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「グリーン一辺倒」のその先へ ― スポーツが照らす、人中心のサステナビリティとは

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この記事の3つのポイント

  • 宇都宮ジャパンカップや箱根駅伝に見る脱炭素は、象徴的な第一歩にすぎない
  • 日本のサステナビリティは、環境(E)偏重のフェーズから社会(S-人を含む)への転換期
  • スポーツを通じて、企業・自治体が「人と地域を軸にしたESG」を実装する可能性が見えてきた

 

本記事は、10月20日付ブログ記事赤の時代からグリーンの覇権、そしてマルチカラーへ――スーパー戦隊シリーズとサステナをつなぐ「色」の話」の続編です。未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。

 

「誰のためのサステナか」—マルチカラー時代の次なる論点

前回の記事では、グリーンボンドからオレンジボンドへ、水素の「色」から「排出強度」へと、
ESGの世界がグリーン一辺倒からマルチカラーへと広がっている現状を紹介しました。

その流れをさらに深掘りする形で、今回は「人」に軸足を置いたサステナビリティの兆しを見ていきたいと思います。

 

その舞台は、意外にもスポーツイベント。

宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースと箱根駅伝という、誰もが知る大会が、ESGの「EからSへ」という流れを地道に体現しつつあるように思いましたので、本日はそのお話をご紹介しますね。

 

宇都宮と箱根駅伝の脱炭素は「初期段階」にも見えるが…

宇都宮市は、今年のジャパンカップを「CO₂排出実質ゼロ」と位置づけました。
EVシャトルバスの導入や、再生素材のジャンパー使用、紙プログラムの廃止などを通じて、排出量は約4トン相当*1と報じられており、カーボンオフセットで相殺しています。

一方、箱根駅伝においては、トヨタが2026年の箱根駅伝で、提供車両40台のうち18台を燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)に切り替え、残りもバイオ燃料混合車とすることでCO₂排出を約6割削減する予定なのだとか。

 

(参考記事)

 

どちらも「持続可能な大会へ」という強いメッセージが込められた施策ですが、その実態はまだ、脱炭素という意味では踏み込みが足りない「初期段階」であるようにも見えます。

たとえば、宇都宮では削減目標の設定や定量評価の仕組みは未成熟で、トヨタも走行時排出のみに焦点が当てられています(欧州のようにライフサイクル全体(電力由来、観客移動、資材調達など)を含む脱炭素設計*2には至っていない?)。

 

それでも見える、「人中心」への重心移動

ですが、ここで私が注目したいのは、

「どんな手段で脱炭素したか」よりも、
「誰のために、どんな価値を届けるか」という問いに答えた姿勢です。

 

宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースでは、女子レースの新設、小中学生のパレードラン、バーチャル体験の提供など、年齢や性別を問わない参加を重視。

箱根駅伝におけるトヨタのケースでは、走者の健康や集中力に配慮して排ガスの少ない車両を選んだと説明されています。

 

これらは、環境(E)への配慮だけでなく、社会(S)、特に「人」への視点を伴ったサステナと解釈できるのではないでしょうか。
目的が「排出量の削減」から、「人が安心して、楽しく参加できる大会づくり」へと拡張されつつある点に、大きな変化が見て取れます。

 

ESGの重心がEからSへ移るとき、企業に求められること

この変化は、前回記事で取り上げた「グリーン一辺倒」からの転換とも呼応しています。

グリーンボンドに代わって登場したオレンジボンドが、資金の使い道そのものを「女性活躍・ジェンダー平等」としたように、今やESGとは「どんな社会をつくるか」の設計そのものに近づいているのではないでしょうか。

企業様においても、排出を減らすだけでなく、

「その取り組みは、誰に、どんな価値を届けているのか?」

という視点が、統合報告やサステナビリティ開示、IRにおいて問われる場面が増えていくかもしれません。

 

色と同じく、「サステナの軸」も多様化する時代へ

赤が戦隊の象徴であった時代。
グリーンがサステナの中心だった時代。
そして今、社会と経済の交差点では「色の民主化」とも言える多様化が進んでいます。

今回のスポーツイベントに見るように、環境だけでなく、人や地域を中心に据えたサステナは、企業にとっても大きなヒントを与えてくれます。

ESGの軸が「E」から「S」へ広がっていく時、そこには必ず「誰かのウェルビーイング」がある——企業様にとっても自治体にとっても、そこにこそ次の成長のヒントが眠っているのではないでしょうか。

 

ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 宇都宮大会のオフセット量「約4トン」は報道ベースの初期値です。

*2 欧州では、ツール・ド・フランスが再エネ電力化や観客交通の排出削減を含むサステナ運営の「仕組み化」を進めています。

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