GRIが9月5日付で発表したリリース「Understanding impact: new collaboration commences between GRI and IFVI」を受け、インパクト加重会計についてもお話をしたほうが良いかもしれない…と考え、このシリーズを書いております。
(このシリーズ・前回のブログはこちら)
さて、このニュースですが。
GRIは知っているけど、IFVIって何?と思った方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方のために、少しだけご説明を。
インパクト加重会計は、主にハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の「インパクト加重会計プロジェクト」や、オランダのインパクトエコノミー財団によって方法論の研究や開発が進められています。
「インパクト加重会計」という言葉は、2019年、HBSの「インパクト加重会計プロジェクト」において立ち上げられた「インパクト加重会計イニシアチブ」(Impact-weighted accounts initiative:IWAI)に由来しています。
IFVI(International Foundation for Valuing Impacts)は、2022年7月に、HBSのインパクト加重会計プロジェクトからスピンオフする形で設立された非営利法人です。
IFVI は、2021年のG7イギリス議長国下でインパクト・タスクフォースが公表した提言書「Time to deliver: Mobilising private capital at scale for people and planet」が掲げた野心的目標の達成に向けて設立された、と説明されています*1。
IFVIは2023年1月、Value Balancing Alliance (VBA)*2とインパクト会計手法の共同開発を目的とするパートナーシップを発表し、インパクト会計に関する共通の方法論の開発や、その普及・啓発などに取り組んでいく方針を明らかにしました*3。
IFVIのホームページを見ると、このパートナーシップを通じて両者が(特にIFVIが)どのようなことを実現しようとしてきたのかを読み取ることができます。
(※以下、日本語部分は筆者による仮訳です。正確な内容は原文をご参照ください)
Goals(抜粋)
Align with data collection requirements in sustainability reporting for easy integration into existing reporting structures;
(サステナビリティ報告におけるデータ収集要件と整合させ、既存の報告体制に容易に統合できるようにする)
Activities(抜粋)
Cooperating with other organizations operating within the impact management ecosystem. A successful global uptake of the jointly developed methodology can only be achieved in dialogue and co-creation with other leading organizations in the ecosystem.
(インパクト・マネジメントのエコシステム内で活動する他の組織との協力。共同開発した手法の世界的な普及を成功させるためには、エコシステム内の他の主要組織との対話と共創が不可欠)
Our ambition is for our impact accounting methodology to be adopted, with the above preparatory work completed, by an international standard setter for rapid global adoption.
(私たちの願いは、上記の準備作業が完了した上で、私たちのインパクト会計の方法論が、国際的な基準策定機関によって採用され、迅速にグローバルに普及することです)
つまり。
IFVIは、インパクト加重会計が「サステナビリティ基準策定機関によって」「採用され」「普及される」ことを目指していたのです。
以上、長々と前提をお話してまいりましたが…
GRIが9月5日付で発表したリリースに私が着目した理由は、これがIFVIの目指してきた
“インパクト加重会計が「サステナビリティ基準策定機関によって」「採用され」「普及される」” 第一歩
になっているのではないか、と考えたことにあります*4。 IFRSともEFRAGとも強い関係を持つGRIがIFVIとパートナーシップを締結したことの意味は大きいのでは、と。
(ご参考資料)
(出典:オンラインセミナー「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の現状と今後の展望」資料 サステナビリティ基準委員会 委員長 川西安喜 「日本企業とESRS」(2024年3月1日))
このように言い切るのは早計かもしれませんが、見逃したり過小評価しすぎたりしてはいけないと考え、皆さまにご報告させていただいた次第です。
引き続き注視していきたいと思います。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:金融庁金融研究センター「インパクト加重会計の現状と展望 半世紀にわたる外部性の貨幣価値換算の試行を踏まえた一考察 」(林寿和, 松山将之、2023年6月)
*2 VBA (Value Balancing Alliance)は、2019 年8月に BASF、ボッシュ、ノバルティス、SAPほか世界的企業8社によって設立された非営利団体です。OECD (経済協力開発機構)や欧州委員会、4大監査法人(Deloitte、EY、KPMG、PwC)やハーバードビジネススクールなどと協力して、企業活動のポジティブおよびネガティブなインパクトを金額で開示するためのグローバルなインパクト測定・貨幣価値換算(impact measurement and valuation, IMV )基準を策定し、これらのインパクトをどのようにビジネスに統合することができるかについてガイダンスを提供することを目的としています。(出典:SAPホームページ「企業の社会価値見える化と企業経営への統合に向けた最新動向 ~バリューバランシングアライアンス(VBA: Value Balancing Alliance) ~」
*3 策定された「インパクト会計の概念フレームワーク」は、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(Social Impact Management Initiative: SIMI)のホームページで、英語原文および日本語まとめを閲覧できます。
*4 パートナーシップの内容として記載されていたのは、下記の5点です。
(下記は筆者による仮訳ですので、正確な内容および詳細はリリース原文をご参照ください)
両者は、サステナビリティデータを財務データと同様に利用しやすく、実行可能で比較可能にすること(make sustainability data as accessible, actionable and comparable as financial data)を目指しており、覚書(MoU)に基づき以下に取り組むことに合意した:
① 互いの方法論、アプローチ、基準の市場浸透のための協力
② 研究やイベントなどの相互支援
③ サステナビリティ報告やデータの活用可能性に関するセミナーや円卓会議の開催
④ 共同資金調達提案を通じた資金調達活動の連携
⑤ GRIのイノベーションラボを通じて、共同で能力開発(capacity building)の取り組みを実施
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。