DX / サプライチェーン / ステークホルダー / リスクマネジメント
DX——それは、効率性、スピード、利便性──いずれも企業の競争力を高めトランスフォーメーションを実現する鍵であり、特に、高齢化と人手不足が加速する日本経済と日本企業においては不可欠なものです。昨日(4月8日)の日経電子版には「AIは内製化の波が来る」という見解も載っていました。
こうして生成AIやクラウドサービスが急速に普及する中、今、全国でデータセンターの建設が進められています。
それは企業のDXを推進し、レジリエンスを高める上で重要なことではあるのですが、その背後には——サステナビリティ担当者さまは薄々感じておられるように——騒音や排熱といった外部不経済が存在しています。
最近では「データセンターは迷惑施設なのでは」といった声や反対運動も少しずつ顕在化しつつあります。
サステナビリティ担当者さまにおかれましても、そろそろこうした動きにも目配りを始められるとよいかもしれないと思いましたので、本日はこのテーマで少しお話いたします。
今、海外のビッグテック企業は日本におけるデータセンター建設を加速させており*1、政府もこれを成長戦略の一環として積極的に後押ししています。
経済産業省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」の会議資料には、再生可能エネルギーの活用や地方分散といった前向きなキーワードも並ぶ一方で、サステナビリティ——特に地域社会や環境への影響に関する視点は、政策文書の中ではまだ十分に扱われているとは言えません。
だからこそ、サステナビリティ担当者のみなさんにとっては、「直接関与していないように見えるところに、目配りをしておく」ことが、ますます重要になってきているのでは、と私は考えております。
冒頭でご紹介しました日経記事にもあるように、都市部や住宅地の近くでのデータセンター建設をめぐって、地域住民との摩擦や反対運動が起きています。これはまだ限られた地域の話かもしれませんが、遠からず「どこでも起きうること」になる可能性はあると言えるでしょう。
こうした社会的リスクが顕在化してからでは遅く、いまのうちに静かに目を向けておくことが、将来の説明責任を果たす準備にもなります。
過去を振り返ってみれば、「使う側」にも責任があるという考え方は、徐々に広がってきたことをご記憶のサステナビリティ担当者さまは、多くおられることでしょう。
たとえば、ファッション業界ではサプライチェーン上の労働問題がブランド評価に直結するようになり、紛争鉱物の調達では「使っているだけ」の企業にも説明責任が課されました。クラウド選定などの調達においても、再エネ比率など「環境の観点」、さらには「社会的な観点」をもってパートナーを選んでいるか?はESG評価機関からも求められるようになっています。
サステナビリティ担当者さまがご存じのこうした「過去の経験」は、データセンターに関しても「いずれ来るであろう」未来と、そこで問われる説明責任に備えるためのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
では、いま私たちができることは何でしょうか?
まずは、 データセンター利用に関するCO2以外の環境影響(騒音・熱・土地利用など)について、関心を持つこと。
そして、たとえばクラウドサービス事業者やITベンダーとの対話の中で「施設の立地選定や地域との関係性について、どのような配慮をしているか」を質問項目に含めること。
調達要件の中に“地域配慮”という観点を検討事項として入れておく——それだけでも、御社の「企業としての姿勢」は伝わるでしょう。
とはいえ、すべての企業さまが上記をすぐに「要件化」までもっていけるわけではないことも承知しております。
その場合、まずはサステナビリティ担当者さまからの働きかけにより、IT系の調達においても「地域社会への配慮についてどのように考えているか」といった問いを対話の中で投げかけてもらえるように依頼するのはいかがででしょうか。こうした小さな問いかけが、将来的な調達方針の進化につながっていきます。
スコープ3(Scope3)開示に対応することは大前提としつつも、これにとどまらず、変化する企業戦略に対応して「共生へのまなざし」を持ち続けること。将来的に顕在化しうるリスクに敏感となり、企業内でアラートをあげ、戦略の中で見落とされがちな点に企業全体で目を向けられるようにすること――こうしたサステナビリティ担当者さまの気づきと行動こそが、レピュテーションリスクの発生を未然に防ぎ、企業の信頼基盤を強くすることにつながると私は信じております。
最近では、サステナビリティレポートでAIガバナンスについて言及する企業さまが増えてきました。
統合報告書でもDXの活用と価値創造プロセスを語ることが常識となりつつあります。
こうした流れの中で、情報インフラであるデータセンターの存在をサステナビリティの新たな論点としてとらえることも、ぜひ今年、ご検討いただければと思います。
サステナビリティの報告とは、「いま問われていること」だけでなく、「いずれ問われるであろうこと」に対しても誠実に向き合う営みです。
外部不経済のすべてを完全に解消することは難しいかもしれません。しかし、「それを認識し、説明し、対話しようとする姿勢」こそが、サステナビリティ担当者さまに求められる役割であり、その重要性は増す一方であると私たちは考えます。
当社では、サステナビリティレポートや統合報告書の企画・編集・制作を多数ご支援しています。
AIやDXの活用が進むなかで、“見えないインパクト”にもしっかり目配りできるレポートづくりをサポートいたします。
ご相談やお問合せはこちらからお気軽に。
本日も、お読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 現状を把握する上では、たとえば下記の記事などがご参考になると思います。
- 電波新聞「1兆円規模相次ぐ 米大手ITが日本に投資 生成AI引き金に」(2024年4月6日)
- 日経電子版「Microsoft、日本でAIデータセンター稼働 4月中旬」(2025年3月27日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。