2024年もまもなく終わりを迎えるとあって、メディアでは最近、「2024の〇〇ランキング」的な記事が増えています。
本日は、その中のひとつである 24年の映画興収「年間トップ10」示すヒットの傾向(東洋経済) をとっかかりにしてブログを書いてみたいと思います。
2024年の興行収入100億円超えは、
の2本だったそうです。
「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」は、私も劇場へ見に行きました。
普段は、仕事が忙しいとかなんとか言い訳をして、劇場には足を運ぶのをおっくうがる私ですが、ハイキュー!!は映画館(以下、劇場)で見る、と最初から決めていたのです。
劇場で見たかった最大の理由は、「音」でした。
ハイキュー!!のアニメは『体育館でのバレーシューズが響く「キュッキュッ」という音や、ボールをアタックする音など…実際に体育館でバレーボール経験者に何度もプレイしてもらったり、取材協力してくださるチームの音を録らせて頂いたりと、リアルな音に音響チームがこだわって*1』 作られているので、映画館で観ることで臨場感が高まると思ったのです。
結果は、期待以上でした。特に、バレーボールが立てるさまざまな音は圧巻の迫力で、私は、この東洋経済の記事を読みながら、しばらくの間、頭の中にバレーボールの音を響かせていたのでした。
そんな感傷にひたっていた週末、私は、日経GXでこんな記事を見つけました。
軸受け改善で船の燃費1%向上 バレーボールのミカサ(2024年12月16日)
ミカサと言えば、バレーボールの国際大会で使用を認められているボールメーカーのひとつです。
(ちなみに今回の劇場版ハイキュー!!の試合で使われていたボールもミカサのものでした)
実は私、ミカサとモルテンが本社を置く広島の出身ですもので、もともと、両社には親近感を持っていたのですが…ミカサが、船の軸受けを製造しているとはまったく知らなかったのです。
俄然興味を持った私は、この件について調べてみることにしました。
ミカサが製造する船舶用軸受は、主に船のプロペラシャフトを支えるための部品です。軸受は船舶の運行を支える重要な役割を果たしており、過酷な環境で使用されるため、耐久性や防食性が求められます。
ミカサは、バレーボール製造で培ったゴム・樹脂の加工技術や耐久性設計を、この分野に応用しているようです。具体的には、バレーボールの外装や内部素材で開発された技術を耐摩耗性が求められる船舶用軸受に最適化し、均一な製造品質を追求する精密成形技術を軸受に必要な高精度加工に活かすなどの工夫が行われています。
より詳しい解説は、文末の脚注*2にまとめてみましたので、よろしければあわせてご参照ください。
ミカサがスポーツ用品メーカーでありながら、船舶用軸受の分野に進出した背景には、危機感があったようです。
「ボールはコモディティー(汎用)化が進む」(佐伯社長)との危機感も抱えてきた。競技人口の大幅な増加を見込みにくいなか、市場の成長には限界があるとみている。対策として本腰を入れ始めたのが船舶部品の拡販だ。
船舶部品事業は75年に参入した。エンジンの動力をスクリューに伝える軸を支える「軸受け」と呼ばれる部品が主力製品だ。内側に貼り付けたゴムがクッションとして機能し、大型船の軸の重みにも耐える。競技用ボールづくりで培ってきたゴムの配合技術のデータを、摩耗への耐性や衝撃吸収に生かしている。
出典:日経電子版「ミカサ、バレーボールを88カ国に 船舶部品で成長加速 地域発世界へ 広島市」(2022年1月11日)
1975年といえば、日本の造船業が急成長していた時期です*3。そして、ミカサは、広島市の産業です*4。日本最大の海事都市である今治市と瀬戸内海をはさんで「お向かい」の関係にあることは、船舶用軸受への参入を容易にしたのかもしれません。
さて、実は歴史の長いミカサの船舶用軸受。
従来は国内向けが中心だったそうですが、ここ数年で「欧米を中心に海洋汚染への規制が厳しくなり、需要が盛り上がってきている*5」のだそうです。
サステナビリティ規制の強化が「機会」になっている、ということなのですね!
さて。
今回のミカサのお話は、保有する技術や資産を活用することで事業の「機会」を生み出した事例であると同時に、サステナビリティ規制の強化という(他の作業にとっての「リスク」が)ミカサにとっての「機会」になった、という事例でもあります。
このような「機会」は、丁寧な機会とリスクの分析を経ることで、御社でも発見できるかもしれません。
サステナビリティのリスクと機会の特定と開示は、SSBJ対応の核となる部分です。それってどうすればいいの…??と思われたかた、ぜひ当社にお声かけくださいませ…!
などと最後に宣伝をはさみつつ、本日のブログを終わりたいと思います。
本日もお読みいただきありがとうございました。
執筆担当:川上 佳子
*1 劇場版「ハイキュー!! FINAL」公式X(Twitter)アカウントの投稿より。
*2 技術転用の詳細:バレーボールから船舶軸受へ
■ゴム・樹脂加工技術
バレーボールの外装には高耐久性と適度な柔軟性を持つ特殊なゴムや樹脂が使用されています。この素材は、衝撃を吸収しつつ反発力を維持する必要があります。また、使用中に均一な性能を発揮するため、経年劣化への強さも求められます。これらは、船舶用軸受にも応用が可能です。
船舶用軸受では、海水や湿気に対する耐腐食性、高負荷環境下での耐摩耗性が重要です。これに応えるため、ミカサが持つゴム・樹脂加工技術が活かされています。例えば:
- 海水潤滑軸受では、摩擦を最小限に抑えるために特殊ゴムが使われます。
- 長時間の摩耗にも耐えるゴム配合設計が、プロペラシャフトの滑らかな回転を支えています。
■精密成形技術
バレーボールの製造では、球体が完全に均一であることが求められます。特に国際試合で使用される公式球では、ほんのわずかなズレでも性能に影響を与えるため、ミカサは非常に高精度な成形技術を持っています。これらは、船舶用軸受にも応用が可能です。
軸受は、シャフトとのクリアランスが極めて重要であり、製造精度が直接性能に直結します。ミカサの高精度成形技術はこの要求を満たす製品を生み出しています。具体的には、
- 軸受の表面を滑らかに仕上げることで、摩擦を減少させエネルギー効率を向上
- シャフトとのフィット感を最適化することで、長寿命化を実現
■耐久性設計
バレーボールは繰り返しの衝撃に耐えなければならないため、素材や構造が劣化しにくい設計がされています。ミカサは耐久試験を徹底的に行い、数十万回の使用にも耐えられるボールを提供しています。これらは、船舶用軸受にも応用が可能です。
船舶は長期間にわたり海上を航行するため、軸受も高い耐久性が求められます。ミカサの設計思想は、次のような形で反映されています。
- 高耐久ゴム素材を使用し、摩耗や疲労に強い製品を開発
- 海水に含まれる塩分や微粒子による劣化を抑えるため、特殊なコーティング技術を採用
*3 国土交通省「1 激動の1970年代を経て」
*4 なぜミカサ(やモルテン)が広島市にあるのかについては、読売新聞オンラインの記事
『「モルテン」と「ミカサ」、本社のあるボールのまち広島…きっかけは朝鮮戦争と「針」』が勉強になりました。
*5 出典:日経電子版「ミカサ、バレーボールを88カ国に 船舶部品で成長加速 地域発世界へ 広島市」(2022年1月11日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。