統合報告書やサステナビリティレポートの制作支援をお仕事とするようになってから、20年以上が経ちました。
その間に携わらせていただいたレポートは、企画段階からフルコミットしたものもあれば、ライターやファシリテーターだけを担当したケースもあり…とさまざまですが、全体を通してみれば、トップメッセージ(インタビュー含む)に携わらせていただいた経験が多いように思います。
そこで今回は、トップインタビューをお引き受けした時に私がどのような準備をしているかをお話してみたいと思います。
取材が決まったとき、真っ先に確認したいのがここです。
何文字まで書くことが許されるのか。
少なくとも何文字を書かなければならないのか。
きっちりとした文字数が必要というわけではありませんが、
400字なのか、800字なのか。
2000字なのか、3000字以上なのか。
そのあたりは事前に知っておきたいと思っています。
文字数が少ない場合、より研ぎ澄まされたメッセージを載せる必要がありますし、
文字数が多い場合は、複数の要素をスムーズに読める構成に仕立てねばなりません。
その心づもりをするところから、私の取材準備は始まります。
「文字数が少ない」ことが必ずしも「取材時間が短い」につながるわけではありませんが、
「色々なテーマについてお話をうかがったのに、原稿に書いたのはほんの一部だけ」ということは(失礼にあたるので)起こらないよう、質問量にあわせた時間設定をご提案するようにしています。
ご提案する時間は、45分~60分となることが多いです。
(アイスブレイクや撮影での中断などに15分ほどかかるものと考え、実際にお話をうかがうのは30分~45分との想定です)
クライアント企業様から「この時間しかとれません」と指定されることも、もちろんあります。
その場合、ご指定の時間内に終えることをより強く意識したスケジュールを組みます。
たとえば、
などの準備をします。
1と2を終えたら、いよいよ事前勉強です。
ここはもう、徹底してやります。
事前勉強の対象は、
(1)企業様に関する内容
(2)企業様の業界に関する内容
(3)経営者さまご本人に関する内容
の3種類となることが多いです。
インプットは短期間に集中して行い、その後、
一度目の質問案作成
↓
一度目の原稿案作成
と進めていくことが多いです。
事前原稿は作るときも作らないときもありますが、2000字以上の原稿になるときは、一度原稿を作っていることが多いです。
事前原稿はクライアント様に見せるためのものではありません。
自分自身のため、質問項目をより精緻なものにするために作っています。
原稿のおおまかな構成を作り、そこに何を入れるのか、どんな要素が必要なのかを書いてみたからこそ「あ、これをお聞きしておかなくては!」と臨場感(というより危機感?)をもって質問すべきことがわかってきますので…。
ここまでの準備をしたところで、一度作成した質問項目に加筆修正をし、クライアント企業さまに提出します。そして、企業さま側の期待値やご要望などもおうかがいし、やりとりをしながら質問項目を仕上げていきます。
インタビューは、どんなに準備をしてもしすぎるということはありませんが、取材当日はできるだけ、準備してきたことを「忘れる」ように努めています。
私にとって事前準備はあくまで、当日、スタートラインに立つ資格を得るため。そして、お話をおうかがいする経営者さまや、取材を手配してくださった方々に真摯に向き合うためのものです。
(決して「自分はこれだけ勉強してきたんだぞ」とひけらかすためのものではありません)
当日、その時間だけお会いできる経営者さまの言葉をできるだけフラットな状態でとらえられるように。
万が一にも「自分が考えたシナリオに誘導」するといった失礼をすることがないように。
そのために私は、勇気をもって
準備してきたシナリオをいったん手放す
ように心がけています。
上場企業様の場合すでに開示されている資料なども多くありますので、極端なことを言えば、直接お話をおうかがいしなくともトップメッセージを作成することは可能です。
ですが、せっかくお話をおうかがいする機会を得たからには、その方ならではのニュアンスをしっかりと加えたい。そして、そのニュアンスを作るためには、限られた時間の中で、できるだけ多く、その方ならではの言葉の選び方や価値観、論理展開の作法などを吸収して帰りたい。
そのためには、自分が準備してきたことを意識的に「忘れる」ことが、私には重要なのです。
「忘れる」にも通じることですが、私は、トップインタビューと原稿制作に関しては
準備は入念に。本番は淡々と
を心がけています。
トップメッセージはもともと、経営者さまご自身の言葉で書くべきもの。私はインタビューと原稿の「たたき台」づくりを通じてそのお手伝いをしているだけ、と認識しているからです。
どんなに良い原稿ができたと思っても、それが大きく変えられることなど日常茶飯事。というより、変えられないことなどない、と申し上げたほうが良いでしょうか。
私にできることは、可能な限り・想定できる限りの準備をした上で、インタビュー当日はできるだけ経営者さまご本人にイキイキと語っていただけるような黒子の役割を果たすこと。そして、原稿制作にあたっては、経営者さまをはじめ、皆さまの想いを、そして読み手が期待している情報をしっかりと反映した原稿とはどのようなものなのか?を具体的な「たたき台」の形にして提出することです。
その結果として、クライアント企業さまの社内でメッセージ制作が「スタート」すれば良い、私はそう思っています。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。