個人的な話で恐縮ですが、私には、サステナビリティの分野に身を置く楽しみがいくつかあります。
そのひとつは、「ニュースがつながって見える」ことです。
サステナビリティは広範な領域にまたがるため、個人的な関心だけでは追いきれないような幅広いテーマのニュースに日々触れ、考えることになります。
そうしているうちに、ぱっと見では関係がないように思えていたニュースとニュースの間に関連が見つかり、ひそかに嬉しくなる瞬間が増えてきます。そんな毎日の発見が楽しいということもあって、私はサステナビリティ分野に飽きることがありません。
さて、今週前半のサステナビリティ関連イベント(?)として私が注目していたのは、8月27日開催の「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」でした。
この会議、趣旨は「脱炭素社会の構築に向けた施策の検討」にあるのですが、
ニュース性があると捉えられるのは「東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働」であるようで…
会議前の段階から、このような報道が出ていました。
政府は東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働に向けた環境を整えるため原子力関係閣僚会議のメンバーを拡大して開催する方針だ。岸田文雄首相が退任する前の9月に課題を議論する。地元の要望に丁寧に対応する姿勢を示す。
首相が27日に首相官邸で開くGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で表明する見通し。
(出典:日経電子版2024年8月27日 1:05「柏崎刈羽の再稼働、閣僚拡充で会議 地元同意へ環境整備」)
ではなぜ、原発再稼働という話になるのか。
背景にあるのは、
政府は太陽光や風力といった再生エネの拡大だけでは電力需要が足りなくなる恐れがあるとみて、幅広い電源への投資の支援を検討する。
(出典:日経電子版2024年8月26日 19:20 「政府のGX戦略たたき台、原発など予見性向上で推進」)
との認識で。
そして、なぜそんなにも電力が足りないのかと言えば、それは、生成人工知能(AI)の普及にともなうデータセンターの電力消費量急増が見込まれているからなのですよね。
生成AIの普及に伴うデータセンターの活用は急増し、AIを支える半導体の製造にも大量の電力が必要になる。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、世界のデータセンターの電力消費量は26年までに倍増するという。
一方、日本は50年までに温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロを目指しており、脱炭素電源を十分に確保する必要がある。日本のエネルギー自給率は1割強に過ぎず、地政学リスクへの対応力も高めておきたい。
(出典:日刊工業新聞電子版 2024年5月14日「社説/政府「GX会議」再開 AI普及へ「脱炭素電源」拡充を」)
電力を確保し続けなければならない。しかしその一方で、2050年ネットゼロを実現しなくてはならない。つまり、「電力の安定供給と脱炭素を両立」することが求められる中での選択肢として原発再稼働の話が出ている、ということがわかります。
以上を踏まえると、こんなニュースにも関心がわいてきます。
「生成AI(人工知能)の急速な普及などにより、データセンターの消費電力が急増」しているとの説明から始まっている記事です。
データセンター事業者はエネルギー効率を高めようと工夫しているものの、それを踏まえても勢いは止まらない。供給できる電力量がボトルネックになり、生成AIの進化などIT(情報技術)関連の世界的なトレンドに日本が追随できなくなるかもしれない。
「これまでは演算装置やネットワークを当たり前のように使えてきた。ただこれからは電力が制約になり得る」。三菱総合研究所の綿谷謙吾政策・経済センター研究員は、日本が将来抱え得るインフラの課題をこう指摘する。
(出典:日経電子版 2024年8月26日「国内データセンターは「超大規模AI」に耐えられるか」)太線部は筆者によるもの。
電力が(成長の)制約になり得るとなれば、政府としても本気にならざるを得ませんね。
さて。生成AIを運用するのに使われる画像処理半導体(GPU)のデファクトスタンダード*1を握っているのは、NVIDIA(エヌビディア)です。
だからこそ、
ということになるのですね。
ちなみに、データセンターの電力では「調達する」以外に「電力消費を抑える」への関心も高まっており、なかでも「サーバーの冷却にかかる消費電力」をどう抑えるかは大きな課題です。
生成AIを運用するのに使われる画像処理半導体(GPU)を搭載するサーバーは、従来のCPU(中央演算処理装置)サーバーと比べて発熱量が大きい。そのため従来の冷却方法でGPUサーバーを冷却するには多量の消費電力が必要になるだけでなく、そもそも冷却が追いつかないケースもある。
(出典:日経電子版 2024年8月26日「国内データセンターは「超大規模AI」に耐えられるか」)注記*2は筆者によるもの。
上記の記事ではNTTコミュニケーションズさんの「液冷」が紹介されていますが、NVIDIA(エヌビディア)も、次世代半導体を搭載したBlackwellプラットフォームに関連し、ハイブリッド液冷ソリューションを発表したとのことで、こちらも注目を集めているようです。
なお、政治の分野では週初めにこんなニュースもありました。
河野氏が持論の「原発ゼロ」を事実上棚上げした、ということで話題になっていたようですが、個人的には、河野氏は政府のDXを推進してきた人なのでそう言わざるを得ない状況だとわかっておられるのだろうな…との感想を抱いた次第です。
長々と失礼しました。
最後に、サステナビリティ×データセンターにご興味をお持ちになったかたが、さらにこのテーマについて調べる際、役立つのではと思われる資料を数点、ご紹介します。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
脚注
*1 出典:東京大学 松尾豊 「GXを実現するためのDX・AIの活用」(2024年7月2日) p7
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。