前回に続いて、国内航空大手2社(日本航空、ANAホールディングス)の統合報告書を「リスク」に関して読み解くブログを書く予定だったのですが、
昨日(8月19日)午後、突然飛び込んできたセブン&アイ・ホールディングスさん(以下、セブン&アイと記載)のニュースのインパクトがあまりにも大きいため、急遽予定を変更し、同社様のリスクマネジメントとコーポレートガバナンス、そして開示について思うことを少し書いていきたいと思います。
カナダのコンビニエンスストア大手であるアリマンタシォン・クシュタールが、セブン&アイに対し買収提案をしたことが明らかになりました。
第一報を知ったのは日経電子版でしたが、その後、セブン&アイのホームページでリリース「一部報道について」を読んで、少し驚きました。
なぜなら、このリリースの説明が、予想よりも充実していたからです。
一部報道において、本日8月19日、当社に対するアリマンタシォン・クシュタール社からの買収提案がなされたとの報道がありましたが、これは当社から発表したものではありません。
当社が、アリマンタシォン・クシュタール社より内密に、法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実であり、当該提案を検討するために当社取締役会において取締役会議長であるスティーブン・ヘイズ・デイカスを委員長とし、独立社外取締役のみにより構成される特別委員会を組成しております。株主の皆様をはじめとする当社ステークホルダーの利益の最大化を図る義務を果たすべく、特別委員会は、当該提案を当社のスタンドアローン計画及び当社の企業価値を向上させる他の選択肢とともに、慎重かつ網羅的に、しかし速やかに検討し、その後当社としてアリマンタシォン・クシュタール社に返答する予定です。なお、当社取締役会及び特別委員会は、アリマンタシォン・クシュタール社からの提案を受け入れ若しくは拒否するか、同社と議論を開始するか、又は代替的取引を進めるかに関し決定しておりません。
今後、開示すべき事実が決定又は発生した場合には速やかに公表いたします。
以 上
(出典:株式会社セブン&アイ・ホールディングス 2024 年8月19日付リリース「一部報道について 」)
ご承知のように、「一部報道について」のようなタイトルで企業が発表するリリースは、
~との報道がなされていますが、当社が発表したものではありません
+
何かあれば速やかに公表します
が定型文なのか?と思ってしまうほど、決まりきった形になっていることが多いです。
(そっけないというか、木で鼻を括ったような…というべきか…)
セブン&アイにおいても、たとえば
などでそのようなリリースをしていたと記憶していましたので、今回の「説明」は意外に感じたのです。
今回の買収提案について、セブン&アイではすでに社外取締役で構成する独立委員会を立ち上げており、「株主の皆様をはじめとする当社ステークホルダーの利益の最大化を図る義務を果たすべく」「慎重かつ網羅的に、しかし速やかに検討」し、返答すると説明しています。
日経電子版は、同社のこのような対応の背景には2023年に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」があると指摘しています。
2023年に経済産業省が定めた「企業買収における行動指針」では、経営支配権を目的とした買収提案は取締役会に付議または報告するよう求める。真摯な買収提案であれば真摯な検討が必要だとしている。セブン&アイは指針を踏まえ、アリマンタシォンの提案を検討するため、社外取締役による独立委員会を立ち上げた。
(出典:日経電子版 2024年8月19日「セブン&アイに買収提案 カナダのコンビニ大手」)
「企業買収における行動指針」に書いてあるのは、原則的なことだけではありません。
たとえば「第3章 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範」は
第3章 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範
3.1 買収提案を受領した場合
3.1.1 取締役会への付議・報告
3.1.2 取締役会における検討
3.2 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合
3.2.1 想定される場面
3.2.2 買収比率や買収対価による差異
3.2.3 株主にとってできる限り有利な取引条件を目指した交渉
3.3 公正性の担保-特別委員会による機能の補完・留意点 .
となっており、「実際に場移出提案があった場合にどうすべきか」までかなり具体的に記載されています。
セブン&アイの対応は、これら指針を踏まえたものだと日経の記事は述べているのです。
日経の指摘に大いにうなずきつつ、私としてはもう一点、気になること・調べてみたいことがあります。
それは、セブン&アイのリスクに関する開示です。
同社様の有価証券報告書を見ると、3【事業等のリスク】の記述が充実している、との印象があります。
リスクマネジメントやコーポレートガバナンスの充実が、今回の迅速な対応に表れていると見ることはできるのでしょうか。
この点については今後調べてみて、わかったことがあればまたご報告したいと思います。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。