サステナビリティレポート制作工程の中で、実は手間がかかるんだよねとおっしゃる方が多いのが「対照表」。これに関して最近よくうかがう担当者さまのお悩みは、どれを作る?いくつ作る?問題です。
GRIは以前から作っているから今年も。
業種によってはSASBも加えたほうがいいね。
TCFDも作った方がよさそうだね。あ、今後はTNFDもね。
そうそう、今後はESRSも必要になりそうだから準備しておいてね!
…と、こんなふうに環境変化にあわせて作ってきた結果、増える一方の対照表。
作るの大変だなぁ、ちょっと数を減らせないかなぁ…
そんなふうに思っておられる方が多いからなのでしょうか。
あるいは、社内でそういったお声があがっているのでしょうか。
「GRIってもう古いよね?」
「今年からはGRI対照表*1、載せなくていいよね?」
制作現場では今年、こんなふうに同意を求められる(?)ことが増えているように思います。
振り返ってみれば、GRIガイドライン *2 の初版が出たのは、2000年。
なんと四半世紀近く前のことなのですね。
「GRIはもう古いんじゃないの?」とお考えになる方があるのも無理はないのかもしれません。
ですが…すみません。
ご期待に沿えず申し訳ないのですが、
GRI対照表は作り続けたほうがいいと、私たちは考えています。
GRI対照表を作り続けたほうがいいと私たちが考える理由として、まずはこちらがあります。
GRIの大きな特長のひとつは、その採用企業数の多さです。
WBCSD*3 の2024レポートによれば、メンバー企業の83%が自社の報告はGRIスタンダードに準拠していると宣言しています。
日本企業では準拠ではなく参照が多いようではありますが*4 、それでも大企業の7~8割がGRIスタンダードを使用していると言われるなど、高い普及率を誇っています。
そして、これだけ普及していますとやはり、利用者側からすれば「他社比較ができるので便利」となりますし、情報開示の連続性という意味でも重要性があるのです。
以下の2つは、単にGRI対照表を作るだけでなく、もっと積極的にGRIスタンダードを「活用」したほうが良いと私たちが考える理由ですが、せっかくの機会ですのであわせてお伝えさせてください。
GRIスタンダード(特に項目別スタンダード*5) を改めてご覧いただくと、ESGの「S(社会)」の分野で最近重視されるようになってきたテーマの大半がすでに書かれていることに気づかれるのではないでしょうか。
私自身も最近、ESRSについて勉強する中で、ESRS S3 Affected communities(影響を受けるコミュニティ)で問われる「先住民族の権利」や「地域コミュニティ」などの内容が、GRIにすでに入っていた(しかも2016!)ことに気づきました。
それもそのはず、GRIは、ESRSを策定しているEFRAG とはパートナーシップ関係にあるのです。
GSSB *6 の理事である待場智雄氏は、
と話しておられます。
ESRS開示対応が当面必要ない企業さまにおいても、ESGの「S」の開示を充実する上で、また、ESG評価/格付機関や投資家の要請を理解する上で、ESRSの理解は重要になる可能性があります。
とはいえ、ESRSは実に1,000以上のデータポイントを有する膨大な内容であり、どこから手を付ければ良いのやら??…と途方に暮れてしまいそうにもなります。
そうした中、日本企業になじみ深いツールである「GRIスタンダード」を活用することでESRSの理解と対応への準備ができるのは朗報ではないでしょうか。
サステナビリティ担当者さまが今、ESRSと同じかそれ以上に気にしておられるのが「SSBJ基準」であると存じます。
SSBJ基準はISSB基準(ISSBが2023年6月に策定したサステナビリティ開示基準)の日本版ですが、ご安心ください、GRIスタンダードは(ESRSだけでなく)ISSBとの連携も図られています。
今年(2024年)1月には、GRI305(大気への排出 2016)とIFRS S2との整合性マッピング資料が公表されました。
また、GRIが最近発表した「GRI 101(生物多様性 2024)」と、ISSBの生物多様性、生態系、生態系サービスに関する今後のプロジェクトでも、協力関係が強化されるとの発表がありました。
長々と書いてしまいましたが…
GRIはその歴史の長さゆえに「古い」と思われてしまいがちですが、実は、ESRS開発の基盤のひとつとも言える位置づけにあり、現在もEFRAG・ISSBの双方と協力を深め、進化を続けていることをお伝えできていましたら幸いです。
それではまた、次回のブログで!
川上 佳子
*1:「GRI対照表」という名称は、通称です。正式名は「GRI内容索引」なのですが、「対照表」という名称を使っておられる企業さまが多いため、ここではあえてこの記載形式をとっております。
*2:GRIガイドラインは、2015年には「基準(スタンダード)」という位置付けを明確化するため名称を変更しました。現在は「GRIスタンダード」となっています。
*3:World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)
*4:GRIスタンダードの使用には、「準拠」と「参照」の二つの選択肢があります。詳しくは国際開発センター(IDCJ) SDGs室のnoteなどをご参照ください。
*5:GRIスタンダードには、以下の3種類があります。
・共通スタンダード … すべての組織に適用される
・セクター別スタンダード … 個別のセクターに適用される
・項目別スタンダード … 個別の重要な項目に関連する内容
*6:GRIの開示規格設定組織である「グローバル・サステナビリティ基準審議会」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。