勉強用(初学者様向け) / 統合報告書 / 開示媒体
このシリーズのブログ第1回で、私は、「<IR>フレームワークの中には“ストーリー”という文字はない」と書きました。
では、
統合報告書の“教科書”とも言うべき存在である<IR>フレームワークに書かれていないにもかかわらず、
なぜ、企業の統合報告書は「(価値創造)ストーリー」に傾倒していったのでしょうか。
私は、そのきっかけとして、「伊藤レポート」が果たした役割は大きいと考えています。
企業-投資家間の対話の重要性を説いた、伊藤レポートの初版(2014年)*1。そこには、対話の素材としての「統合報告書」への期待や、その意義が繰り返し述べられていました。
2014年時点では、統合報告書を発行している企業数は、100社程度に過ぎなかった*2 ことを考えると、かなりの「プッシュ」であったことがわかります。
また、統合報告書が(価値創造)ストーリーを語る場として、複数回言及されていたことにも、私は注目しています。
投資家向けに経営者が持続的成長のためのストーリーを過去・現在・未来で語ることが重要である。統合報告に向けた取り組みはそのための有効な手段の一つになり得ると考えられる。
(出典:伊藤レポート初版*1 p74)
企業側も IR に工夫を凝らすとともに、統合報告等による企業価値創造のストーリーとの関連付けを強く意識すべきであろう。
(出典:伊藤レポート初版*1 p80)
さて。
伊藤レポートは2017年10月に「伊藤レポート 2.0」が発表されました。
これに先立つこと5か月、
同年5月に発表された「価値協創ガイダンス」は、明確に「価値創造ストーリー」にフォーカスしたものでした。
企業固有の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示・対話につなげ るためのフレームワークとして、2017 年 5 月に価値協創ガイダンスを策定するとともに、同年 10 月にこれ らの議論を取りまとめた報告書として「伊藤レポート 2.0」を公表した。
(出典:経済産業省「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0(価値協創ガイダンス 2.0)-サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)実現のための価値創造ストーリーの協創–」)
価値協創ガイダンスは、経産省の力作であったと思います。
なにしろ、
伊藤レポート初版では概念的なものに過ぎなかった「価値創造ストーリー」の「ストーリー」では何を語るべきなのか、構成要素それぞれはどのようなロジックでつながるのかを綿密に・明確に示したのですから。
経産省としても「企業と投資家の対話の内容(中身)に関する『共通言語』」と述べるなど、満を持して世に送り出した様子が見られます。
(出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」資料5 p3)
しかしながら、(少なくとも当時、)「価値協創ガイダンス」は、企業の情報開示において不可欠なスタンダードになることはありませんでした。
それはなぜか。
確信があるわけではありませんが、
TCFD提言に基づく開示が一般的となるよりも前の当時においては、
「時期尚早」と受け止められた項目は多くあったでしょう。
また、経産省の側でも「強制するものではない」ということを強調していた*3こともあり、「取り組まなくてもよいもの」と認識された可能性も考えられます。
長々と失礼しました。
本日は、
の2点をお話いたしました。
このシリーズ次回は、統合報告書がストーリー重視となっていく上で大きな役割を果たした、もうひとつのもの――日本経済新聞社さんのアウォードについて、振り返っていきたいと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 正式名称は「「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト (伊藤レポート) 最終報告書 (平成 26 年 8 月)
*2 出典:経済産業省 企業情報開示のあり方に関する懇談会 第1-A/B回 事務局資料「日本の企業情報開示の特徴と課題」(経済産業省 企業会計室、2024年5月1日・5月7日))p.41
*3 出典:経済産業省「価値協創ガイダンス解説資料」(2018年3月)p.5
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。