前回のブログでは、「女性版骨太の方針 2024」(以下、「2024版」)が前年版とくらべて何が変わったのか? について書きました。
この内容を踏まえ、今回のブログでは、どのような点がサステナビリティレポートの原稿を作る参考になるのかをお伝えしてまいります。
ポイントを3つにまとめました。
いきなり何を言い出すんだ?と思われたかもしれませんが、
「女性管理職比率の向上」を直接の目的とする取り組みは
女性側に直接働きかけようとする施策
(例:意識変革をうながす/ロールモデルを見せる/メンターを付ける)
となっているケースも多くありますので、ご注意いただければ…との思いからこのような見出しといたしました。
企業で女性が“活躍”するために必要な施策が「 女性のキャリア意識をめぐる課題の解消」である(=女性側の問題である)との考え方は、「2024版」でも、すでに採用しなくなっています(*1)。
この点をかんがみますと、「女性側に働きかける」施策を大々的に出してしまうことは、サステナビリティ開示としては少し望ましくない印象を与えてしまう可能性もありそうです。そこで、(実際に行っていたとしても)控えめな伝え方とし、下記の2・3の部分を前面に出すほうがイマドキの人的資本開示の書き方としては良さそうであると、私は考えております。
日経ウーマノミクスプロジェクトの「管理職の女性比率、高めるって言ってるけど・・・」に載っている女性の声を読むと、女性管理職比率向上をさまたげる要因は、実にさまざまなところにあるのだと改めて気づかされます。
たとえば、労働時間や勤務形態などの問題。
「20時まで席にいるのが当たり前」「会長・社長よりも早く出社するのが慣例」である場合、部長としてやっていくのは難しいと考える女性は実際のところ多いでしょう。
労働時間や勤務形態の問題については、コロナ禍をきっかけに、テレワークの導入・運用や休暇の付与などの形で改革を実施しておられる企業さまも多いと存じます。そこで、これらを明確に「女性管理職比率の向上」と結びつける形で記載してみてはいかがでしょうか、というのが私からのご提案です。
私が存じ上げている限りでは、「フレキシブルな勤務形態」についてサステナビリティレポートに書いておられる企業さまの多くが、それ単体で書いておられる =「何のために」それをしているのか?を明確にせずに記載されていることが多いです。それは大変もったいないと思うのです。
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ここまでお読みになった方は、きっと「じゃあ、『女性管理職比率を高めるためにテレワークや時短勤務などを導入しています』って書けばいいの?」と思われたことと存じます。
すみません、そうではないのです。
そこにはもうワンクッション置く必要があると思っておりまして…
(次の項でご説明します)
ふたたび、日経ウーマノミクスプロジェクトの「管理職の女性比率、高めるって言ってるけど・・・」に戻りますと、こんな意見も目につきます。
子育てもあって仕事に使える時間は限られており、疲労からモチベーションが下がることもあります。
「あなたたちのロールモデルはこの人です!」と会社が紹介する数少ない女性管理職は「ライフはいずこへ?」といったキャリア一辺倒な人が多く、ちっとも憧れません。このような、会社からのキャリア観の押し付けにうんざりしている女性社員は多いです。会社が示すロールモデルは、「女性管理職のあるべき姿=男性並みに、制約なく働ける女性」という古い管理職像だと思います。
現任者は毎朝7時前後に出社しています。私も同部署で管理職を目指す立場にありますが、小さな子供もおり、前任と同じようにはとてもできません。
子育てを経験された方はすでにお気づきと存じますが、子どもに目と手と心をかける必要がある期間は、なにも出産とその後の1年間だけではなく、そこから先も長く、長く続いていきます。
その部分を含めて家族が協力しあうことができているか――もちろん会社の立場ではなかなか見えない部分ではありますが、ここの基盤が整っていなければ「女性管理職」として働く/「女性管理職」を目指すことはむずかしいと考える女性は多いままでしょう。
つまり。
先ほど私が “女性管理職比率を高めること” と “テレワークや時短勤務などを導入すること” のあいだにもうワンクッション置く必要があると申し上げた、その「ワンクッション」とは、
「仕事も家庭も」の新・性別分業 (*2)
が女性に課せられている可能性が高いことへの理解なのです。
現状、「仕事も家庭も」のプレッシャーが女性管理職(候補を含む)にかかりがちであることを理解した上で、
- 改善のためにできることは?
- 公平性(*2)を担保するためにどのような施策をとるべきか?
などを考えて制度が設計・運用されていると記載することができれば、テレワークの導入・運用についての説明ひとつをとっても印象は大きく違ってくるのではないでしょうか。
(余談ですが、企業さまが上述のような課題解決に努めているかを示す指標としては、「男性育児休業取得率」は十分ではなく、たとえば時短勤務などの「両立支援制度」利用者数を男女別で示すなどしたほうが良いのではと私は考えております…)
上でご説明させていただいた3点は、あくまでも「昨年の有報開示と今年の有報開示があまり変わっていない」企業さまを想定して作成したものですので、戦略的な取り組みをすでに実施されている企業さまにはご参考にならなかったかもしれません。
ただ、現時点の実感として、私自身は、
サステナビリティ開示が優れている企業さまであっても
男女間賃金格差の要因分析はあまり進んでいない
という認識を持っております。(*3)
今、これをお読みいただいているサステナビリティ担当者さまも、自社ではまだ「要因分析」まで実施できていない…という方が多いのではないでしょうか。
ですが、昨日のブログでもご説明しましたとおり、「女性版骨太の方針 2024」では、この”要因分析”を前提とした具体的支援策を国としてさまざま企画するとともに、企業にも実施を求めていました。
この点をかんがみて、私としては、本日のご提案を作成した次第です。
はなはだ不十分とは存じますが、それでも、「男女間賃金格差が生じている要因(の一部)」を当社としては認識しているし、手を打ち始めていますよ…ということをサステナビリティレポートの読者に伝える上で有効かもしれないと思える書き方、そのご検討の一助となりましたら幸いです。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
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*1:詳しくは、昨日のブログをご参照ください。
*2: この表現は、第一生命経済研究所ホームページに掲載されている、白石香織「男女賃金格差解消には「OBN文化」からの脱却 ~脱・オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)文化のカギはDE&I~」からお借りしました。女性の活躍を阻む3つの壁と、職場における「公平性」に関する大変納得感のある論考ですので、ぜひご一読いただければ幸いです。
*3:要因分析がされていたとしても、たとえば次のような文章だったりします。
当社では、役割が同じ場合には男女で賃金の差を設けるということはないため、この差は主に、勤続年数の長い社員における男性比率が高いことや、給与の高い職群の社員における男性比率が高いことに起因していると考えております。
男女の賃金格差の解消のため、当社では、女性活躍推進の取り組みを通じて女性の定着率をさらに向上させるとともに、管理職や役員の女性比率を女性社員比率に対して適正に上げることなどを実行していきます。
(※上記は、実際の企業さまの開示事例を少しだけ表現変更して作成した文章です)
これでは、残念ながら「要因分析」にはなっていないのです。
なぜなら、
– 勤続年数の長い社員における男性比率が高い
– 給与の高い職群の社員における男性比率が高い
のはなぜなのか?を掘り下げなければ、有効な打ち手にはつながらないからです(と、私は考えております)。
ご参考までに、日経電子版の記事「男女間賃金格差、解消への一手は 短期間でも成果出せる」では、次のような指摘がありました。
日本のアプローチはいくつかの点で他国の取り組みとは異なる。ひとつは分析の深さが足りないことだ。平均賃金の格差の開示は問題解決への出発点にはなるが、根本原因についての深い洞察は得られない。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。