コーポレート・ガバナンス / コンプライアンス / サステナビリティ・ガバナンス / リスクマネジメント
サステナビリティ開示をお手伝いする中で、私たちは、企業様の税務方針を確認することもよくあります。その中で気が付くのは、国内企業さまの税務方針は総じて「守り」の姿勢のものが多いということです。
もちろん、税務当局との良好な関係や透明性を重視することは非常に大切ですし、
「税の透明性」と「当局への協力」は、OECD多国籍企業方針(第11章納税)でも強調されていますので、これらが強調されるのは当然であるとも言えるでしょう。
しかしながら。
近年の国際税務環境の変化を見ると、それだけでは十分とは言えない場面が増えてきているように思えます。
「守り」だけでは対応できない新しい課題にどう向き合うべきか。そのヒントとなるのが、企業自らが積極的にリスクを管理し、戦略を立てる「攻めの税務方針」です。
今回のブログでは、最近注目されるデジタル課税の課題にふれつつ、企業が今後どのように税務方針を進化させていくべきなのかを考えてみたいと思います。
読者さまの中には、「そもそも、デジタル課税って何?」と思われるかたもいらっしゃると思いますので、まずはこのご説明から。
デジタル課税とは、国境を越えて提供されるデジタルサービスに対する課税ルールのこと。多国籍企業がサービスを提供した国(利用者がいる国)に対して利益の一部を課税する仕組みです。
デジタル課税は自国内に店舗や工場などの拠点を持たない企業にも課税できるようにする仕組み。現状では巨大IT企業が各国で事業展開して利益を上げていても物理的な拠点がないと課税できない。税収はIT企業の本社が多い米国に集中しがちだ。新たな多国間条約により税収配分の国際的なゆがみを是正する。
(出典:日経電子版「OECD、デジタル課税の条文案発表 年内署名目指す」(2023年10月11日))
各国21年10月にデジタル課税の導入に関して合意されたのは、2021年10月のことでした。その後、条約締結に向けて議論が続けられ、2023年7月には条約の大枠と年内の署名が決まったのですが…多くのグローバルIT企業を抱える米国の姿勢が消極的ということもあり、進捗が遅れていました。
※このあたりの状況や背景については、当ブログの過去記事「サステナビリティ開示の一環としての税務開示②OECDと「税の透明性」」にも書いておりますので、よろしければご参照ください。
なぜ、米国の動向がそこまで重要なのでしょうか。
それは、デジタル課税は、租税条約への米国の批准がなければ制度が適用開始とならず、米国の条約批准には上院の3分の2の賛成が必要となるためです。そして先の選挙において、上院選は過半数を共和党(そもそもOECDの国際課税改革を支持していない)が獲得しました。
つまり、デジタル課税の導入はさらに不透明感が増した…というのが現在の状況です。
これにより予想されるのは、(OECDの統一ルールに基づいて、ではなく)「各国がそれぞれ独自のデジタルサービス税を導入する」といった個別の動きが加速することです。
こうした状況下では、単純に「当局の意向にしたがう」税務方針は、かえってリスクを増すことにもなりかねません。
つまり、「攻めの」税務方針の必要性が増しているともいえます。
「攻めの」税務方針と書いてしまうと、少しハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし、これは「大胆な」施策をおすすめするという意味ではなく、税務リスクを正確に把握し、事前に適切な計画を立てて対応力を高めるという意味です。(個人的には、これも「税務コンプライアンス」の一部だと考えております)
たとえば、税制の変化をモニタリングする仕組みを構築することや、当局の指摘等が不当であると考えられる場合には“適切な”対応をすること、あるいは、適切なタックスプランニングを通じて税務コストを最適化し、企業価値向上に貢献するとの姿勢を示すことなどは、「攻め」の税務方針の例と言えるでしょう。
こうした内容を税務方針に含め、内外に企業姿勢を示すことは、税務環境の不透明性が増している今だからこそいっそう重要ではないでしょうか。
こうした「攻め」の税務方針を整え、内外に示すことは、「税の透明性」を損なうものではなく、むしろ透明性を増すことになると、私は個人的に考えております。
本日はカタめの内容となってしまいました。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。