昨日の日経電子版に「JAL、イオン系ピーコックで廃食油回収 SAF原料に」という記事が載っていました。
廃食油の回収自体は東京都や区、他の自治体や企業でも実施していますし、日本航空さんのスーパーとの連携も初めてではない(第1弾はイオンだったと記憶しています)ので、なぜ今これがニュースに?と思ったのですが…
ふと、思いました。
このニュースには、(新聞の読者である)消費者への啓発の意味合いがあるのかもしれないと。
航空業界で脱炭素の本命とされている、SAF(再生航空燃料*1)。
SAFの主な製造方法はいくつかありますが、主な方法としては
・都市ゴミや廃材などをFischer-Tropsch法により製造する方法(FT)
・使用済み食用油や植物油などを水素化処理することで製造する方法(HEFA)
・バイオマス糖などのアルコールから製造する方法(ATJ)
・脂肪酸エステル・脂肪酸の熱変換・水素化処理により製造する方法(CHJ)
(出典:サステナブルタイムズbyユーグレナ「持続可能な航空燃料、“SAF”とは?その特徴や今必要とされている理由を紹介」)
の4つがあるそうです。
そして、なかでも現時点で最も普及している方法が、HEFA。つまり、使用済み食用油や植物油などを水素化処理することで製造する方法です。
使用済み食用油って、たとえば自宅で揚げ物をしたあとのサラダ油などですよね。
私自身は、使用済み食用油はこしてポットに入れて、なるべく早いうちに炒め物などに再利用するようにはしているのですが… 魚のフライや鶏手羽先の唐揚げなどを作ったときは油が汚れすぎてしまいますので、固めて捨てるしかないのが正直なところです。。。
ですから、回収してもらえてしかもそれが役に立つのであれば、みんな喜んで協力するのでは?みんなが回収に協力するのであれば、航空会社としても入手に苦労することなどないのでは…?
などと、お気楽にも思っていたのですが。
実態はそうではないようです。
クローズアップ現代では、1年以上前にこんな話が報じられていました。
引っ張りだこの廃食油
SAFの原料である「廃食油」は、飲食店から回収されます。
回収業者は以前は、処理費用を受け取り、廃棄物として引き取ってきました。しかし近年、急激に需要が高まり、今では無料。業者によっては買い取りまでするケースもあるといいます。
居酒屋経営 坪井康之さん
「回収してもらうのに『ありがとうございます』って言われちゃうくらいになりましたから。不思議な感覚ですね」回収した油をリサイクルする会社にも異変が起きています。
(中略)
「いきなり海外のブローカーからメールがくることもあります。SAF向けに輸出するために集めようとするという人たちがやたらと増えてきているからですね。まさに奪い合いみたいな感じになっています」
出典:NHKウェブサイト クローズアップ現代「2023年2月14日(火) 天ぷら油で空を飛ぶ!? 追跡!“夢の燃料”争奪戦」
「回収業者の団体によると廃食油の取引価格は、この1年あまりでおよそ3倍に高騰。国内で回収される油38万トンのうち、およそ3分の1が海外に輸出されるようになっています」とのことで、驚きました。
なるほど。
このような争奪戦が繰り広げられているのであれば、BtoBルートだけに頼らず、BtoCルートからの直接回収にも力を入れたい、と考えるのは道理なのかもしれませんね。
ただ、BtoBの回収と違って、BtoCの回収は、私たち個人の意識が高まらないと進まないのが難しいですよね。
日本航空さんがこの点、どのような取り組みをされているのかな?と思い、ウェブ検索をしてみたのですが、ざっと調べた範囲で見つけることができたのは以下の3つだけでした。
もしかすると他にもあるのかもしれませんが、もしこれだけだとしたら、消費者の理解は得にくいのかな…と思ってしまったりしました。
そこでふと思い出したのが、先日の記事「リサイクルの日に改めて学ぶ、ペットボトル問題の現在」に書いた、ペットボトルの水平リサイクルの話です。
サントリーさん*2 が企業広告シリーズ「素晴らしい過去になろう」を続けておられるように、消費者啓発に振り切った広告やホームページは、「すてる油で空を飛ぼう」を広める上で参考になるのかなと。
飲料だけでなく酒類業界でも、適正飲酒/責任ある飲酒の啓発などが参考になりそうです。
とはいえ、こうした業界横断的な取り組みにまで発展していくには、色々なハードルがありそうです。そうした動きを後押しするものは、私たち一人ひとりの意識かも…と思うと、結局どうどうめぐりになってしまうのですが…。
ともあれ、一般生活者/消費者を巻き込むサステナビリティ活動のかたちについては、今後も興味をもってみていきたいと思います。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 持続可能な原料から製造されるSAFは、従来使われてきた化石燃料と比較して、約80%の二酸化炭素排出量を軽減することができます。また、化石燃料と混合して使用することができるため、既存の航空機や給油設備などにそのまま使用できる点も大きな特長です。(出典:サステナブルタイムズbyユーグレナ「持続可能な航空燃料、“SAF”とは?その特徴や今必要とされている理由を紹介」(2022年3月14日)
*2 最新のニュースリリースは、サントリーホールディングス株式会社とサントリー食品インターナショナル株式会社の連名でした。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。