前回に続き、今回も、ダボス会議前に発表されたレポートから、興味深いグラフィックをご紹介していきます。
今回とりあげるのは、「仕事の未来レポート」です。
The Future of Jobs Report 2025
このレポートは、個人にとっての影響という面にフォーカスして紹介される(例:今後、需要が増えていく職業は?スキルは?)ことが多いのですが、今回は「企業の皆様にとって」ご関心が高そうな部分に絞って、興味深い図表をご紹介してみたいと思います。
最初に気になったのは、この2つの図表です。
日本は、高齢化と生産年齢人口の影響をより強く受ける国であり、かつ、生産年齢人口増加の影響は受けにくいため、これからますます人材の確保が難しくなっていきます。
人材確保の難しさを他国と比べた場合、どのあたりに位置するのか。
…かなり下のほうですね。
すぐ下には、ドイツがあります。
(ドイツといえば、フォルクスワーゲンをめぐるあれこれが思い出されます…)
では、人材確保が難しいならば、どうするか。
もちろん、企業としてはさまざまな施策をとるわけですが、それが働き手側(従業員)の認識とズレている場合もある、ということも示唆されていました。
企業(雇用主)側が人材の獲得と定着のために行う/重視する施策に対し、従業員(被雇用者)側はどう思っているのか。従業員としては「どんな施策があれば」働き続けたいと思うのか。
その視点の「ギャップ」を明確にしているグラフィックです。
日本語仮訳をつけておきましたのでそのまま読み取っていただけるかとは存じますが、せっかくですので、レポートの該当部分もご紹介しておきますね。(日本語は私の仮訳です)
Where employees’ reasons to stay and employers’ practices align include: improving talent progression and promotion processes (employer rank 3rd vs. employee rank 2nd), offering higher wages (employer rank 4th vs. employee rank 3rd),and providing remote or hybrid work opportunities(employer 6th vs. employee 4th).
従業員の定着理由と雇用主の施策が一致しているのは、
・人材育成と昇進・昇格プロセスの改善(雇用主は3位、従業員は2位)
・賃上げ(雇用主は4位、従業員は3位)
・リモートワークやハイブリッドワークの提供(雇用主6位、従業員4位)
このあたりは予想通り、といったところでしょうか。
The findings also highlight areas of misalignment between employee and employer expectations.
The divergence is most pronounced around supporting health and well-being and upskilling and reskilling, which are viewed as essential by employers, but less so by employees, who rank them 8th and 7th, respectively.
最も顕著な乖離が見られるのは、
・従業員の健康とウェルビーイングのサポート
・効果的なリスキリングとアップスキリング
の分野です。企業側はこれらを不可欠なものと捉えていますが、従業員はそうは考えておらず、それぞれ8位と7位にランク付けしています。
うーん、確かに「社内での」リスキリング研修に期待をする従業員の方々はあまり多くないのかもしれません…。
By contrast, employees place higher value on working hours, which tops the list of desired policies, while employers rank this measure the eighth most effective strategy to boost talent availability; and pension policies, which rank 5th for employees –10 places higher than for employers.
一方、従業員は労働時間の方をより重視しており、希望する政策のリストのトップに挙げています。一方、雇用主は人材確保に有効な戦略として、この施策を8番目に挙げています。
年金制度の変更と定年延長は、従業員にとっては5番目ですが、雇用主にとっては10番目と、両者の間には大きな開きがあります。
健康やウェルビーイングの施策に力を入れるより前に、労働時間をもっと短く!ということでしょうか(このあたりは切実な気がしております… サステナビリティ担当者様は特に、業務のご負担が重そうです…)。
Both employees and employers placed less emphasis on supporting workers with care-giving responsibilities and articulating business purpose and social impact.
介護を担う従業員の支援や、事業のパーパスとインパクトの明確化については、両者ともあまり重視していません。
介護に関しては、(日本のように)高齢化が進んでいる国とそうではない国とで調査結果に差が出るのかなとは思いますが…。
パーパスとインパクトの明確化は重視されていない!というのは、確かにホンネではあるのかもしれません(サステナビリティの業界に身を置く者としてはさみしさもありますが)。
上記ではごく一部しかご紹介できませんでしたが、このレポートにはまだまだ読みどころがあります。
たとえば、「組織変革の障壁となる要因」を説明したこちらのグラフとか。
「組織文化と変化への抵抗」が2位にあることなどは、興味深い結果です。
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それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。