先日私は、、ISSBが自然関連開示をIFRS Practice Statement案として進める方向を示したことを取り上げる記事を書きました。
(ご参考)
ISSB、ネイチャー開示は「Practice Statement」案へ──4月理事会で示された制度設計の方向
この時の論点は、「自然関連開示を進めるかどうか」から、「どの器に載せるか」へ移っている、という整理でした。
2026年5月13日、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、現在検討中の自然関連開示について、自然関連シナリオ分析の扱いを議論しました。
今回の5月会議では、その器の中に入る具体的な論点として、自然関連シナリオ分析の扱いが議論されました。
シナリオ分析という言葉は、気候変動開示ではすでに広く使われています。
将来の不確実性のもとで、事業や戦略がどのような影響を受けるかを検討するための手法です。
今回のISSBの議論では、これを自然関連リスク・機会にもどのように適用するかが問われました。
今回の暫定決定で確認しておきたい点は、大きく3つあります。
自然関連リスクの「識別」については、追加的な要求やガイダンスは設けない方向です。
IFRS S1には、サステナビリティ関連リスクの識別において、シナリオ分析を使ったかどうかを説明する枠組みがすでにあるためです。
自然関連「機会」の識別や、自然関連リスクの評価については、シナリオ分析を使った場合に、その利用の有無や使い方を開示する方向が示されました。
特にリスク評価については、使用したインプット、主要な仮定、分析の対象範囲を示すことが想定されています。つまり、「分析しました」という一言ではなく、どの地域、どの事業、どの前提で分析したのかが問われることになります。
今回、最も注目したいのが、レジリエンス評価です。
スタッフペーパー段階では、自然関連シナリオ分析の実務はまだ発展途上であることから、戦略・ビジネスモデルのレジリエンス評価にシナリオ分析の使用を求めることには慎重な姿勢が示されていました。
しかしISSB本体は、自然関連リスクに対するレジリエンス情報を示すため、自然関連シナリオ分析の使用を求める方向へ踏み込みました。
これは、自然関連開示が「自然との接点を説明する開示」にとどまらず、将来の変化に対して企業の事業や戦略がどの程度耐えられるのかを示す開示へ近づいていることを意味します。
実務上、特に重要になるのは「場所」です。
気候変動開示では、全社的な移行リスクや物理的リスクを中心に整理するケースが多く見られます。一方、自然関連では、同じ企業であっても、工場、調達地域、流域、生産拠点、保有資産によって、リスクの現れ方が大きく異なります。
そのため、統合報告書やサステナビリティレポートで自然関連開示を検討する際には、まず自社の事業がどの場所で、どの自然資本に依存し、どのような影響を与えているのかを整理することが出発点になります。
また、すでに気候シナリオ分析を行っている企業にとっては、その延長線上で自然関連をどう接続するかも課題になります。水リスク、土地利用、生物多様性、森林、資源調達などを、気候変動と別々に扱うのではなく、事業戦略やリスクマネジメントの中でどうつなげて説明するかが問われていきます。
今回の議論は、まだ公開草案前の暫定決定です。最終的な形は、2026年10月に予定される公開草案を待つ必要があります。
ただし、方向性は少しずつ見えてきました。ISSBの自然関連開示は、単なる環境情報の整理ではなく、投資家が企業の将来耐性を評価するための情報として設計されつつあります。
前回見えてきたのが「Practice Statement」という器だとすれば、今回見えてきたのは、その中で企業が何をどこまで説明することになるのか、という中身の一端です。
10月の公開草案では、自然関連シナリオ分析がどのような表現で提案されるのか、引き続き注目したいところです。
ーーー
今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。