このブログがスタートして、1週間が経ちました。
“サステナビリティ任意開示の「これ、どう書こう?」に効くブログを目指します” とのお約束どおり、今週は、「コーポレート・ガバナンス」をテーマに、より具体的なお話を書いていこうと思います。
本日採り上げるのは「ガバナンス改革/体制 の 歩み/変遷」などのタイトルで載っていることが多い、あの年表(?)です。
企業さまのウェブサイトや統合報告書のコーポレート・ガバナンスページを見るとよく載っているあの年表、「他社も載せているし/当社でも今まで載せていたし、今年もとりあえず載せておけばいいよね」で掲載していませんか?
もしそうなら、今回のブログはお役に立てるのではと思います。
今回は、この表には「落とし穴」があり、そこにはまると、読者に伝わらないものとなる可能性が大きいことをお伝えいたしますので。
「ガバナンス改革/体制 の 歩み/変遷」の特徴は、表自体が「毎年成長してしまう」ことにあります。
つまり、(1年に1回更新している場合)毎年、書くべきことが増えてしまう。
すると、当然ながら
表のサイズが大きくなる
という事態が生じます。
年表形式なら縦に、図表形式なら横へと、表が伸びていってしまうのです。
その結果、次のようなことが起きやすくなります。
① 表と文章が分離する
② 表の整理が進み、伝えたいことが不明瞭に
上記の「①表と文章が分離する」は多くの場合、“紙面の都合”でおきます。
印刷が想定されているPDF版レポートでは特に、大きな図があるときはそれを指定のページ内におさめることがどうしても優先となっていきます。
その結果…
文章などの、ある意味 “調整しやすい”コンテンツは、 「次のページに移動」や「文章の量を減らす」といった対応がとられやすい…という可能性が…あります・・・
(すみません、我々SusTBも制作会社ですので、ここは歯切れが悪くなってしまうのですが)
では、上記の「②表の整理が進み、伝えたいことが不明瞭に」は、どんな時に起きるのでしょうか。
一概には言えないかもしれませんが、私のこれまでの経験では、「伝えたいことが何なのかを意識しない」状態で単に文字数だけを整理したり、要素をまとめたり(例:ガバナンス強化の歩みを“機関設計” “取締役数”などのカテゴリにわけて、変遷を記載する)したときに起きることが多いように思います。
もちろん、要素をまとめること自体には良い面もあるのですが、文章での説明がなかったり、文章が離れたところに配置されたりしていると、「この表から何を読みとればよいのか?」と読者は困惑してしまいます。
今回のブログを書くにあたり、TOPIX Core30企業様の開示状況を調べてみました。
ウェブサイト、もしくは統合報告書に「ガバナンス改革/体制 の 歩み/変遷」の表を掲載しておられる企業さまは、30社中16社。うち7社がHTMLページ、9社はPDF(別PDFが開く形、もしくは統合報告書の中のみに掲載しHTMLに掲載しない形)となっていました。
調べてみて改めて気づいたのは、掲載企業様の多くが、1990年代後半~2000年代前半をスタート地点として、ガバナンス強化の歴史について表を掲載されていたことでした。
となると20年超えの内容ですので、単なる年表形式にはせず、要素をまとめた一覧表へと工夫してまとめておられる企業さまが多くありました。そして、その結果、上述のような理由で「伝わらない」表ができあがってしまっている事例も、残念ながら複数みられたのです。
ちなみに、文章と表の内容とレイアウトがかみあっていて、すっきりと伝わる!と私が感じたのは、ソフトバンク様の統合報告書2023 p52 に掲載されていた「コーポレート・ガバナンス体制の強化」でした。
ソフトバンク様の場合、掲載すべき年数がそもそも短い(注:同社の上場は2018年12月)からすっきりまとまっている、というところは確かにあるかもしれません。
ですが、
そもそも、そんなに長い年数の「ガバナンスの変遷」を載せる必要性は、本当にあるのでしょうか。
ご存じのように、コーポレート・ガバナンスに対する投資家等の関心は、形ではなくその実効性へと移っています。
ガバナンスが機能した結果、「攻め」と「守り」が強化され、結果として企業価値が向上してきた。(そして今後もそうなるであろう)――その説明としてふさわしい形が、「早くからガバナンス強化に取り組んできた」を示す「年表」や「図表」なのかは、改めて検討する時期に来ているのではと私は考えます。
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本日も長いブログとなってしまい申し訳ありません。
少しでもご参考になっていましたら幸いです。
ESGの構成要素のひとつではあるものの、企業内では別部署さまが担当されていることも多い、コーポレート・ガバナンスのページ。 サステナビリティ担当者さまとしては「提出された原稿をそのまま掲載」あるいは「既存の開示内容をかき集めて作成」となることも多いのですが、実は、制作担当者さまだからこそ気づける・工夫できることは色々あるのです。
次回以降も、そんなポイントを少しずつ採り上げて、ご一緒に考えていきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。