スイスの食品大手のネスレ社がマーク・シュナイダーCEOの退任を発表したとのこと、日経電子版の記事で知って、突然のことでしたので驚きました。
退任するマーク・シュナイダー現CEOは、2017年からネスレ社CEOを務めています。就任当時、食品業界の経験はありませんでしたが、健康とウェルネスへの注力、そしてポートフォリオマネジメントによって、同社の成長を牽引してきた人物です。
私がマーク・シュナイダー氏の名前を知ったのは、サード・ポイント*1 からの構造改革要求を受けていたとする一連の報道*2を通じてでした。
サード・ポイントは、今週のブログでも採り上げてきたセブン&アイ・ホールディングスに対して、2015年にイトーヨーカ堂の分離などを求めた*3ことがありますし、ソニーに対しても事業改革の提案を繰り返してきたことでも知られています。
ネスレ社がサード・ポイントからの構造改革要求を受けていたのは、2017年。シュナイダー氏は当時、食品業界の経験もなく、かつ、就任後間もない時期に厳しい提案を受けたことになりますが、それを乗り越え、ネスレ社を成長軌道に乗せました。
そんな人物がこのたび突然のCEO交代に至ったとのことで、それだけ小売業界が厳しいということなのかもしれない…と、ブルームバーグの記事を読みつつ認識を新たにした次第です。
さて。
サステナビリティ業界に身を置く者としては、やはり、CEO交代と聞いて真っ先に気になったのは「ネスレ社のサステナビリティへの取り組みが後退してしまわないだろうか?」ということでした。
9月1日に就任する新CEOは、中南米を統括するローラン・フレイシェ氏とのことで、どんな人物なのだろう…とお写真を探してみたところ、ロイターの記事に載っていたのですが、
…あれ?
この人物、どこかで見たことがあるぞ?
と既視感を覚えました。
そこで、
記憶を掘り起こしつつ、ネスレ社のYouTubeチャンネルを見てみたところ、ありました!
なんと、このお方、ネスレのグローバルなユースイニシアチブ「Nestlé Needs YOUth(ネスレ・ニーズ・ユース)」の10周年を記念するビデオ「Commemorating the 10th anniversary of Nestlé Needs YOUth」 2023(2023年10月24日)で語っていた人物だったのです。
実はこのビデオを視聴した昨秋、私は、なぜ彼がNestlé Needs YOUthについて語っているのだろう?と不思議に思っていたのですが、
今回、改めて調べてみたところ、フレイシェ氏こそがこの取り組みを推進している人物なのですね。
Laurent plays a leading role in promoting youth employment and employability across the company. Starting in Europe, he launched the Nestlé Needs YOUth initiative in 2013. It provides a wide range of employment opportunities for young people under 30, strengthening their capabilities and professional skills, and has the ambition to help 10 million young people around the world have access to economic opportunities by 2030.
(ローラン氏は、ネスレ全体で若者の雇用とエンプロイアビリティの推進に主導的な役割を果たしており、2013年には、ヨーロッパを皮切りにネスレ・ニーズ・ユース・イニシアチブを立ち上げた。これは、30歳未満の若者に幅広い雇用機会を提供し、彼らの能力と専門的スキルを強化するもので、2030年までに世界中で1000万人の若者が経済的機会を得られるようにするという野心的な計画だ。)
(英文の出典は、Nestle社ホームページ。和文は、執筆者による仮訳)
なお、フレイシェ氏はWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)*4のExecutive Committeeメンバーでもあります。
以上の情報を見る限り、フレイシェ新CEOの就任を受けて、ネスレ社のサステナビリティへの取り組みが即後退するということはなく、むしろ、人材投資を中心に加速する部分があるのかも…との期待も湧いてきました。
ネスレ社の人材への取り組みについては、また別の機会にお話できればと思います。
今週も、お読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 サード・ポイントって何?と思った方には、マネックス証券の記事などがご参考になると存じます。
*2 たとえば、ウォールストリートジャーナル「ネスレ、サード・ポイントの要求に動じず」(2017年6月27日)や、ブルームバーグ「ローブ氏がネスレへの圧力強める-3部門への分割やロレアル売却要求」(2018年7月2日 )など。
*3 ご参考記事:日経電子版「ヨーカ堂、「特別」でなくなった祖業 再起へ外部資本」(2024年4月10日)
*4 「WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)は、持続可能で公平な世界を目指すために協力する200社を超える企業のCEO連合体」(出典:NIKKEI COMPASS)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。