サーキュラーエコノミー / 勉強用(初学者様向け) / 気候変動 / 統合報告書
この記事の3つのポイント
前回の記事では、「循環=調達戦略」として捉える補助線(供給・需要・社会的ライセンスの3視点)をご紹介しました。原料や素材だけでなく、循環の成立には「エネルギー」も欠かせない――そんな問いかけから、本日の話が始まります。
サーキュラーエコノミーとは、資源の消費と廃棄を最小限に抑える経済モデルです。
ですがその裏には、「循環のためにエネルギーをどこから、どのように確保するのか」という設計が常に横たわっています。
再生可能エネルギーをどう活かすか。それを考えるとき、避けて通れないのが「いま、洋上風力が抱える難しさ」、そして「グリーン水素という新たな循環の媒体」の話です。
政府は2030年までに洋上風力10GW、2040年には30〜45GWの導入を目標に掲げています。原発10基分に相当する規模であり、日本の脱炭素電源の大黒柱と期待されてきました。
しかし2025年夏、三菱商事が秋田・千葉の3地域(合計1.76GW、約150万世帯分の電力に相当)から撤退を発表。資材価格の高騰や円安による採算悪化が背景にあります。建設コストの上振れなどにより、「再エネは安い」という前提は見直しが迫られています。 同社は当該案件に関連して2025年に約522億円の減損を公表しています。
なお、この撤退自体が証書価格の直接的な上昇要因と断定することはできませんが、2030年前後にRE100の目標年次を迎える企業にとって、非化石証書価格の上昇など、すでに調達環境の厳しさが表れているのも事実です。 供給面の不確実性は、目標達成に向けたプレッシャーを高めかねません。(※この件については別な機会に改めてお話します)
さらに、洋上風力には「社会的ライセンス型」の課題もあります。漁業権や景観への影響をめぐり、地域合意形成が容易でないのは周知の通り。再エネの拡大そのものが、社会との関係性によって制約を受けているという状況が浮き彫りになっています。
こうした中で、静かに注目を集めているのがグリーン水素です。
サントリーホールディングスさんは山梨県北杜市において、国内最大級の水電解設備「やまなしモデルP2Gシステム」(16MW)を稼働させ、2027年以降にグリーン水素の製造から販売までを一気通貫で行う計画を打ち出しました。
年間最大2,200トンの水素を生産し、まずは自社の白州天然水工場や白州蒸溜所で活用。その上で、余剰分は山梨県内の地産地消に加え、東京都心部のビル群などへの供給も視野に入れています。
飲料メーカーが“水素を売る”という挑戦は、脱炭素戦略としてもきわめてユニークです。国内では、グリーン水素の製造から販売までを一気通貫で担う計画は「初の取り組み」とされています。
とはいえ、規模感だけを見れば、洋上風力10GWが年間30〜40TWhの電力を生むのに対し、水素は約7万MWh程度――数百分の一にすぎません。
ですが、役割は異なります。
- 洋上風力:再エネ電源そのものを供給する“主力発電”
- グリーン水素:再エネを“ためて、運んで、使える形に変換する”媒体
この違いが意味するのは、グリーン水素が「代替手段」ではなく、「補完手段」であるということ。再エネの“行き場”や“使いどき”の問題を解決するハブの役割を担えるかもしれないという視点です。
エネルギー循環の話も、前回ご紹介した「3つの補助線」で整理できます。
再生可能エネルギーをどう語るかは、統合報告書におけるひとつの試金石です。とくに投資家やステークホルダーは、
- エネルギーの安定供給に向けた備え(供給)
- 義務や市場要請に応える構え(需要)
- 社会と共に進める姿勢(ライセンス)
という3つの観点から、企業の循環戦略を見つめています。
貴社のエネルギー循環の物語は、この3つのうちどこに軸足を置いて語るのがふさわしいでしょうか。それを明確にすることで、統合報告書での説得力が一段引き上げられるかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。