先日、新幹線の「ひかり」に乗ったところ、車内はほぼ満席でした。どこまで行く人たちなのだろうと思っていると、熱海駅で若い人や家族連れがぞろぞろと降りていきます。
熱海市の2025年度の宿泊客数は、入湯税ベースで約320万人。2001年度以降で最高水準です。コロナ前の2018年度と比べても3.4%増えており、一時的な反動だけでは説明できません。
一方、熱海駅は2016年に全面リニューアルされ、駅前広場も整備されています。それでも少し街へ目を向けると、古い建物が残っています。熱海は、街全体を一度壊して作り直すことで復活したわけではありません。
熱海はかつて、団体旅行と宴会需要に支えられた温泉地でした。その需要が縮むなか、若年層や家族、少人数旅行へと対象を広げ、温泉と宿泊だけでなく、街歩き、食、歴史・文化など、すでにある地域資源を新しい観光体験として組み直してきました。
空き店舗には新たな事業者が入り、熱海銀座などではリノベーションによる再活用も進みました。一方で、駅や駅前広場、宿泊施設などには新しい投資も行われています。
つまり、何も投資しなかったのではありません。既存資産の使い方を変えつつ、必要なところには投資した。この組み合わせです。
ROICは、NOPAT(税引後営業利益)を投下資本で割った指標です。新しい設備や拠点への投資は、まず分母である投下資本を増やします。利益への貢献に時間がかかれば、短期的にはROICを押し下げることもあります。
一方、既存の設備や拠点について、用途や顧客、商品、運営方法を変えることで利益を増やせるなら、大きく投下資本を増やさずに分子を高める余地があります。
稼働率の低い工場や店舗があるとき、新設や建て替えを考える前に、別用途に使えないか。違う顧客に売れないか。運営方法を変えられないか。
成長投資の説明も同じです。「何に投資するか」だけでなく、「なぜ既存資産では足りないのか」まで説明できれば、資本配分の判断はずっと見えやすくなります。
資産を入れ替える前に、その資産から利益を生む仕組みを入れ替えられないか。
熱海の復活は、ROIC経営でそんな問いを考える格好の材料になります。
ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。