本日、11月21日はフランス産ワインの新酒「ボジョレー・ヌーボー」の解禁日です。
この日を待っていた!というかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
10月後半にはすでに、もはや風物詩といえる「今年のボージョレ・ヌーボーが到着しました」という空港発のニュースが続々届いていました。
今年の味わいは「果実が踊るようなジューシーな味*1」とのことですが、実は、ボージョレ・ヌーボーにはこうした味わいの特徴を示す「公式キャッチコピー」があること、そして、そこにはサステナビリティとの関連があることをご存じでしょうか。
本日はこの話題をお届けしたいと思います。
エノテカオンラインさんのホームページでは、ボジョレーワイン委員会の公式見解であるキャッチコピー*2を、2000年から2022年までまとめて読むことができます。
この内容が「年々良い評価となってきているように見え」る理由について、エノテカオンラインでは
これは生産者や販売側のビジネス戦略というわけではなく、温暖化によりブドウの完熟度が上がり、結果的に凝縮感のある状態で収穫されるようになってきているからです。
温暖化というとネガティブなイメージを抱いてしまうかもしれません。確かに深刻な環境問題ではありますが、その年の気候によってはブドウを完熟させることが難しかったワイン産地でも、ワイン産地においては温暖化の影響で良いワインが造れるようになってきており、ボジョレー地区もこれに当てはまるというわけです。
(出典:エノテカオンライン「ボジョレー・ヌーヴォーのキャッチコピー裏話」(更新日 : 2024.11.5))
※太字は筆者によるもの
と、ワインの味わいに気候変動が影響していることを指摘しています。
確かに気温の上昇は、「ある程度であれば」糖分を蓄積させ、二次化合物のアントシアニンやタンニンなどを理想的な量まで増加させることにつながります*3ので、おいしいワインを作る上でプラスに働くと言えます。
しかし問題は、気温の上昇が「ある程度」を超えてしまったときです。
高温は、成熟スピードや果実の日焼け、病気や虫の発生などの形でブドウに影響をおよぼし、味わいをそこなったり、収穫量を減らしたりの原因となってしまいます。
実際、日本の代表的なブドウ産地である山梨県においても気温上昇傾向は続いており、これがブドウ収穫量減少の一因ではないかともいわれています。
一方、気温上昇の恩恵を受けている地域もあるようです。
なんと、気候変動の影響を受け、北海道の産地でワイン用ブドウ「ピノ・ノワール」の栽培が可能になっているのだとか。
少し古いデータではありますが、農研機構によれば
「1998年以降、生育期の4~10月の期間の平均気温は、北海道のワイン用ブドウ産地である後志地方の余市町や空知地方の三笠市で、世界のピノ・ノワール産地の生育期間の温度帯に近いものとなっている」のだそうで。
(出典:農研機構「気候変動で北海道の産地でワイン用ブドウ「ピノ・ノワール」が栽培可能に」)
この結果、「北海道農政部の調査では、2010年に16.8ヘクタールだった北海道全体でのピノ・ノワールの栽培面積が、2020年には40.1ヘクタールです。10年で約2.5倍に増加している*4」との記事もありました。
すでに起きてしまっている温暖化の中で、ワインをどう作っていくかは、日本のワイン産地にとって大きな問題です。
この点について、サントリーグループさんでは
などの取り組みに加え、
「産地も品種も変えたくない/変えられない」場合の解決策*5として、ぶどうの収穫期を遅らせる「副梢(ふくしょう)栽培」という新たな技術を開発し、実践しておられるのだそうです。
副梢栽培とは、通常、ぶどうは4月ごろに芽吹き、これが新梢として育って9月ごろに収穫を迎えますが、副梢栽培ではこの新梢の先端をあえて切除し、そのあとに芽吹く脇芽を育てることにより、ぶどうの成熟開始時期を7月中旬から気温の下がり始める9月上旬ごろまで遅らせて熟期をずらして、11月中旬頃に収穫できるようにする栽培方法です。
(出典:サントリーホームページ「ワイン用ぶどうの副梢栽培による気候変動への挑戦」)
副梢栽培の効果として「収穫量は大きく変わらず、もともとの目的であった糖度の上昇にも効果が出ている」という状況*6のようです。
サントリーさんのホームページによれば、「この栽培方法で生産されたメルロからのワインはとても色濃く、果実の凝縮感があり、通常栽培されたものとは全く異なり品質も高いものでした。手間はとてもかかりますが、温暖化に対抗する有効な対策の一つだと思います*7」とのこと。
がぜん興味が湧いてきましたので、近々一度、「サントリー登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)」の見学に行ってみたいなと思いました。今年のブドウ収穫はもう終わってしまっているとは思いますが、色々なお話が聞けるのではと期待しています。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:NHK 関西 NEWS WEB「ボージョレ・ヌーボー 第1便が関空に到着」(2024年10月23日)。コメントはサントリー輸入ワイン戦略部の岡野三菜 課長のもの。
*2 エノテカさんによれば、公式キャッチコピーには2種類あるそうです。この点について「エノテカオンライン」では以下のように解説されています。
実は、日本で出回っているボジョレー・ヌーヴォーのキャッチコピーは2種類あります。
一つ目は、現地のボジョレーワイン委員会によるブドウの評価をもとに、フランス食品振興会(SOPEXA)が発表した公式見解を和訳したもの。二つ目は、その情報をもとに日本で作られたキャッチコピーです。
後者については、公式見解よりも日本人により分かりやすく伝えるためにつけられており、少し誇大広告気味だと指摘されることもあります。
(中略)
エノテカでは毎年、ボジョレーワイン委員会の公式見解を皆様にお伝えしています。
(出典:エノテカオンライン「ボジョレー・ヌーヴォーのキャッチコピー裏話」(更新日 : 2024.11.5))
*3 出典:WIRED「気候変動の影響で、“いつものワイン”が姿を消す? 猛暑と干ばつへの適応を迫られる生産者たち」(2024年3月27日)
*4 出典:ウェザーニュース「気候変動はワイン産地にも影響 北海道では高級品種ピノ・ノワール生産の適地に」(2024年11月21日)
*5 出典:日本ワイン.jp「【前半】日本ワインの未来を創る!サントリーの「持続可能な日本ワインづくり」とは?」(2022年8月19日)
*6 出典:ITmediaビジネスオンライン「酒離れでも「日本ワイン」じわり成長 サントリーが“二兎”得る試み」(2024年10月2日)
*7 出典:サントリー ワインスクエア「本当にそうなの?ワインの常識・非常識 登美の丘ワイナリーの今(日本・山梨県・甲斐市)」(「あした使える!ワイン知識」)2022年11月
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。