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欧州で語られ始めた「水レジリエンス」という現実と、水が足りなくなる会社の話

水資源

この記事の3つのポイント

  • 欧州で進む「水レジリエンス戦略」は、環境保護ではなく、国家と経済が生き残るための生存戦略として位置づけられている
  • 水の価値は、企業の努力ではなく、流域管理や許認可ルールといった地域の前提条件によって左右される時代に入った
  • これからの企業には、節水や効率化だけでなく「自社の水を10年後も説明できるか」という視点が問われ始めている

 

約1週間前、私は「日本は水が豊富という前提が揺らいでいる」という記事を書きました。国内での半導体・AI産業の急激な集積が、私たちの足元の地下水を「奪い合いの戦略物資」に変えつつあるというお話です。

しかし、欧州に目を向けると、この事態はさらに一歩先――「国家と経済の生存戦略」というフェーズに突入しています。

 

「後退」ではなく「生存のための優先順位付け」

最近、欧州では、企業のサステナビリティ報告やデューデリジェンスに関する制度について、簡素化を目的とした「オムニバス」パッケージが議論されています。こうした動きを、日本では「ESGの揺り戻し」と受け止める向きもあるようです。

しかし、それは表面的な解釈に過ぎないように私には思えてなりません。

なぜなら、欧州が今やっていることを総合的に見れば、「後退」ではなく「生存のための優先順位付け」であると考えられるからです。

 

2025年6月4日、欧州委員会は「欧州水レジリエンス戦略」を採択しました。
これは単なる環境保護の計画ではありません。

渇水対策や水管理の改善を通じて、「断絶した水循環の回復」を目指し、EU経済そのものを強化するための経済戦略です。

 

欧州では、報告負担の簡素化をめぐる議論が進む一方で、水の確保や水循環の回復を競争力やレジリエンスの文脈で前面に出す動きも同時に進んでいます。

「報告」と「実装」が、別々のレーンで並走し始めた——私はそうとらえています。

 

「1トン」の価値を決めるのは、もはや自社ではない

前回もお伝えした通り、水はカーボンと異なり、極めてローカルな資源です。しかし、欧州の戦略が突きつけているのは、「1トンの水の価値を左右しているのは、もはや企業の努力ではない」という現実です。

 

その価値を左右しうるのは、地域ごとに策定される「流域管理計画(RBMPs)」と、それを支える水政策の枠組みです。境界線というより、その流域で何が許され、何が許されないかを決める前提条件と言ったほうが近いかもしれません。

 

欧州では、水政策(WFD)の目的が、計画(RBMP)だけでなく個別プロジェクトの許認可判断にも影響しうることが、司法判断などを通じて明確になってきました。
その結果、流域の状態によっては、経済効果が見込まれるプロジェクトでも、許認可のハードルが上がり得る——そんな現実味が増しています。

 

たとえ敷地内で節水(効率化)を徹底しても、流域の状態や規制目標との関係次第では、それだけで許認可リスクを解消できないことがあります。「自社の努力」と「流域の前提」が、必ずしも同じ方向を向かない——そこに、水の難しさがあります。

 

データの「定義」が天下を分ける

こうした「戦略的リアル」への転換に伴い、水の測り方も変わろうとしています。

ドイツでは、水政策の中でWater Footprint(サプライチェーンも含む水利用の見える化)を、指標やラベルの形で活用していく構想が示されています。
まだ、何をどう標準化するかについては詰めの段階でも、少なくとも「測り方の共通言語」を整えようとしていることは読み取れます。

 

ここで問われるのは、曖昧な「取水量」ではなく、取水(withdrawal)と、消費(consumption:蒸発などで戻らない分)を区別して捉える視点です。同じ「水を使っている」でも、流域に残るのか、消えてしまうのかで、意味がまったく変わります。

この「正確な定義に基づいたデータの可視化」こそが、これからのグローバル市場における「通行手形」になります。

 

「Water Security Compass」のように、需給に基づく水不足リスクを地域別・用途別に可視化するプラットフォームも公開され始めました。こうした動きは、「透明性の向上が、意思決定と説明責任の前提になる」という潮流を象徴しているように感じます。

 

自社の「水」は、10年後もそこにありますか?

いま欧州で前面に出てきているのは、「良いことをする」ためのサステナビリティというより、水循環を守り、将来の供給を確保することが、競争力やレジリエンスに直結するという現実です。

私にはそこに、環境政策というより「生存戦略」に近い匂いを感じます。

 

日本が水に恵まれているという幻想を捨て、欧州が始めた「水レジリエンス」という新しいルールを見据えること。自社の蛇口を閉めるだけでなく、流域全体の「生存戦略」にどう関与するか。

私たちは「報告書の作文」を卒業し、この冷徹な資源獲得の現実に立ち向かわなければならないときは、近づいています。

 

今日はクリスマスイブです。

年末の慌ただしさの中で、あえて少しだけ立ち止まり、こんな問いを置いて、この回を終えたいと思います。

 

あなたの会社の「水」について、
それは本当に「国内だから大丈夫」と言い切れるでしょうか。
そして、
もし誰かに問われたとき、その理由を、きちんと説明できるでしょうか。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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