生成AIやクラウドサービスの普及は、私たちのビジネスや日常生活を劇的に変えています。
一方で、データセンター(以下、DC)の電力消費も爆発的に増加し、環境負荷が深刻化しています。
大型DCは、大量の電力を消費します。
報道*1によれば、千葉県印西市では、2022年度に環境省へ排出量を報告した大型施設15カ所の合計だけでCO2は年32万トンに達したそうで、これは電力消費量から推計される市内の総排出量の約半分にあたるのだそうです。
こうした電力需要に対応するため、原発再稼働や増設の議論も加熱してはいますが、いずれにしてもCO2排出削減は待ったなしの課題です。
また、東京都昭島市では新規DC計画に対し、CO2排出量が住民の懸念を引き起こし、計画修正を求める住民監査請求にまで発展しています*1。
地域社会との信頼構築(Social License to Operate:SLO)の観点からも、DCの環境負荷低減は極めて重要な課題です*2。
解決が難しいと思われるこの課題にも、希望の光と思われるものはあります。
それが再生可能エネルギー(再エネ)です。
再エネを活用すればCO2削減に加え、DCのエネルギー効率を示すPUE(Power Usage Effectiveness)も改善できます。DCを利用する企業の立場からも、グリーンなDCを選ぶことでScope3の排出量削減やリスク低減につながる可能性があります。
今回のブログでは、PUEと再エネの可能性、そして企業として実践できる具体的な行動について考えていきます。
そもそも、PUE(Power Usage Effectiveness)とは何でしょうか。
PUEとは、DCのエネルギー効率を測る指標です。
施設全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値で、1に近いほど効率的です。日本の平均は「1.7」で、国の目標は「1.4」ですが、Googleなどの世界的な先進企業は1.1以下を実現しています*1。
しかし、AIの計算負荷が増すと、GPUなどの高消費電力機器が増え、PUEが悪化するリスクがあります。生成AIのトレーニングには膨大な電力が必要であり、効率化されなければコストとCO2排出が急増します。
PUE改善は環境対策とコスト抑制の鍵となり、空調効率化やサーバー配置最適化に加え、再エネの導入が注目されています。再エネ導入により冷却電力を減らすことができれば、間接的にPUEを低下させる効果が期待できるのです。
こうした中、再エネは、DCのサステナビリティを高める有力な手段として注目されています。
ソフトバンクは、2026年度に北海道苫小牧市で国内最大級のDCを稼働させ、その電力を100%再エネで賄う計画です。北海道は電源の4割が低炭素であり、国の助成金活用によりコスト面でも優位性があります*1。このような事例は、地域の経済活性化にも貢献し、「DCは迷惑施設」といった現行のイメージ払拭に役立つ可能性があります。
またグローバルでは、Googleが2030年までに全DCを24時間低炭素電源で運用する目標を掲げ、風力や太陽光との直接契約(PPA)や蓄電池の活用で低PUEと安定供給を両立しています*1。
しかし、再エネ導入には課題も残ります。発電量が天候に左右されやすく、安定した電力供給のための蓄電池やバックアップ電源に伴うコスト増が避けられません。また、日本国内では送電網整備の遅れや都市部の再エネ供給不足も課題となっています。
こうした課題の克服には政府やDC事業者の対応だけでは限界があり、利用する企業側からの需要が高まることで再エネの普及やインフラ整備が加速される可能性があります。そのため、企業が意識的に「グリーンなDC」を選ぶことの重要性が、今後は増していくのではと考えられます。
多くの企業様は自社でDCを所有してはいませんが、クラウドサービスを利用する以上、DCの環境対策は他人事ではありません。
サプライチェーン排出量(Scope 3)の削減やESG評価向上を目指す企業にとって、DC事業者の環境対応状況を確認することは重要な経営課題です。環境効率の高いDCの利用は、サービスコストの低下、地域住民との良好な関係構築(SLO)の促進など、ビジネスにも直接的なメリットをもたらします*2。
企業様として実践可能なアクションの例を以下にリストアップしてみました。
■DC事業者の選定基準の明確化
… PUE 1.4以下、再エネ利用率50%以上、環境認証(RE100等)の有無を基準化
■事業者への問い合わせ
…契約前にDCの再エネ利用割合やPUE実績を直接確認
■社内提案の準備
…グリーンなDC選定が投資家や顧客評価向上に直結する点を強調
AIの電力需要増大は避けられません。再エネ導入にはインフラやコストの課題がありますが、企業の意思決定が事業者の取り組みを促進します。利用企業の小さな行動が、DC業界の未来を大きく変える契機となります。
今回のブログが、環境負荷の低減に向け「グリーンなDCを選択する行動」を検討される一助となりましたら幸いです。
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本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:日経電子版「データセンター省エネ15%止まり 難題の環境対策、再エネ・分散が解」(2025年7月15日)
*2 詳しくは当ブログの2025年5月14日付記事『データセンター建設の地域受容には「SLO」が効果的?──社会との信頼構築の新しい視点』、2025年4月9日付記事『スコープ3(Scope3)のその先へ──AI時代の「使う責任」と企業の静かなリスクについて考える』をご参照ください。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。