この記事の3つのポイント
先週末、近所の商店街でヒーローショーをやっているのを見かけました。
来場していたのは「スーパー戦隊シリーズ」のヒーローたち。このシリーズは日曜朝の定番となっている番組で、今年(2025年)、なんと50周年を迎えているのだとか。長く愛され続けているコンテンツなのですね。
さて。
1975年の「秘密戦隊ゴレンジャー」に始まるこのシリーズでは、(多少の例外はあったものの)ヒーローのリーダーに選ばれるのはおおむね「レッド(赤)」が常識となっています。
では、サステナビリティの世界で「リーダーの色」と言えば何でしょう?
——おそらく、多くの方が「グリーン(緑)」と答えるのではないでしょうか。
確かにこの10年、ESGや統合報告の現場では、グリーンボンド、グリーン電力、グリーン水素といった「グリーンな取り組み」が評価の中心にありました。
ですが、いま、少しずつ潮目が変わりつつあります。
グリーン一辺倒の時代から、マルチカラーの時代へ――そんな転換点にある今、ヒーローの色をヒントに、サステナの今とこれからを考えてみます。
グリーンボンドの発行額は、2024年時点で世界全体で約100兆円規模。
企業の気候変動対応や再生可能エネルギーへの投資を支える資金として、極めて大きな役割を果たしてきました。
一方で、ESGのうちS(社会)やG(ガバナンス)に関する評価・開示は相対的に弱くなりがち、という指摘も根強くあります。調査によって数値の出し方は異なりますが、「Eに重心が寄り過ぎると、人的資本や地域包摂、公正な移行が後回しになる」という実務的な違和感は、多くの担当者さまと共有できるのではないでしょうか。
こうした中、今年(2025年)9月には伊藤忠商事さんが「オレンジボンド」を発行しました。
この債券は、資金使途の50%以上を女性活躍・ジェンダー平等の取り組みに限定し、「Orange Bond Principles」に準拠したものです。
▽なぜ「オレンジ」なのか?
オレンジ色は国連が掲げる「女性に対する暴力撤廃」の象徴色で、ジェンダー平等は「持続可能な開発目標(SDGs)」の一つでもある。日本は世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数が148カ国中118位にとどまる。2022年にシンガポールのIIXが創設した「オレンジボンド・イニシアチブ」に基づき、金融を通じて平等を推進する取り組みが出てきた形だ。
(出典:ブルームバーグ「伊藤忠が新たなESG社債、ジェンダー格差解消で国内初-152億円」(2025年9月5日)
この動きは、単なる資金調達の話にとどまりません。
グリーンだけでいいのか?という問いに対する実践的なアンサーとして、Sを前面に押し出す意思表示と読むこともできるのではないでしょうか。
もう一つ、注目すべき「色の再定義」が起きているのが、水素の分野です。
従来、水素は由来するエネルギー源によって、
- グリーン(再生可能エネルギー)
- ブルー(化石燃料+CCS)
- ピンク(原子力発電の電力で水電解)
- レッド(原子炉の高温熱を利用した熱化学分解)
- イエロー(太陽光発電による電解と説明されることが多い*)
*用語は資料により揺れがあり、原子力電力を指す例もあります
など、「色」で区別されてきました。
理想形として注目されてきたのはグリーン水素ですが、コストや供給量の制約から、当面はブルーやピンクが実装を支える場面も現実的に増えています。
そして現在、国際的により重要視されているのは、色そのものではなく「排出強度(g-CO₂e/kg-H₂)」です。
たとえばEUでは、水素1kgあたりのライフサイクル排出が約3kg-CO₂e以下であれば「低炭素水素」として政策・制度の対象に位置づける方向性が示されており、色→中身(排出強度と証憑)への重心移動が進んでいます。
この視点に立つと、企業様に求められるのは、
- どの電源・製法で作られた水素か(再エネか、原子力か、化石+CCSか)
- 製造・輸送・貯蔵のどこでCO₂が発生しているか(系境界を明確に)
- 排出強度の定量(LCAベース)と、その証憑(認証・トレーサビリティ)
を語れること、になってきます。
赤が戦隊の象徴であった時代。
グリーンがサステナの中心だった時代。
けれど今、色の「主役」は一つではなくなりつつあります。
オレンジボンドに見るSの高まり、ブルー・ピンク・イエロー水素に見るEの多様化、そしてその背後には「持続可能性とは何か?」という問いの再定義があるように思います。
すべての取り組みが「グリーンでなければダメ」という考え方ではなく、グリーンに近づきながらも、社会や地域の現実と折り合いをつけて進む——この柔軟さを「マルチカラー」と呼ぶなら、いま求められているのはある意味、色の民主化とでも言えるものなのかもしれません。
企業様におかれましては、
開示や対話の中で、開示や対話のなかで、単なる色のラベルではなくその色の意味・背景・進化の方向まで丁寧に語っていけるようになることが、IR/サステナ開示の質を底上げすることにつながるのではないでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。