「お試し」のつもりが定期購入になっていた。「在庫わずか」と表示され、急いで購入した。契約は簡単だったのに、解約しようとすると何度も画面を移動しなければならない。
こうしたウェブサイトの設計で消費者の判断を誘導する「ダークパターン」について、消費者庁が特定商取引法による規制を導入する方針だと、8月21日付の日経電子版が報じました。
現時点では規制案の正式資料は公表前ですが、企業にとっては、ECサイトの表示だけを確認すれば済む話ではなさそうです。表示内容に加え、申込みから解約までの画面設計や手続き全体が問題になる可能性があるからです。
消費者庁は2026年1月から「デジタル取引・特定商取引法等検討会」で議論を続けています。これまでの検討では、定期購入などの契約条件を形式上は表示していても分かりにくくしているケースや、契約時と比べて合理的な理由なく解約手続きを過度に複雑にしているケースなどが取り上げられてきました。
6月に公表された消費者庁の消費者意識調査では、過去1年間に何らかのダークパターンを経験した人は37.5%でした。架空サイトを使った実験でも、解約の妨害が強いほど「解約した」割合が低くなる傾向が確認されています。
つまり、書くべき情報を書いたかどうかだけではなく、消費者がその情報を理解し、自分の意思で契約や解約を判断できる設計になっているかが問われます。
ここからは、IR・サステナビリティの担当者様にも関わる話です。
先ほどの実験結果は、解約手続きの設計によって、解約率という数字自体が変わり得ることを示しています。解約する人が減れば、結果として継続率は上がります。
では、その継続率をそのまま「顧客から支持されている証拠」と考えてよいでしょうか。
継続率やLTV、リピート率は、統合報告書や決算説明資料などで、顧客との関係性を示す数字として使われることがあります。しかし、同じ継続率でも、顧客が積極的に利用を続けている場合と、解約しにくいために利用を続けている場合とでは意味が異なります。
これは消費者庁が示している見解ではなく、今回の規制検討から企業側で考えておきたい論点です。
顧客関連指標を見るのであれば、数字だけではなく、誤申込み、返金、苦情、解約手続きの負担などもあわせて確認する必要があります。継続率やリピート率だけを見ても、その背景にある顧客体験までは分からないからです。
サステナビリティ担当者様が、一つひとつの画面を確認する必要はないでしょう。商品・マーケティング、デジタル、法務・コンプライアンス、顧客対応など、実際の顧客接点を担う部門との役割分担が必要です。
そのうえで確認したいのは、売上や継続率を上げるためのUI変更を、誰が、どのような基準で承認しているかです。購入率や継続率だけを評価基準にしていれば、消費者にとって分かりにくい設計が「KPIを改善する施策」として採用される可能性があります。
もう一つは、苦情や解約に関する情報が、顧客対応部門だけで止まらず、商品や画面設計の見直しまでつながっているかです。
ダークパターン規制への対応は、まず禁止される表示や設計を確認する作業になるでしょう。ただ、それだけではありません。
自社が「顧客から選ばれている」と説明するとき、その根拠となる数字が、顧客自身の意思によって作られたものなのか。今回の規制検討を機に、そこまで確認しておきたいところです。
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。