昨日(11月7日)は、立冬。気がつけば朝晩はすっかり冷え込むようになり、煮込み料理やあたたかいスープを召し上がる機会も増えてきたことと思います。
スープやパスタ、煮込み料理などに欠かせないトマト缶は、ごく日常的な食材として私たちの生活に溶け込んでいます。しかし、この身近な製品が「サプライチェーンにおける人権問題」の入り口として意外にも重要な示唆を含んでいることをご存じでしょうか。
企業のサステナビリティ担当者さまの中には、サプライチェーンにおける人権問題は「何から取り組めばよいかわからない」とおっしゃる方もおられます。そして、私自身もまだまだ、サプライチェーンの人権問題については学んでいる途中です。
そこで、本日そして来週のブログでは、サプライチェーンの人権問題について、少しずつ学んでいく短期連載をしてみようと思います。第1回となる今回は、身近なトマト缶を通じて、サプライチェーン全体に潜む人権問題を学ぶ第一歩を踏み出してまいります。
さて。まずはひとつ質問です。
トマトの大産地といえば、どの国を思い浮かべますか?
イタリアやスペインを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実は、これらの国々はトップ3には入っていないのです。
圧倒的1位は、中国。
かなり離れますが、第2位は、インド。その後ろに、トルコ(第3位)・アメリカ(第4位)・エジプト(第5位)と続きます。
(出典:野菜情報サイト「野菜ナビ」)
豊富なトマト生産を誇る中国では、トマトの加工も盛んです。
なかでも、トマト加工品の世界取引量の約18%を生産している*1のは…中国北西部の「新疆ウイグル自治区」なのです。
あれ? 「新疆ウイグル自治区」って聞いたことがある…
もしかしてあの、綿製品の…? と思った方。正解です。
新疆ウイグル自治区 での強制労働が疑われて「綿」が大問題となったあの時、実は同時に、トマト缶の問題も指摘されていました。
低賃金や過酷な労働条件、不十分な住環境などの「人権侵害」が蔓延していることが報告されています。報酬や環境面での保護が欠如した労働条件が、いわば「現代の奴隷労働」だと指摘されているのです。
綿やトマト製品だけでなく、独BMWや英ジャガー・ランドローバー(JLR)、独フォルクスワーゲン(VW)の自動車部品にも、同地区での強制労働で製造された部品が使われているとの話も米議会で報告されていました*2。
問題が大きく取り上げられ、輸入禁止措置などもとられているのに、なぜこの問題がなくならないのか。
多くの企業が「サステナブルな調達方針」を掲げる一方で、具体的な改善の取り組みが進まない原因のひとつは、現地のサプライチェーンが複雑に入り組んでいるためです。供給業者、下請け業者、さらには地域の労働ブローカーなど複数の関係者が関与しており、企業が実態を把握しづらい構造となっています。
(日経電子版2024年6月4日「ウイグル、巧妙化する強制労働(The Economist)」でも、強制の実態が見えにくいことが説明されています)
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来週以降のブログで、このあたりの話をもう少し調べていきたいと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:日経電子版 2024年6月4日「ウイグル、巧妙化する強制労働(The Economist)」
*2 出典:日経電子版 2024年5月23日「[FT]米上院報告書、ウイグル強制労働のリスクを強調」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。