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HINTサステナ情報のヒント

女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金格差…
2年目はどう書けば?を考える②

人的資本開示

今週は、「人的資本(多様性)」の開示がテーマです。

有価証券報告書での開示が2年目を迎えた

– 女性管理職比率
– 男性育児休業取得率
– 男女間賃金格差

などについて、サステナビリティレポートにどう書けば良いのか。そのヒントをくれる資料として「女性版骨太の方針 2024」が役に立ちそうですというお話を前回のブログでは書きました。

 

今回のブログでは、「女性版骨太の方針 2024」(以下、「2024版」と記載します)前年版(以下、「2023版」と記載します)とくらべて何が変わったのか? についてお伝えします。

そして、この内容を踏まえ、次回のブログでは

どのような点がサステナビリティレポートの原稿を作る参考になるのか

をお伝えしていきたいと思います。

 

===

2023版との違い①  企業への期待が前面に

2024版の特徴として第一に挙げたい点は、なんといってもここです。
(下記を読み比べていただくと、トーンの変化を感じられるのではと存じます)

 

2023版の「はじめに」より:
…女性の参画を拡大することは、例えば、企業においては、多様性の向上を通じてイノベーションを喚起するとともに事業変革を促し、企業価値を高めることにつながるほか、国際社会においては、和平合意の策定において女性が参加すると、その合意が長期にわたり保たれる確率が高くなることが指摘されているなど、様々な局面においてプラスの効果をもたらすものと考えられる。

 

2024版の「はじめに」より:
政府としては…(中略)…プライム市場上場企業を対象として、「2030 年までに、女性役員の比率を 30%以上とすることを目指す」、「2025 年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める」などの目標を掲げ、また、その中間的な目標として、昨年 12 月に「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年 12 月 25 日閣議決定。以下「5次計画」という。)における 2025 年までの新しい成果目標として、「東証プライム市場上場企業役員に占める女性の割合」を19%とすること等を決定したところである。

これらの目標に向けた取組等を通じて、女性活躍の機運は着実に高まっているところではあるが、女性の登用が進んでいる企業とそうでない企業があり、進捗には差異が見られるのが現状である。

 

 

2023版との違い②  背景に目を向け、要因分析を開始

企業への「期待」をするだけでなく、政府としても企業での(女性活躍に関する)目標達成をさまたげる要因は何なのかについてさまざまな可能性を考え、対策をとろうとしている/対策をうながしている――そんなところも、2024版の大きな特長です。

 

ロールモデル重視を捨て、要因分析と具体的施策重視へ

2023版では、企業で女性が“活躍”する上で必要なものとして「ロールモデル」の存在を少し重く見すぎていたところがありましたが(*1)、2024版ではこの点が修正されました。

 

たとえば、2023版では「③個々の女性労働者のキャリア形成支援」に関し、

企業の課題:
– 本人が現状以上に活躍したいと思っていない
–  社内にロールモデルとなる女性社員が少ない

       ↓
対応策:
– メンター制度の導入
– ロールモデルの育成
– 地域ネットワーク構築に関するマニュアル及び事例集の作成

のように書かれていたのですが、2024版ではこの記述は消えました。(*2)

代わりに、女性が働くことを阻む要因には何があるのか――たとえば、女性のライフステージごとの健康課題や、いわゆる「年収の壁」、そして職場におけるハラスメント(*3)など、具体的な課題に着目しています。

 

2023版との違い③  施策の先にある「実質」を重視

2023版では、女性活躍と経済的自立等に向けた施策を導入/実施すること、そしてその状況を開示させることに重きが置かれていたように読める記述が多かったのですが、

2024版では、導入/実施の先にある「実質」の部分に目を向けていることが感じ取れる記述が複数ありました。以下に2つほど例を挙げます。

 

男性の育児休業は、数字が上がればOKではない

2023版では、

女性に無償労働の負担が大きく偏っている

  ↑ 解決策として

男性の家事・育児への参画を促進・拡大

  ↑ 手段として

男性の育児休業取得等をうながす

 

となっていましたが、2024版の記述はひとあじ違っていました。
以下をご覧ください↓↓

“男性の育児休業について、制度面と給付面の両面からの対応強化をすることで、男性の育児休業取得率の更なる向上を目指す。その際、男性の育児休業取得が実質を伴ったものとなるよう、男女が共に育児を担うことの重要性や「共働き・共育て」の意義が広く認識されるような取組を行う” (*4)

 

…驚いたことに、男性の育児休業取得に関して “実質(化)”という単語を使っています(*5)。 男性が育児休業を取得した(=「取得率」の数字は上がった)が、女性の負担は減らなかった、というのではダメですよと言っているわけです。

 

女性自身の…ではなく「周りの」意識に目を向けた

2023版には「 女性のキャリア意識をめぐる課題の解消」という項目があり、

女性の経済的自立の更なる強化を図る上では、
女性は働くとしても家計の補助であるという意識を変えていく必要があり…

と書かれていたのですが、(*6)

2024版ではこの項目は消えており、「意識」という単語は主に

- 固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み
(アンコンシャス・バイアス)

- 経営層の意識改革と理解の促進

などの文脈で使われていました。

(個人的には、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」という単語が使われていたことにびっくりしました…!)

 

===

長々とした説明になってしまい、失礼しました。

次回は、今回読み取った2024版のポイントをサステナビリティレポートでの開示にどう活かせばよいか?というお話をしていきたいと思います。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1: 本文中でご紹介した内容のほかに、2023版では、たとえば「企業による多様な人材が登用される環境づくりの推進」に関して、「登用される側の視点に立てば、リーダーを目指すことが可能だと感じさせる環境づくりが重要であり、育児や介護と両立している女性役員等多様なロールモデルの提示も進めていくべきである」との記述があったりしました(!)。(2024版では「育児や介護と両立している女性役員」との記述は消えており、個人的には安堵いたしました…)

*2: 2024版では、ロールモデルという用語は主に、女性起業家と理工系分野に進む女子生徒・学生を育成する文脈で使われています。

*3: 2023版では、ハラスメントは「Ⅲ 女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」の下に「①職場におけるハラスメントの防止と相談窓口の周知」という項目を設ける形の扱いになっていました。

*4: 2024版 Ⅱ 女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の一層の推進 (2)仕事と育児・介護の両立の支援 ⑤ 育児・介護休業法及び次世代育成支援対策推進法改正法の円滑な施行に向けた環境整備 より

*5: ちなみに2023版で「実質(化)」という単語が使われたのは、コーポレートガバナンス改革と、機関投資家によるスチュワードシップ活動に関する説明についてだけでした。

*6: いわゆる「出世したがらない/責任を引き受けたがらない女性の側にも問題がある」という見解…ですね。

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