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“スマホ化”が脱炭素を「機会」に変える?──日本郵船と洋上浮体型データセンターに見る、インフラビジネスの再定義

ニュース / 気候変動 / 脱炭素

脱炭素は「自社の負担になるだけ」と捉えていませんか?

サステナビリティ担当者さまの中には、「気候変動対応=コスト負担」というイメージに悩まれている方も多いかもしれません。排出削減目標、TCFD対応、Scope3の開示と、要求事項は増えるばかり。それなのに、自社の事業と「機会」とのつながりが見出せない──。

そんなときに、既存業界の動きを少し横目で見てみると、意外なヒントがあるかもしれません。

本日は、日本郵船さん(以下、敬称略)が構想を進める「洋上データセンター」計画を題材に、脱炭素時代における新たな戦略的視点をご紹介したいと思います。

 

海運業に訪れた構造的転換点

日本郵船といえば、海運の巨人。貨物輸送を支えるインフラ企業として知られていますが、実は近年、「脱炭素請負業」とも呼べそうな方向へと踏み出しています。

(参考)プレスリリースより

2024年12月19日

GHG排出削減量を管理するプラットフォームを導入
日本郵船と郵船ロジスティクスが共同で顧客のScope 3排出量削減を支援

 

日本郵船株式会社
郵船ロジスティクス株式会社

 

日本郵船株式会社(以下「日本郵船」)と郵船ロジスティクス株式会社(以下「郵船ロジスティクス」)はこのほど、オランダを拠点に物流の脱炭素化に取り組むスタートアップ企業の123Carbon B.V.(以下「123Carbon」)が提供する温室効果ガス(以下「GHG」)排出削減量(注1)の管理に対応したデジタルプラットフォームを導入しました。総合物流企業グループである日本郵船と郵船ロジスティクスが提供する海上、航空、陸上輸送サービスにおいて、代替燃料の使用により創出されたGHG排出削減量を、同プラットフォーム上でお客さまに割り当て、GHG排出量削減証明書も発行することで、Scope 3(注2)におけるGHG排出量削減を支援します。

 

背景には、海運業が今、大きな曲がり角に立たされていることがあります。

  • 国際海事機関(IMO)の温室効果ガス規制強化
  • 新燃料船への投資負担
  • 地政学的リスクや貿易摩擦
  • 環境規制
  • 港湾や航路の気候リスク
  • パンデミックによる物流の混乱…

こうした中、「輸送業のままでは持続的な成長が難しい」状況が広がっているのです。

 

「フットプリントの請負」という新しい価値

そんな中、日本郵船が実証実験を発表したのが、「完全再エネで稼働する洋上データセンター」構想です

【参考記事:日経電子版「日本郵船、完全再エネの洋上データセンターを実験へ」(2025年3月27日)】

 

AIの普及やクラウド化により、世界中でデータセンターの需要が急増する一方で、陸上では立地選定や電力確保、周辺住民との摩擦といった課題が顕在化しつつあります。これらの“見えにくい負荷”に対して、洋上という空間、再生可能エネルギーという資源を用いて解決策を提供しようということが、この構想の背景にあります。

【参考記事:本ブログ「スコープ3(Scope3)のその先へ──AI時代の「使う責任」と企業の静かなリスクについて考える」】

 

ここで注目したいのは、日本郵船が「輸送」だけでなく、「CO2排出を抑えた空間そのもの」を“企業に代わって請け負う”という新しいビジネスの芽を見出していることです。

  • 洋上での自然エネルギー活用(風力・波力)
  • 海水冷却による高効率な排熱処理
  • 土地に制約されないスケーラビリティ
  • Scope3対応としての「環境配慮型インフラ」の提供

 

これらは、「低炭素な場を提供する」という意味で、他社の脱炭素目標に貢献するインフラプロバイダーへの進化とも言えるのではないでしょうか。

 

通信業界の進化に学ぶ──ただの“回線業”から“価値提供業”へ

このような変化は、かつて、他業界でも起こりました。

たとえば、通信事業者。

かつての携帯電話会社は、「通話回線」や「SMS」という機能を提供するインフラ業者にすぎませんでした。ところが、スマートフォンの登場により、アプリ、動画、決済、クラウドといった新たな価値を次々と担う存在へと進化していきました。

海運業がこのように「脱炭素の価値を請け負う」インフラ事業者に変わっていく過程は、この通信業界の進化と非常によく似ています。

日本郵船は、単なる「物流の提供」ではなく、「サステナビリティという社会課題に貢献する装置」へと、自らを位置づけ直そうとしているのではないでしょうか。

 

サステナビリティ担当者として、どう受け止める?

ここまでをお読みになって、

「いやいや、うちは海運業ではないから関係ないよ」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 

でも、ここでの本質は──

「自社が提供できる“脱炭素価値”とは何か?」

という問いかけです。

今後、脱炭素は“排出を減らす”だけでは足りず、“他者の脱炭素にどう貢献できるか”という視点が求められるようになります。特に、Scope3やバリューチェーン全体の視点での開示が強化される中では、自社の製品やサービスが「顧客のCO2を減らす存在である」と示せるかどうかは、投資家や顧客からの評価に直結する可能性があります。

 

  • 自社の商材・サービスは、顧客の環境負荷削減に貢献できているか?
  • その価値は、定量的に語れるだろうか?
  • それを「請け負う」構造に転換できる余地はないだろうか?

 

こうした問いを、自社の事業戦略と重ねながら考えてみるきっかけとして、日本郵船のケースはとても示唆に富んでいると私は考えております。

 

脱炭素を“受け身”から“攻め”に変える視点

これからの脱炭素戦略では、「削減される側」だけでなく、「削減を支援する側」になる視点が、企業価値を左右する大きな要素になるでしょう。

物流業が「移動のCO2を請け負う」存在から、
データ産業の「フットプリントの最小化を支援する」存在へ。

この転換は、海運業に限らず、製造業、建設業、エネルギー業など、多くの業種に通じる新しい戦略視座です。

 

今回のニュースを、御社において

「自社にとっての“脱炭素請負業”とは?」

を、考えてみる機会ととらえていただけましたら幸いです。

 

本日もお読みいただきありがとうございました。

統合報告書やサステナビリティレポートの制作において、「機会」をどう語るかに悩まれる場面も多いかと思います。そうした際には、ぜひ当社にご相談ください。

企業の取り組みを社会に伝える力を、私たちが全力でご支援いたします。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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