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日本は水が豊富という前提が揺らいでいる――AI時代に国内で高まりつつある水リスクをどう捉えるか

水資源

この記事の3つのポイント

  • 日本は水が豊富という前提だけでは、水リスクを十分に説明できなくなっている
  • AI・半導体・データセンターの拡大は、水需要の「構造」を変えている
  • 水の開示は「自社の話」だけでなく、「地域(流域)の前提」を書いてこそ意味を持つ

「日本に水リスクはない」は本当か

日本企業の水リスクはこれまで主に海外拠点やサプライチェーンの文脈で語られることが多かった印象が強いですが、今、国内でも前提の点検が必要になりつつあります。

日本は降水量が多く、水インフラも整っている。国内では深刻な水不足は起こりにくい――こうした認識が実務上大きな支障を生じさせることは、確かにこれまでは多くありませんでした。

ですが近年、この前提をそのまま置いておくことには慎重さが求められる場面が増えています。

背景にあるのは、気候変動だけではありません。産業構造そのものの変化が、日本国内における水の使われ方を大きく変えつつあります。

「水が多い国」と「水リスクが低い国」は同義ではない

日本は世界的に見て降水量が多く、水資源に恵まれた国とされています。一方で、日本の水利用には特徴があります。工業用水や生活用水の多くが、河川水だけでなく地下水に依存している点です。

地下水は水質が安定し、コスト面でも利用しやすい資源です。
しかし同時に、

 

- 地下に存在するため利用状況が見えにくい
- 一度水位が低下すると回復までに時間を要する
- 地域ごとの地質条件に強く左右される

 

といった性質を持っています。

 

過去の日本では、地下水の過剰利用が地盤沈下や水質問題を引き起こした例もありました。

つまり、日本における水リスクは、「水があるかどうか」という量の問題というより、どの水源を、どのような構造で使っているかに左右されやすいと言えます。

AI革命が変えた、水の使われ方

近年、もう一つ見逃せない変化があります。
生成AIの普及と、それを支える産業の急速な拡大です。

AIの進展に伴い、各地で半導体工場やデータセンターの新設・増設が進んでいます。これらの施設は電力消費が注目されがちですが、同時に大量の水を必要とする産業でもあります。

 

- 半導体工場では、洗浄工程に超純水が不可欠
ー データセンターでは冷却のために大量の水が使用されるケースがある

 

重要なのは、
これらの課題は個別企業の姿勢や努力などの問題ではなく、技術と産業の特性として水需要が増加する構造であるという点です。

 

熊本で起きていることは、特殊事例なのか

こうした変化が可視化されやすい地域の一つが熊本です。

熊本県は、上水道水源のほぼすべてを地下水で賄う「地下水都市」として知られています。その熊本に半導体関連産業が集積しつつあることは、各種メディアでも報じられてきました。

ここで重要なのは、熊本を「例外的な地域」として切り分けることではありません。
地下水依存度が高く、新たな水需要が急増する条件が重なった地域では、同様の課題が顕在化しやすいことを示している点にあります。

 

「涵養しているから問題ない」という説明が難しくなっている理由

半導体工場の進出に際しては、取水量と涵養量のバランスが重視されてきました。
熊本でも、企業と自治体が連携し、地下水涵養への取り組みが進められています。

一方で、こうした説明が以前より難しくなっている背景には、水利用の規模と性質の変化があります。

 

先端半導体工場では、地下水をくみ上げ、不純物を極限まで除去した超純水を製造し、洗浄工程で使用します。その後も水は再処理され、複数回にわたって再利用されます。高度な水循環技術が導入されていることは事実です。

しかし実務上の説明を難しくしているのは、次の点です。

 

■取水の影響は比較的短期で現れる
一方、涵養の効果が地下水位として現れるまでには、年単位、場合によってはそれ以上の時間を要します。

 

■涵養と取水が必ずしも同じ場所・同じ帯水層で起きるとは限らない
地下水は地質構造によって流動経路や滞留時間が異なり、量としての均衡が、即座に水位の安定を意味するわけではありません。

 

■当該地域で水需要の絶対量の増加要因がある
高度な水処理設備が必要になるほど、安定的に大量の水を前提とする産業構造が形成されていることを意味します。

 

涵養の取り組み自体を否定するものではありませんが、時間軸・空間軸の両面から説明する必要性が高まっていることが、いまの難しさだと言えるでしょう。

 

海外リスクを軽視すべきだという話ではありません

ここまで述べてきた内容は、海外の水リスク対応を軽視すべきだという主張ではありません。
海外拠点やサプライチェーンにおける水リスク対応は、引き続き重要です。

そのうえで、国内拠点は水リスクが低いという前提を、無条件に置き続けてよいのか——この問いを一度立て直す必要が出てきている、という問題提起です。

 

担当者さまが押さえておきたい視点

水に関する開示を検討する際、次の点でお悩みになる企業担当者さまもいらっしゃるのではと思います。

ー 他社のことを自社の開示で書くのはためらわれる
ー 特定の企業を批判しているように見えないか心配だ

 

この感覚は、(特に日本企業としては)自然なものであると存じます。
ただ、水に関する情報開示においては、この「ためらい」自体が、説明力を弱めてしまう場面が増えていると思います。

 

理由は明確です。
水は、そもそも自社だけで完結する資源ではないからです。

水は流域単位で共有され、企業、農業、生活用水、自治体の利用が相互に影響し合います。そのため国際的な水スチュワードシップの枠組みでは、「自社がどれだけ節水しているか」だけでなく、

 

- その流域でどのような水の課題が共有されているのか

- その前提のもとで自社はどう行動しているのか

 

を説明することが求められています。

 

 

ここで重要なのは、
他社を名指しで評価・批判することと、地域の状態を説明することは全く別だという点です。

 

求められているのは、

 

ー 流域全体で水需要が増加している

- 産業集積の進展により地下水依存度が高まっている

- 複数の用途が同じ水源を共有している

 

といった状態や構造を客観的に示すことです。

 

これを避けてしまうと、外部データや評価機関がすでに把握している「地域の前提条件」と、自社開示との間にズレが生じます。

結果として、「リスクを十分に理解していない」「説明が足りない」と受け取られる可能性があります。

 

水に関する開示は、自社努力を強調する場というより、この地域で事業を行う前提条件を共有する場へと性格が変わりつつあります。

その意味で、地域の状況に触れない水の開示は、もはや十分な説明とは言えなくなっている――これが、いま起きている変化であるように思われます。

 

水リスクは「構造変化」として現れる

日本は水に恵まれた国である。
この認識自体が直ちに誤りになるわけではありません。

ただし、AI時代の産業構造の変化は、水の使われ方と水リスクの現れ方を変えつつあります。
水リスクは、災害のように突然表面化するとは限りません。
多くの場合、前提の説明が難しくなることとして先に現れます。

国内だから大丈夫、と即断するのではなく、その前提を点検し直すこと——それ自体が、いまサステナビリティ担当者さまに求められている実務対応の一つなのかもしれません。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


参考資料

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