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この記事の3つのポイント
この連載の第1弾では、フランスでのPFAS規制において「フライパン」が例外扱いされた事例を起点に、各産業における“不可欠性”の線引きや、例外措置がもたらすリスクを考察しました。
今回の続編ではそこから一歩進み、「PFAS規制を機会に変えている企業は、実際にどのような取り組みをしているのか?」を見ていきたいと思います。
「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS(有機フッ素化合物)は、分解されにくく、環境や人体への影響が懸念されています。欧米を中心に規制強化が進むなか、企業にとっては調達や製品設計の見直し、製造中止、さらにはサプライチェーンの混乱といったリスクが現実化しつつあります。
一方で、こうした規制を新たな商機と捉え、技術革新や市場開拓に踏み出している企業もあることをご存じでしょうか。PFAS規制を「制約」ではなく「起点」として活かす動きが、さまざまな業界で加速しています。
ISSBやSSBJが求める「リスクと機会の開示」においても、この「機会」の部分をどう描くかが、投資家や社会に対する説得力を大きく左右します。
PFAS規制が進むなかで、すでに代替技術の実装や新市場の獲得につながっている事例がいくつも出てきているようです。日経クロステックが現在連載中の記事には、こうした事例が豊富に掲載されています*1。以下に、要点をまとめました。
EVの熱マネジメントには従来、PFAS系の冷媒が使用されていましたが、代替としてCO₂冷媒「R744」への移行が進んでいます。フォルクスワーゲンは2030年までに全車種でR744を採用すると宣言。これに対応する形で、部品メーカーは高圧対応のホース素材を開発し、材料メーカーはPTFEに代わる摺動材を供給し始めています。
ダイキン工業は、PFASを使わないフッ素ゴムの生産技術を確立し、半導体・自動車用途への展開を進めています。AIやマテリアルズ・インフォマティクスを活用することで、材料開発のスピードと精度も向上しています。
王子ホールディングスはPFASフリーの耐油紙「O-hajiki」を市場投入し、米国FDA規格にも適合した新製品を展開。京セラはセラミック加工フライパンを「PFASフリー」としてリブランディングした結果、売上が前年比2倍以上に伸びたと報じられています。
前編で紹介した「フライパンの例外措置」が長く続かない可能性を示したとおり、こうした代替商品への移行は“リスクを機会に変える”戦略として現実味を増しています。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)やSSBJ(サステナビリティ基準委員会)の開示基準では、「リスク」と「機会」の両面を開示することが求められています。
従来の開示はリスク寄りになりがちでしたが、上述のPFASに関する事例のようなケースは、機会の開示が投資家との信頼関係構築にも資する可能性の高さを示しています。
① 新製品・新市場の獲得
代替冷媒やPFASフリー包装材など、「規制に適合した製品」が市場競争力を持つようになっています。
② 技術開発力の強化
AI・MI(マテリアルズ・インフォマティクス)を活用した素材開発が進み、研究開発投資の正当性も説明しやすくなっています。
③ 国際競争力の向上
米国FDAなど、海外の規制対応をいち早く進めることで、輸出や提携のチャンスも広がっています。
この連載前編でお伝えしましたように、「例外を得たから安心」ではなく、例外が消える前提で備えておくことこそが、開示でも戦略でも問われます。
たとえば、
「当社はPFASフリー素材の実用化に向けた開発・顧客連携を進めています」
「新規格への適合により、新しいBtoBの取引が生まれています」
といった実例ベースの説明などは、投資家からの信頼につながるでしょう。
PFAS規制のように、製造、素材調達、営業、法務、IRまで関わるテーマでは、部門横断的な連携が不可欠です。「規制→代替→市場」という流れを、ストーリーとして開示に落とし込むことが求められます。
ISSB基準では、「規制が強化されるシナリオ」「例外措置が撤回されるシナリオ」などを前提に、事業への影響を可視化することが推奨されています。複数の未来を想定し、自社の対応可能性を検証する視点は、ますます重要となるでしょう。
PFAS規制は確かに企業にとっての制約であり、一部ではコスト増や事業見直しを伴うものです。
けれども、規制は同時に市場の秩序を再編し、新たな競争軸をつくる“触媒”でもあります。
ISSBやSSBJの開示基準が求めているのは、単なる回避の説明ではありません。
「規制があったからこそ、企業がどのように新たな価値を生み出そうとしているか」――そのストーリーをどう描くか。
そこにサステナビリティ開示の真価が問われるタイミングがすぐそこまで来ているように思います。
守りの要素が強い「リスク」の開示に比べて、部門横断的・全社的、時には業種を超えた視点までもが要求される「機会」の開示は、サステナビリティ担当者さまにとって、ハードルが高いと感じられるところも多いかと存じます。
このテーマについては今後も、このブログにて、角度を変えて採り上げていきたいと存じます。
引き続きご愛読いただけましたら幸いです。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:日経クロステック「PFASフリーに商機あり、自動車や日用品にも代替品開発の波 代替品開発の最前線(後編)」(2025年9月12日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。