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「生態系サービス」って何?
2025年、知っておきたい生物多様性の基礎知識

勉強用(初学者様向け) / 生物多様性

今月のテーマは「生物多様性/生態系サービス」

2025年はいよいよ、SSBJ基準の確定の年ですね。

SSBJといえば、現行の基準はもちろん、「先を見据えて」準備をすることがお仕事のサステナビリティ担当者さまにおかれては、ISSB基準の次のテーマのひとつと目されている「生物多様性、生態系及び生態系サービス」*1  も気になるところではないでしょうか*2

そこで。

今年前半のブログは、「生物多様性、生態系及び生態系サービス」をメインテーマに据えて、何回かに分けて基礎知識や最近の動向をお話していきたいと思います。

 

素朴な疑問:生態系「サービス」ってそもそも何?

さて。

生物多様性ならわかるけど、生態系「サービス」って何だろう…

そう思われた方はいらっしゃいませんか?

 

実は私自身が、最初にこの言葉を聞いたときにそう思いましたので、本日はまず、このご説明から始めたいと思います。

「生態系サービス(Ecosystem Services)」とは、自然が私たちに提供する恩恵のことを指します。

 

私たち人間が生きていくために必要な食糧や水はもちろん、衣食住に関する多くのものは「自然」に由来しています。(中略)森林が緑のダムと言われるように、清らかな水を供給するだけではなく、洪水などの自然災害を軽減する働きもあります。

さらに、「自然」には、森林浴やスキューバダイビングを楽しむといった観光やレクリエーションの価値もありますし、文化や芸術にインスピレーションを与えるといった価値もあります。

TEEBでは、こうした「自然」の恩恵を「生態系サービス」と呼び、「生態系サービス」等の供給源としての天然の資本のことを「自然資本*3と呼んでいます。

(出典:環境省自然環境局 生物多様性主流化室編 TEEB報告書普及啓発用パンフレット「価値ある自然」

なるほど。統合報告でおなじみの「6つの資本」のひとつ、自然資本は「生態系サービスの供給源」と定義できるのですね。だいぶわかりやすくなりました。

 

生態系サービスは4つに分類される

生態系サービスにはさまざまなものがありますが、通常は4つに分類できるとされています*4 *5

 

 

生態系サービス間のトレードオフには注意が必要

生態系サービスの利用、あるいはその向上をはかる施策をとるときには、「トレードオフ」、つまり、ある生態系サービスが向上する一方で他の生態系サービスが低下する関係に注意する必要があります。

 

トレードオフの具体例をいくつか書いてみました。

施策の例
生態系サービスへの影響
備考
供給
サービス
調整
サービス
生息・

生育地
サービス

文化的
サービス
食料供給(供給サービス)を増やすために森林を伐採して農地を拡大する P N N N 食料供給が増加し、経済的利益が得られるが、森林が提供する気候調節や水質浄化などの機能や、生息地としての機能が低下する可能性
再生可能エネルギー(調整サービス)を確保するために、河川にダムを建設する N P N N クリーンなエネルギー供給と気候変動緩和のためダムを建設した結果、川の流れが変わり、漁業資源の減少や下流の農地への水供給などに影響が出る可能性
生物多様性の確保のため、湿地を復元する N P P 湿地の復元により渡り鳥や両生類などの生息地が回復し水質浄化への貢献もある一方、農地面積が減少することで、短期的な食料供給が低下する可能性
自然を利用した観光(文化サービス)を促進するために、道路、ホテルなどを整備する N N N P 観光収益や地域経済の活性化が図られる一方、インフラ開発による森林破壊が進み、野生生物の生息地喪失の可能性

図表:当社作成。P=ポジティブな影響、N=ネガティブな影響の可能性

 

バランスをとるのは難しいことですが…

実はこの「バランス」という考え方、まさに今、サステナビリティ界隈で注目されていたりします。

 

この件については、また回を改めてお話いたしますね。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:ISSBが公表したプレス・リリース等の和訳「ISSBが自然及び人的資本に関連するリスク及び機会に関するリサーチ・プロジェクトを開始」(2024年4月23日)

*2 さらに言うならば、「生物多様性国家戦略」では、行動目標として「企業による生物多様性への依存度・影響の定量的評価、現状分析、科学に基づく目標設定、情報開示を促すとともに、金融機関・投資家による投融資を推進する基盤を整備し、投融資の観点から生物多様性を保全・回復する活動を推進する」ことを掲げています。

また、「自然分野で遅れまいとする思いや、開示が将来義務化される前に自主開示で経験を積みたい考えがある」(出典:日経ESG『TNFD早期開示に日本企業80社』2024.02.07)との考えからか、TNFDの「早期開示宣言」を行った日本企業も80社あります。

*3 出典元には以下の注釈がつけられていますので、ここにも転記いたします。

自然の恵みである土地、動物、魚、植物、再生可能または不可能な資源、鉱物資源など天然の資本を表し、利用することはできるが、自らの手で創造することはできないもの。(出典:「環境経済学をつかむ」栗山・馬奈木、2008、有斐閣)

*4 国連の主導で行われたミレニアム生態系評価(MA)では生態系サービスを供給サービス・調整サービス・文化的サービス・基盤サービスに分類していますが、ここではTEEB(The Economics of Ecosystem and Biodiversity; 生態系と生物多様性の経済学。「ティーブ」と読む)の分類にしたがっています。

*5   出典:環境省ホームページ「自然の恵みの価値を計る」生物多様性と生態系サービス

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