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「日本でストライキは起きない」の潮目に変化が起きるか:
年末年始例外荷役・初の中止に思うこと

ニュース / 人権 / 人的資本開示 / 脱炭素

ホリデーシーズンはストライキの季節?!

明日はいよいよ、クリスマスイブ。

クリスマスからお正月へと続くホリデーシーズンはなにかと心が浮き立つ時期ですね。

海外旅行やショッピングを計画されている方も多いかと思いますが、そうした方々が、気を付けておかれたほうがよい(かもしれない)と思われることがひとつあります。

それは、ストライキです。

 

交通機関でも物流関係でも大規模ストライキが発生中

交通機関に関して言えば、たとえばフランスで11月後半から12月にかけてストライキが集中している状況にあります(例年9月から始まるデモやストライキが、2024年は政府の政策発表の遅れによりずれ込んだようです)。特に、SNCF(フランス国鉄)やRATP(パリ交通公団)、航空業界、農業団体などがストライキを予告・実施しており、国民生活に大きな影響を与えています*1

 

ショッピングに関係する「物流」に関しては、週末に

米Amazon配達員、賃上げ求めスト 年末の繁忙期狙う(12月20日)

との報道がありました。

2024年11月から12月にかけて、Amazonの労働者たちは「Make Amazon Pay」キャンペーンの一環として、ブラックフライデーからサイバーマンデーにかけての繁忙期にストライキを実施しています。この運動は、アメリカ、イギリス、ドイツ、インドなど20カ国以上で展開され、労働者たちは賃上げや労働環境の改善、労働組合の権利の尊重を求めています。

 

「物流の2024年問題」を乗り切ったかに見える日本ですが…

こういった問題は一見、日本に住む私たちにはあまり関係がないかのように思われます。

国内で起きた大規模ストライキといえば、記憶に新しいのは、2023年の西武池袋本店スト*2ぐらいですし、「物流の2024年問題」が起きると言われていた今年がまもなく暮れようとするのに、物流関連で混乱やストライキが起きたという報道はありません。

ですが、実は。今、(あまり大きく報道されてはいませんが)現在進行形で、物流関係のストライキが起きているのです。

 

導入から20年。港湾で初の「年末年始例外荷役」停止へ

国土交通省から経済産業省に宛てた、こちらの「協力依頼」をご覧ください。

年末年始に港湾荷役が実施されないことに伴う対応について(協力依頼)

 

年末年始の港湾荷役につきましては、毎年、港湾ユーザーからの荷役実施の要望を受け、港湾運送の使用者団体である一般社団法人日本港運協会、港湾運送の労働組合である全国港湾労働組合連合会及び全日本港湾運輸労働組合同盟の間で協議を行い荷役の実施等を決めています。

 

本年度におきましても、労使協議が進められてきたところですが、労使間の主張の隔たりが埋まらず、協議が整わなかった結果、年末年始(12/31~1/4)の港湾荷役が実施されないこととなりました。

 

年末年始の港湾荷役は、これまで20年以上にわたり継続されてきたところであり、今回の事態が物流に影響を及ぼすことが懸念されます。

 

つきましては、貴省におかれましては、荷主関係団体に対し、物流の混乱を防止し、国民生活に対する影響が極力小さくなるよう配慮していただきたい旨を周知下さいますようお願い申し上げます。

 

2024年度に港湾での年末年始荷役が中止されるということは、長年続いてきた「年末年始例外荷役」の歴史を終えるもので、実は、物流業界にとって非常に画期的な出来事なのです(なぜか、報道では大きくとりあげられていないように見えますが)。

 

港湾の年末年始荷役が中止された背景にあるものは

長年続いてきた「年末年始例外荷役」の歴史を終わった、その背景には何があったのでしょうか。

3つほど理由を挙げてみました。

1. 労働環境改善への要求

港湾労働者は、年末年始の荷役作業が長時間労働を助長し、ワークライフバランスを損なうと訴えてきました。今回の中止は、以下のような労働者側の要求が強まった結果です:

長時間労働への不満:
年末年始例外荷役は、多くの労働者にとって休暇が取れない要因となっていました。家族と過ごす時間が削られることへの不満が蓄積していました。

労働環境改善の潮流:
日本全体で進む働き方改革の影響を受け、港湾労働者も他業界同様、労働時間の短縮や待遇改善を求める声を上げています。

2. 労使交渉の難航

港湾事業者と労働組合の交渉が合意に至らなかったことが、今回の中止に直接つながっています。

賃上げと労働条件の改善:
労働組合側は、賃金の引き上げと年末年始の休暇確保を求めていました。
一方、事業者側は物流の停滞を懸念し、例年通りの荷役作業継続を望んでいました。

合意不成立:
双方の主張が折り合わず、例外荷役を実施しないという結論に至りました。

3. 物流2024年問題の影響

2024年4月施行の働き方改革関連法により、トラックドライバーなど物流全体での労働時間規制が強化されています。この影響が港湾労働者にも波及していると考えられます。

物流の効率化へのプレッシャー:
陸上輸送の制約が強まる中、港湾労働者にも効率化の要求が高まり、過剰な労働負担となる年末年始例外荷役の実施に限界が生じました。

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うーむ、こんなところに物流2024年問題のしわよせが来ていたのですね…。

 

実は「例外」だった、年末年始の港湾荷役

ところで。

先ほど私は、 “長年続いてきた「年末年始例外荷役」” と書きました。

そう。「年末年始の荷役」って「例外」だったのです。

この件を少し、ご説明しておきますね。

年末年始例外荷役の歴史

日本では、2001年の労使間合意以降、元旦を除く年末年始の期間中も「例外的に」港湾での荷役を継続する」という慣行が続いていました。

これは、年末年始の物流需要が高まる中で、効率的な貨物輸送を維持するために設定された特別措置です。

とはいえ、働く人の立場からすれば、年末年始は通常業務を休むことが一般的であり、この期間中の勤務は大きな負担となっていました。そのため「例外荷役」という形で、労使間の協議によって合意される形で特別対応をしてきたのです。

具体的には、港湾労働者の労働組合が、追加手当などの条件で年末年始の例外業務に協力してきました。

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今年は、長年にわたるその「協力」が終わった、ということなのですね。

 

労働環境の改善と環境対応、物流効率化の転換点になるか

年末年始は、企業が年度末に向けて生産計画を調整する重要な時期であり、港湾荷役の中止により、貨物の輸送スケジュールに遅延が生じるリスクが高まります。特に、国際的なサプライチェーンに依存している産業では、部品の供給が遅れることで生産に影響が出る可能性もあるでしょう。(その意味では、私たちがこの出来事の本当の影響を知るのは、年明けしばらく経ってからなのかもしれません)

このように影響が大きいことから、港湾荷役の中止は、一見すると物流業界にとってマイナスの出来事のように思われます。

しかし、これはむしろ、労働環境の改善と効率化の両立を実現するための大きな転換点になるのではないか…と私は考えています。

 

港湾労働者の不足については、国土交通省や厚生労働省がそれぞれ計画を策定し、取り組みを進めています*3 。 ですが、世界的にみれば、港湾労働者についての関心はむしろ、港湾の効率化と二酸化炭素排出量削減を目的に自動化システムへの移行が進むことにより、労働者の仕事がなくなる(あるいは対応できなくなる)ことへの懸念にある*4 からです。

 

港湾で働く人々のワークライフバランスを確保しつつ、環境対応の進展とより効率的な物流の追求によって港湾の世界的競争力を向上させる――今回の「年末年始例外荷役」停止は、労働者と事業者、政府が一体となってこうした未来への取り組みをはじめるきっかけになるかもしれません。

 

引き続き、業界の動向に注目しつつ、新たな年の改革進展に期待していきたいと思います。

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長々と書いてしまい、失礼しました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 参考資料:ニューズウィーク日本版「年末にかけてのフランスはデモ・ストライキの波 ストライキは必要か?」(2024年11月15日)他

*2 大手百貨店では約60年ぶりのストライキに発展した事例として、ニュースでも大きくとりあげられました。

*3 参考資料:
国土交通省 「港湾労働者不足対策アクションプラン」を策定 ~未来の港湾物流の維持・発展のために~
厚生労働省 港湾雇用安定等計画(令和6~10年度)の概要

*4   参考資料:世界経済フォーラム「自動化が進む中、港湾が牽引できる労働者に公正な移行とは」(2024年11月21日)

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