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ISSBネイチャー開示、論点は「器」から「中身」へ――6月会議で見えた新しい輪郭

自然資本

統合報告書やサステナビリティサイトに、TNFD開示やGRI、生物多様性方針のページを積み上げてこられた実務担当者さまは、多くおられると思います。ですが他方、「積み上げた一連の取り組みが、自然関連開示の対応として十分なのか」という問いは、なかなか晴れません。

 

自然関連開示をめぐっては、6月末に一歩進んだ動きがありました。

 

IFRS財団は2026年6月29日、ISSB副議長のSue Lloyd氏がIFRS Foundation Conferenceで開示案の内容を説明したことを公表しました。

 

(ご参考)
Sue Lloyd previews nature-related disclosure proposals at IFRS Foundation Conference(2026年6月29日)

 

ISSBは意思決定を前週に終え、10月の公開草案公表を目指しています。

4月時点の焦点は「どの器に載せるか」――S1・S2への追加か、独立基準か、実務記述書(Practice Statement)か――でしたが、今回、論点は器の「中身」へと移りました。

 

「任意」なのはツールの利用であって、開示自体ではない

まず確認したいのは、Practice Statementという形式の意味です。

IFRS財団によれば、Practice Statement案は企業が自然関連情報を投資家に提供する際に選んで使えるツールで、用いなくてもISSB基準への準拠は妨げられません。
各法域が利用を求める余地も残ります。

 

ただし「任意だから重い話ではない」と読むのは早いように思います。

ISSBのEmmanuel Faber議長は、重要な自然関連開示自体は任意ではなく、IFRS S1のもとですでに求められると繰り返してきました。
任意なのはツールの利用であって、開示自体ではない、という整理です。

IFRS財団は案を基準と同じデュー・プロセスの対象と位置づけ、適用する企業には基準と同等の効果を持つとも説明しています。

 

見えてきた6つの中身

実務上見逃せないのは、Practice Statement案の中身の輪郭が具体的になった点です。

IFRS財団が示した図では、①自然関連リスク・機会、②戦略とビジネスモデル、③指標と目標、④気候との接続、⑤場所に固有の情報、⑥先住民族・地域社会・影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント、が主な項目に挙げられています。

リスク・機会の特定ではTNFDのLEAPアプローチを使う選択肢が示され、戦略とビジネスモデルでは自然が価値創造・意思決定・レジリエンスにどう影響するかの説明が想定されています。

指標と目標では新指標を1つ提案しつつ、SASB基準・TNFD指標・GRI基準・ESRSも情報源として挙げられています。自然関連開示が「生物多様性保全活動の紹介」にとどまらない方向がうかがえます。

 

TNFDを使うが、TNFDと同じではない

案では、ISSBがTNFDフレームワークを参照することが明記されています。

実務にとって大きな意味を持つ一方、「TNFD対応をしていれば、ただちにISSB対応になる」とまでは言えません。ISSBはTNFDの指標やLEAPアプローチをIFRS S1の目的に照らして参照する立場で、LEAPの適用自体は準拠の要件とはされていません。

TNFDは重要な土台ですが、ISSBの文脈では投資家の情報ニーズというS1の目的に沿って再整理されます。

すでにTNFD開示やGRI、生物多様性方針などに取り組む企業にとっては、一連の取り組みを「活動紹介」として並べるだけでなく、自然関連のリスク・機会が事業モデル・調達・操業地・気候対応とどうつながるかの説明が問われる局面です。

 

「参考にした」と「準拠している」の線引き

もう一つ見落としにくい論点が、準拠表明です。ISSBは、企業が「Practice Statementに準拠している」と述べるには、IFRSサステナビリティ開示基準とPractice Statementのすべての要求事項を満たす必要があり、部分適用は認めない方向を示しています。「参考にしました」と「準拠しています」の間に、線が引かれ始めた形です。

自然関連開示は、気候開示に比べてもデータや拠点、サプライチェーン、地域社会との関係など未整備の領域が多い分野です。だからこそ、手元のTNFD対応や生物多様性の取り組みのうち、どの情報がS1・S2につながり、どの情報が活動紹介にとどまるのか――棚卸しの視点があらためて要ります。

10月の公開草案では、自然関連情報を投資家向け開示としてどこまで語れるかが、より具体的に問われます。手元の自然関連の取り組みは、自然と事業、自然と資本配分、自然と気候対応をつなぐ説明として、いまどこまで語れているでしょうか。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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