DEI / おすすめの本 / 人的資本開示 / 勉強用(初学者様向け)
昨日のブログでは、経済学が男女の所得格差という問題に向き合ってきた「伝統的な三つのアプローチ」についてご紹介しました。
本日のブログでは、その3つ目である「差別」についての続きをお伝えします。
法律等で禁じられているにもかかわらず、雇用における女性差別は、依然として存在するのでしょうか。
実証することが難しいため伝統的な経済学ではあいまいにされてきた*1 この問題について、ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授(2023年のノーベル経済学賞受賞者)らの研究は、「女性であることを理由に、採用で差別」が存在することを示しました。
雇用における女性差別は、存在する。
男女所得格差問題に直接影響がある理由ではないかと伝統的経済学がみなしてきた3つの要因のうち、「差別」はその理由になりそうだ、ということですね。
…と、ここまでお読みになって
「いやいや、ちょっと待ってくれよ」
と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
好みによる差別*2をしているのならまだしも、統計的差別*2(例:男性の離職率が低いのに対し、女性は結婚や出産などによる離職率が比較的高いという過去の結果を踏まえ、男性を雇用する、などの行動) ならば、それは企業として合理的な行動でしょう?それを差別というのはおかしくないですか?
それにそもそも、女性は管理職になりたがらない傾向があるのだから…とお考えになるかたもいらっしゃるかもしれません。(実際、こういった説明は、有報の男女賃金格差の「要因」としても多く記載されていますので…)
この点についてもう少し丁寧に検討するため、いったん本書を離れて、別な研究者の見解を確認してみることにします。
シカゴ大学社会学教授の山口一男氏は、2024年9月2日、首相官邸における説明会「男女賃金格差の主な決定要因と格差是正の対策について」で、男女賃金格差の主な要因は以下の3つであると述べています。
この結果を見て、
「ほら、やっぱりね。管理職になりたがらないのも、(賃金が高い)STEM分野に就職しないのも、女性の選択でしょう?だったら、それは「差別」ではないでしょう」
とお考えになったかた。
そこまでいかなくとも
「うーん、やっぱり女性自身の選択の結果なのでは…?」と思われたかた。
いずれのかたにも、本書『ジェンダー格差――実証経済学は何を語るか』(中央公論新社)の考察が役立つと思いますので、このシリーズ次回のブログ(来週になるかもしれませんが)ではこの点についてお話したいと思います。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 従来は「学歴や経験年数、職業や産業などの特徴が同じ男女で比べてもなお、そういった特徴では説明できない男女賃金格差や所得格差があるとしたら、それが差別だとみなして」きました。しかしこの方法について、筆者は「説明できない要因には、差別もあるでしょうが、研究者には観察できないそれ以外の特徴もあるでしょうから、これでは実証研究としてものたりません」と述べています。(本書p195より)
*2 「好みによる差別」「統計的差別」については、前回のブログをご参照ください。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。