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価値創造「ストーリー」に力を入れることが統合報告書なのか?①

サステナ開示をめぐる動向 / 勉強用(初学者様向け) / 統合報告書 / 開示媒体

統合報告書は企業価値向上ストーリーを説明する「自由演技」の場?

統合報告書は今、企業さまにおいて、

どのような開示媒体として使われているのでしょうか。

 

今年(2024年)5月の経産省資料「日本の企業情報開示の特徴と課題」には、この点が端的に説明されています。

 

有価証券報告書で説明しきれない企業価値向上ストーリーなどを統合報告書などで説明するという活用の仕方をしている企業が多い。

有報を「規定演技」、統合報告書を「自由演技」と位置付ける企業も多い。

(出典:経済産業省  第1-A/B回 企業情報開示のあり方に関する懇談会 事務局資料「日本の企業情報開示の特徴と課題」(経済産業省 企業会計室、2024年5月1日・5月7日)p47、48) ※太字は筆者によるもの

 

要約すると、

統合報告書は、企業価値向上ストーリーを説明する「自由演技」の場。

ということのようですね。

 

ただ、

これは、

統合報告書のあるべき姿から外れている(あるいは外れる方向に行きがち)な考え方と言えます。

この点にお気づきでない(あるいはご存じでない)制作担当者さまも多いのでは…ということが、私はどうしても気になってしまうのです。

 

統合報告書には定義も、その記載内容を規定するものもあります

すでにご理解いただいている方にとっては、あまりにも当たり前のことを申し上げるようで恐縮ですが…

統合報告書は、完全な「自由演技」の場ではありません。

 

統合報告書には「フレームワーク」があります。

そしてそこには、統合報告書の「定義」や、その内容を統括する「指導原則」と「内容要素」が規定されています。

規定しているのは、IIRC(International Integrated Reporting Council,国際統合報告評議会)*1 の「国際統合報告フレームワーク (The International <IR> Framework)」です。

(※2021年に改訂されています*2ので、また見たことがない方、あるいは最新版をお読みになっていない方は、ぜひ一度ご覧いただければと思います)

 

 

「イントロダクション」から少し、引用してみましょう。

 

1A    統合報告書の定義 

1.1 統合報告書は、組織の外部環境を背景として、組織の戦略、ガバナンス、実績、及び見通しが、どのように短、中、長期の価値の創造、保全又は既存につながるのかについての簡潔なコミュニケーションである。

1.2 統合報告書は、<IR>フレームワークに準拠して作成される。

1B    <IR>フレームワークの目的

1.3 <IR>フレームワークの目的は、統合報告書の全般的な内容を統括する指導原則及び内容要素を規定し、それらの基礎となる概念を説明することである。

(中略)

1.6 <IR>フレームワークにおける価値創造は、
・価値が保全される又は毀損された場合を含む。(2.14項参照)
・長期にわたる(すなわち、短・中、長期の)価値創造と関連している。

1C    統合報告書の目的と利用者

1.7 統合報告書の主たる目的は、財務資本の提供者に対し、組織が長期にわたりどのように価値を創造、保全または毀損するかについて説明することである。それゆえ、統合報告書には、関連する財務情報とその他の情報の両方が含まれる。

(以下略)

 

…いかがでしょう?

ここまで読んだだけでも、「え、そうだったの?」という内容が見つかったのではないでしょうか。

 

そして、統合報告書の枠組に「ストーリー」という言葉はありません

<IR>フレームワークの内容についてはまた次回、ご説明していくつもりですが、

本日はひとつだけ、重要な点をお伝えさせてください。

 

それは、

<IR>フレームワークの中に、「ストーリー」という文字はない

 

ということです。

 

 

実は。

最近の統合報告書を拝見していて感じる、私の素朴な疑問のひとつに、

価値創造「ストーリー」に力を入れすぎではないか?

というものがあるのです。

 

 

何を言っているんだ、そんなの当たり前じゃないか。

そうお思いの方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。

 

実際、

「自社ならではの統合報告書」をつくるには、何をすべきでしょうか。その答えはズバリ「自社ならではの価値創造ストーリーを展開すること」に尽きます。

統合報告書を通じて「万人が腹落ちする自社らしい価値創造ストーリー」をしっかり描き、そのストーリーを伝えるべき人々に伝達できれば、企業ブランド力の向上、さらには競争優位なビジネス展開にもつながるはずです。

のように説明されるコンサルタントさんもおられますし*3

 

「自社ならではの価値創造ストーリーは、企業のブランディングにつながる。社員の求心力向上や人材の採用にも貢献する」という考え方が企業の方々にとって魅力的な考え方であることも理解しているつもりではおります。

 

しかしながら。

それでも、、、

近年の統合報告書は「ストーリー」に偏重し過ぎているのでは、

と私は思うのです。

 

 

こうした課題意識のもと、このシリーズ次々回では、

  • <IR>フレームワークの中に、「ストーリー」という文字がないのに、なぜ「価値創造ストーリー」への傾倒(?)が加速したのか。
  • 価値創造「ストーリー」でなければ、何を書けばいいのか。

 

などについてお話してみたいと思います。

 

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1   IIRCは2022年8月1日、IIRCとSASBの合併により2021年6月に設立されたValue Reporting Foundation(VRF)は、ESG情報の国際的な開示基準を作成するIFRS財団に総合されました。(出典:JPXホームページ「ESG情報開示枠組みの紹介」国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council,IIRC)国際統合報告フレームワーク)

*2    2022年1月1日より開始される報告期間に対して適用。

*3 出典:日経BPコンサルティング ブランド戦略&マーケティング情報メディア2019年12月26日記事「統合報告書 何のためにつくる?」(サステナビリティ本部 提携シニアコンサルタント 山内 由紀夫)

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執筆者

  • 代表取締役 福島 隆史

    公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。

  • 川上 佳子

    中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。