化では

 

本記事は、以下ブログの関連記事です。未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。

「永遠の化学物質」PFAS。飲料メーカーのサステナビリティレポートでは開示されているか?2025年2月25日)
フライパンの「例外」はいつまで続くか――PFAS規制と企業戦略、ISSB/SSBJ開示との接続を考える①(2025年9月16日)
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テフロンを食べてダイエット?! ――イグノーベル賞から考えるPFASとサステナニュースの語り方2025年9月25日)

舞台でよみがえる「企業と地域」の物語

先日、下北沢で「高知パルプ生コン事件」という演劇を観てきました。

(ご参考リンク)高知パルプ生コン事件 | 演劇集団・燐光群

 

高度経済成長期に起きたこの事件は、公害史の一頁というよりも、企業と地域社会との関係をどう築くかという、現代のESG経営にも通じるテーマを描いた出来事でした。

この舞台の脚本は、この「高知パルプ事件」と、現在問題となっているPFAS(有機フッ素化合物)汚染を重ね合わせる構成になっていました。
観終えた後に強く感じたのは、「これは50年前の話ではなく、今まさに私たちのESG経営が直面している課題そのものではないか」ということでした。

 

トランプ政権でも止まらない、米国のPFAS規制

気候変動政策では規制緩和が進むアメリカですが、PFAS(有機フッ素化合物)への規制に関してはそうではありません。

2024年、EPA(米国環境保護庁)は飲料水におけるPFASの基準値を4ppt(4ng/L)と定め、史上初めて法定化しました。さらに、PFOA・PFOSをスーパーファンド法(CERCLA)上の「有害物質」に指定。違反すれば浄化費用の負担義務が生じます*1

 

興味深いのは、この方針が(政権交代後の)トランプ政権でも維持されているという点です。

現在は基準自体は維持したまま、遵守期限の延長をEPAが表明(提案段階)しつつ、実効性を高める方向で調整が進んでいます*2

なぜそうなるのか——それは、PFASはもはや「環境問題」ではなく、公衆衛生と国家リスクの問題としてとらえられているためです*3*4

 

日本では、まだ「静かな」段階にあるが…

一方、日本では…

PFASの暫定目標値はPFOA+PFOS=50ng/Lで*5、米国基準(4ng/L)と比べて10倍以上緩い水準です。

超過が確認されている地点は、報道等を調べた限りでは、大阪府摂津市周辺東京都多摩地域沖縄県の一部、そして岡山県内の一部地域(例:吉備中央町御津地域など)にあるようです。

ただし、行政の対応はモニタリングと事業者への聞き取り・対策要請が中心で、原因企業の特定や補償の議論には至っていません。
米国のような訴訟フェーズに発展していない背景には、法制度の違いに加え、健康影響の可視化と社会的合意形成が途上であることも大きいと感じます。

 

とはいえ、日本でも変化の芽が

日本ではまだ法定化されていないPFAS基準ですが、
以下のような動きがすでにあり、2026年にかけて加速していきそうに見えます。

  • 環境省・厚労省が水質基準の法定化と引き下げを検討(暫定から本基準へ

  • 大阪・岡山などで周辺事業者への対策要請・モニタリングの強化

  • 市民団体・弁護士会による集団訴訟の検討・準備の広がり

  • ESG評価機関の一部は「有害物質管理・製品安全」の評価枠組みでPFAS対応を注視*6

現状は、法制度よりも先に、社会と市場が動き始めています。

企業にとっては「まだ義務ではないから」ではなく、
「信頼が問われ始めている」段階だと認識することが大切ではないでしょうか。

見えない汚染、見えない関係

高知パルプ事件も、PFASの問題も、本質は「見えない汚染」だけではなく、
「見えない関係の劣化」にあるように思います。

企業のサステナビリティとは、単に有害物質を減らすことではなく、地域と共に未来を描く信頼の設計にほかなりません。

自社は地域との信頼関係をどう築いているか?
見えないリスクへの対処だけでなく、「見えるかたちの安心」をどう届けているか?
PFASをめぐる動きは、私たちにそうした問いを投げかけているように思います。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:内閣府資料EPAホームページ

*2 出典:EPAホームページ

*3 NIHのホームページによれば、米国人の大多数(約97%)の血中からPFASが検出されているそうです。

*4 3Mは米公的水道事業者向けに最大約103億ドルの和解で最終承認(出典:3Mリリース)。デュポン/ケマーズ/コーテバの水道向け包括和解は約11.85億ドル(出典:デュポンリリース)。

*5 環境省リリース「『水質基準に関する省令の一部を改正する省令』及び『水道法施行規則の一部を改正する省令』の公布等について」(2025年6月30日)

*6 出典:Sustainalytics「Regulating ‘Forever’ Chemicals: Examining Company Readiness and Investor Risk」(2023年8月10日)

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