サステナビリティレポート制作会社である私たちは、「ギャップ」という単語を聞くと、反射的にギャップ分析*1のことかと思ってしまうのですが… 本日は、違う「ギャップ」のお話です。
10月24日付で、 国連環境計画(UNEP)が、世界各国のGHG排出量の動向についてまとめた「2024年ギャップレポート」を公表しました。
ここで言うギャップとは、各国が誓約したGHG排出削減量と、2050年ネットゼロを目指すパリ協定の目標や、国が公約する削減目標であるNDCs(日本の目標は外務省のページで見ることができます)と、実際の排出量実績との「差」のことを指しています。
「2024年ギャップレポート」について、一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)のページを見てみましたところ、タイトルからして気になるものとなっていました。
「国連環境計画(UNEP)」2024年排出量ギャップレポートで、日本はNDCの達成可能性「低い」と評価。G20の「先進国」中で唯一、「排出量削減策の透明性欠く」との評価も(RIEF)
レポートは各国のNDCs目標の「適格性」を評価する分析もしている。複数の独立研究機関の調査報告書を比較する形での評価では、目標達成が可能との評価が多いのは、中国(5機関が〇、1機関が×)、EU(2機関〇、1機関×)、インド(4機関〇)、トルコ(3機関〇)、ロシア(3機関〇、1機関×)、これに対して、米国は評価報告を公表している7機関すべてが×としたほか、日本(3機関×)で、オーストラリア、ブラジル、インドネシアと同じだった。隣国の韓国は1機関〇、2機関×で、南アフリカと同じ評価だった。
(出典:RIEFホームページ)
気になったので、レポートの該当箇所を読んでみましたところ、確かに、こんな図表がありますね…
ただ、報告書原文の該当箇所を読むと、「日本だけが」というわけではないことがわかります。(もちろん「日本だけじゃないから大丈夫」という話でないことは承知していますが)
G20のうち11か国は「既存の政策ではNDC目標を達成できない」と評価されているのですね。
Overall, eleven G20 members are assessed to be falling short of achieving their NDC targets with existing policies. Besides Indonesia for the reasons described above, Saudi Arabia is also assessed this year to be less likely to achieve its NDC mainly due to the revised estimates of the updated NDC in the literature after more information became available on the assumed baselines.
全体として、G20の11カ国は、既存の政策ではNDC目標を達成できないと評価されている。前述のインドネシアに加え、サウジアラビアも、想定されるベースラインに関するより多くの情報が入手可能になったことを受け、最新のNDCの推定値が文献で修正されたことを主な理由として、NDCの達成可能性が低いと今年評価された。
ただし、EUは様相が異なるようで。
The European Union is now assessed to be on track to meet its NDC as more studies quantify the likely impact of recent policies including the Fit for 55 package and the RE PowerEU plan.
EUは、 Fit for 55*2 やREPowerEU*3を含む最近の政策の影響を定量化する研究が増えたことを受け、NDCを達成する軌道に乗っていると評価された。
さすが、いち早くCSRDを法制化している地域は違いますね…
このレポート、まだまだ気になる内容が載っていそうです。
引き続き読んでみまして、気になる点があればご報告します。
それではまた次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1:開示要求を満たすためのスタート地点となる作業。現在のサステナビリティ報告体制が開示基準やESG評価機関の要求事項をどの程度満たしているのかを評価するために、開示項目と自社現状との間のギャップを分析する作業。
*2:EUにおける気候変動政策パッケージ。
*3: 欧州委員会が 2021 年 7 月 14 日に発表した気候変動に関する政策パッケージ。省エネ、エネルギー供給源の多様化、クリーンエネルギー移行の加速を軸とした将来計画。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。