生成AIやクラウドサービスの普及とともに、国内でもデータセンター(DC)の建設ラッシュが進んでいます。しかし最近では、地域住民の強い反対を受け、計画が難航するケースも増えています。
参考記事:
東京・日野の自動車工場跡にデータセンター計画、地元に不安や戸惑い(日経電子版、2025年5月13日)
データセンターの活用は今後、あらゆる企業において重要性が増していく中、その外部不経済が地域にどう受け止められているかはひとごとではありません。
参考記事:
スコープ3(Scope3)のその先へ──AI時代の「使う責任」と企業の静かなリスクについて考える
こうした状況を踏まえ、本日のブログでは、
企業が地域住民との良好な関係を築くための考え方のひとつとして、
「社会的受容性(Social License to Operate: SLO)」
という概念の有効性について考えてみたいと思います。
SLO (Social License to Operate)とは、事業者が法的・行政的な許認可とは別に、地域社会やステークホルダーから自主的かつ継続的に獲得する信頼や承認のことです。
SLOは具体的な書面や契約として与えられるものではなく、地域社会との継続的な対話や信頼関係の構築プロセスそのものを指します。
この概念は2000年代初頭から、鉱山開発やエネルギー施設の建設など地域に大きな影響を及ぼすプロジェクトにおいて重要視されるようになりました。
地域住民がデータセンター建設に対して抱く主な不安は以下の通りです。
このように大きな影響を与えることをかんがみれば、地域社会の理解を得る上でのSLOの有効性が見えてきます。
SLOを実現するために推奨される具体的な行動としては、たとえば下記などが挙げられるでしょう。
電力使用量、再エネ導入率、騒音影響、環境への影響を定量的にリアルタイム公開
地域の電力需給の安定化を目的とした再エネ設備や蓄電池導入など具体的施策を提示
地元企業への優先発注、地域活性化のための具体的な仕組みを導入
計画段階から地域を巻き込み、定期的にフィードバックを取り入れて信頼関係を築く
データセンターでSLOを活用し、地域社会との良好な関係を築く経験は、今後、CO2地中貯留(CCS)、水素エネルギー利用、大規模再生可能エネルギー施設、洋上風力発電など、今後広く社会に導入される脱炭素技術の受容を促進する際にも役立つと考えられます。
鉱山開発分野における研究からも明らかなように、地域受容性は「配分の公正さ」「手続きの公正さ」「企業への信頼」などの要素で構成されます。データセンターの事例を通じてSLOの取り組みを進めることで、これらの要素に対する企業の理解や対応力を高めることができます。
データセンターの社会受容を効果的に進めるには、地域社会から継続的に信頼を得るための戦略的な枠組みが必要です。そこで、企業がSLOという概念を導入し、地域社会との透明で継続的な対話を進めることを提言します。
SLOを活用したデータセンター建設の経験は、将来、他の脱炭素技術の導入や地域社会との協働を進める際の大きな資産となるでしょう。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。