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社外取締役の報酬について、レポートではどう説明すれば良いのか?

コーポレート・ガバナンス

前回のブログでは日立製作所様(以下、「日立製作所」と記載します)が社外取締役向けの株式報酬制度を導入するとの日経記事について考えたことを書きました。

さまざまな論点を含むテーマでありましたため、なるべく話を単純化して書くように心がけたこともあり、お読みいただいた方の中には

社外取締役への株式報酬導入は、投資家が反対するのではないか?

との疑問をお持ちになった方もおられたかもしれません。
(説明不足で申し訳ありません…!)

 

そこで今回は、この疑問(想定質問?)にお答えする意味合いも込めて、社外取締役の報酬をめぐる見解についてご紹介するとともに、サステナビリティレポートや統合報告書にどう書けば良いのかについて考えていきたいと思います。

またもやカタい感じのお話になってしまいますので、少しでも読みやすくするため、Q&A形式で書いてみます↓↓

 

Q1:社外取締役への株式報酬導入に投資家が反対するって本当?

A:
確かに、そういった事情もあるようです。

野村総合研究所が経済産業省の委託事業として実施した「日本企業のコーポレートガバナンスの実質化に向けた実態調査(令和5年度)」(*1)(以下、「実態調査」と記載します)には、以下のようなヒアリング結果が記載されていました(*2)。

【企業側のコメント】
社外取締役に株式報酬を渡すうえでネックとなっているのは、国内の投資家が否定的であることである。株主と目線を一致させる意味で、悪くない取組だと考えている。

当社では、従業員に関しては、一部の管理職だけ株式報酬を与えているが、もっと広く与えるべきだと考えている。監査等委員や社外取締役にも株式報酬を与えることを検討しているが、機関投資家からの強い反対があるため導入できていない。社外取締役が株主目線を共有するという点で意義があると考えているので、機関投資家においても考えを改めてほしい。

【投資家側のコメント】
社外取締役に対して株式報酬を付与することにより、社外取締役の目線が執行と一緒になり、果たすべき役割を果たせなくなるという懸念がある。
アメリカの場合はCEO以外が社外取締役のケースも多く、この場合は取締役会と株主のアライメントが重要なので、社外取締役に株式報酬を交付することが重要な役割を果たす。他方で、日本は社外取締役が取締役会の過半数でない企業が大半であり、そのような企業においてアメリカのようなロジックは当てはまらないと考えている。
今後、社外取締役過半数の企業が普通になってくれば、一定の株式報酬はあってもよいと思う。

 

 

Q2:「社外取締役に株式報酬を付与すると社外取締役が役割を果たせなくなる」という投資家の懸念を有識者はどう考えているか?

A:
「実態調査」でのヒアリング調査報告には、以下のような意見が記載されていました(*2)。

【学者のコメント】
社外取締役にもある程度の株式報酬は渡した方が良いと考えている。固定報酬とすると、継続して社外取締役として就任するために思い切った発言ができない可能性があるので、株主の利益を考慮するのであれば、むしろ株式報酬比率を上げた方が良いと思う。

【有識者のコメント】
 株主の目線を共有するためにも、社外取締役にも間違いなく株式報酬は入れるべきだ。機関投資家からはネガティブな意見が多いようだが、認識を改めるべきだと思う。

 

 

Q3:Q1では「株式報酬→社外取締役の目線が執行と一緒になるから役割を果たせない」とあり、Q2では「固定報酬→思い切った発言ができない(から役割を果たせない)」とあった。どう考えれば良いのか?

A:
難しい問題ですが、ここでは、「サステナビリティレポートや統合報告書などの開示媒体に書く時、どのように書けば理解を得られるのか」という視点に絞ってお答えしたいと思います。

 

Q1とQ2の意見はどちらも「社外取締役が役割を果たす」ことを目的としている点では共通しています。そのために、どのような報酬の形をとることが有用なインセンティブになるのか?という手段の部分では見解が異なっていますが、目指しているところは同じとみることができます。

 

となれば、開示を担当する企業担当者さまにおかれては、投資家や有識者等の提示する“手段”を気にすることなく、

自社の取締役会はどのような形をとっていて、それはなぜなのか

その中で、社外取締役にはどのような役割を担ってほしいのか

どのような人を選び、どのような報酬体系としているのか
期待する役割について社外取締役に明確に伝えているか
(*3)
社外取締役のサポートや研修等はどのようにしているのか

 

が全体像として見えるような説明を目指せばよいのではないでしょうか。

 

(ガバナンス報告書等を基に)直接のご担当部署さまが用意してくださる原稿は、制度等がぶつ切りで説明されている状態(のまま)となっていることも多くあるかと存じます。

これを「全体としてどのように見せれば、読者に意図が伝わるのだろうか」という視点で “編集” していくことこそ、サステナビリティレポートや統合報告書を制作される担当者さまの活躍の機会と存じます…!(もちろん、お声がけいただければ私どもも精一杯お手伝いさせていただきますのでご安心ください)

 

===

少し長くなってしまいましたので、今回はここまでとします。

次回のブログは、今回の続きで

Q:そもそも社外取締役にはどのような役割が求められているのか?
Q:社外取締役への株式報酬をすでに導入している企業の事例を教えてほしい

などにお答えしていきたいと思います。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1:報告書およびデータは、経済産業省ホームページ上のリンクから取得できます。

*2:「実態調査」p142より

*3:「実態調査」p66によれば、社外取締役に対して期待する役割を就任時に共有している企業は75%であったのに対し、定期的に共有している企業は38%、期待する役割が変更された際に共有している企業は9%となっています。

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執筆者

  • 代表取締役 福島 隆史

    公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。

  • 川上 佳子

    中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。