昨日、内部通報の話を書いたとき、東洋経済オンラインの『ビッグモーター不正が示した「内部通報」の威力 企業の報復を防ぐため通報者の保護強化を』という過去記事にも目を通していたのですが、
偶然にも、本日(11月7日)の日経電子版で、こんな記事を見つけました。
今回のブログは、この「伝承室」について思うところを書いてみようと思います。
不祥事を起こした「負の歴史」を社内教育で伝え、再発防止を目指す取り組み自体はそこまで珍しいものではありません(過去にも色々と事例があります)が、今回、損保ジャパンさんのケースで私が注目したのは、その「伝え方」でした。
損害保険ジャパンは8日、旧ビッグモーターの保険金不正請求や企業向け保険料の事前調整、情報漏洩問題を受けて、社員に教訓を伝える展示室をつくる。行政処分の内容や顧客からの声を資料や動画で残す。
(中略)
2000年代の保険金不払い問題以降を中心に、過去に受けた行政処分や経営方針、合併の動きを年表形式で掲示する。社長のメッセージや当時の新聞記事、調査報告書も閲覧できる。顧客から届いた叱責の電話音声や没入感のある映像を流し、問題に直接関係しない社員にも自分事と考えてもらえる工夫をした。
(出典:日経電子版2024年11月7日『損保ジャパン「不祥事忘れない」 社員向けに資料展示室』)太字は筆者によるもの
損保ジャパンさんの「伝承室」は、具体的かつ感情に訴えるアプローチをとっている点が革新的です。
特に「顧客からの叱責音声」や「当時の映像」を取り入れ、社員が過去の不祥事をリアルに感じ取れるように工夫しているところは、今回の事件を、単なる教訓の記録に埋もれさせず、個々人が責任を意識するきっかけにしようとの思いが見て取れます。
ちょっと話はそれますが、
日経電子版記事の「没入感のある…」という表現について。
没入体験(イマーシブ・エクスペリエンス immersive experience)という言葉は、ここ数年、アートやエンターテイメントの分野で多く聞かれるようになりました。
今、従来の枠を越えた新しいアート展として人気を集めているのが「没入型デジタル展覧会」。360度すべての壁面と床面をシームレスにつなぎ合わせ、アート作品をベースにして作り上げた映像を投影。音楽や効果音、光、香りなどの要素を加えて、来場者に圧倒的な没入感を体験してもらおうとするプログラムだ。
この新しいエンタメに世界各国の企業が参入し、魅力的なプログラムを次々に生み出している。今のところ呼び方はまちまちで、「没入型デジタル展覧会」「イマーシブミュージアム」「体感型デジタルアート劇場」などと独自に銘打っている。
(出典:JBPressオートグラフ2024年7月31日「コロナ禍で進んだアートの新しい見せ方、世界中で大ヒットを記録する「没入体験型」アート展が日本上陸|没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ 東京展」が日本橋三井ホールで開幕」)
今年(2024年)だけでも、「モネ&フレンズ・アライブ」やイマーシブミュージアム 東京など、さまざまなイベントがありましたので、「行ったことある!」というかたもいらっしゃるかもしれません。
こうしたイマーシブ展示の良いところは、過去に生きたアーティストの見ていたであろう世界を、目の前の現実であるかのように体験できるところだと、私は思っています。
話題を戻しますと:
イマーシブな展示には、「昔のことだから、今さら経験できない」「(同時代に生きていても)自分は直接出逢わなかったから、今さら体験のしようがない」といったできごとを、リアルに実感させてくれる強みがあります。
(広島市の原爆資料館も、このようなイマーシブ展示の強みを取り入れてリニューアルしたことは記憶に新しいです)
損保ジャパンさんでも、実際にはあの事件のことを知らなかった、体験していないという従業員の方々のほうが多いはず。そういった人たちに、また、今後、会社に関わっていく人たちに、どうやって「負の歴史」を伝えていくか。
単に「過去の不祥事があった」という知識を超え、当時の状況や影響を深く理解し、自身の行動を変える動機付けとしてもらえるか。
今回の「伝承室」の設計と設置は、そういったことをさまざま考えた上でのことだったのだろうと、私はこの記事を読んで考えました。
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「MYパーパス」という画期的取り組みで、「人」の面で先進的取り組みを続けてこられた損保ジャパンさんが、「伝承室」や(こちらも記事にあった)「反省月間」などの取り組みを血肉として、企業風土の変革と企業の信頼回復、倫理的判断の定着につなげることができるのか――サステナビリティに携わる者のひとりとして、引き続き関心をもっていきたいと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。