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価値創造モデルは「持続可能な社会」で終わっていい?──金融庁の意見要旨を読んで

価値創造ストーリー / 統合報告書

統合報告書の価値創造プロセス図では、「事業活動→社会課題の解決→持続可能な社会の実現」という流れをよく見かけます。

企業から社会へ向かう矢印です。

では反対に、社会や自然の状態がよくなることで、その企業には何が戻ってくるのでしょうか。

水が安定して使える。人材を確保できる。取引先や地域経済が維持される。市場そのものが長く機能する。企業によって答えは違いますが、こちら側の関係は、価値創造プロセス図ではまだあまり説明されていません。

2026年8月5日に金融庁が公表した「サステナブルファイナンス有識者会議(第30回)意見要旨」を読んでいたところ、この「戻り」とつながる記述がありました。

 

「一社の成長」だけではなく、「市場全体」を考える

今回の意見要旨では、気候変動やネイチャーポジティブ、経済格差の拡大、人口減少に伴う地域の衰退、AIの発展に伴う働き方の変化など、さまざまな課題が相互に関係しているとの認識が示されています。

そのうえで目を引くのが、「市場全体の底上げ(ベータを高める)」という表現です。

「ベータ」という言葉になじみがなくても、ここでは難しく考える必要はありません。

個別の企業だけが利益を上げればよいのではなく、その企業が活動する経済や社会、市場そのものが長く機能できる状態をつくる。それが、幅広い企業や資産に投資する投資家にとっても重要だ、という議論です。

一社の企業が高い収益を上げても、気候変動による災害が増え、自然資本が失われ、地域経済が弱り、市場全体が不安定になれば、投資家のポートフォリオ全体も影響を受けます。

だから、個別企業の価値向上だけでなく、その前提となる社会や自然、市場の状態にも目を向ける必要がある。今回の意見要旨は、そうした方向を示しています。

※金融では一般に「β(ベータ)」は、個別銘柄が市場全体の値動きにどの程度反応するかを表す言葉として使われます。今回の「ベータを高める」は、そのβ値を高くするという意味ではありません。

 

企業側にも関係する指摘がある

今回の意見要旨には、企業側についての指摘もあります。

たとえば、サステナビリティ推進部門と事業戦略との距離や、取締役会における理解についてです。サステナビリティが専門部署だけの取り組みになり、事業や経営の判断と十分につながっていない企業があることが課題として挙げられています。

金融機関についても、サステナビリティに関する対話を単発の提案で終わらせず、継続的な対話を通じて顧客企業の事業やビジネスの実態を把握することの重要性が指摘されています。

サステナビリティを特別なテーマとして切り出すのではなく、企業そのものを理解するための材料として扱う。金融機関側でも、そうした方向が意識されていることがわかります。

※なお、今回公表されたのは有識者会議で出された意見を整理した文書です。新たな開示制度やルールが決まったわけではありません。

 

社会をよくすると、企業には何が戻ってくるのか

それでも、今回の議論は企業開示を考えるうえで気になるところがあります。

多くの価値創造モデルでは、企業が社会や自然に何をもたらすのかは説明されています。

脱炭素に貢献する。資源循環を進める。地域社会を支える。人々の健康や暮らしを改善する。

では、その結果として社会や自然の状態がよくなることは、自社の事業にどう影響するのでしょうか。

たとえば、水資源が保全されれば、水を利用する工場の操業を続けやすくなります。地域が維持されれば、人材の確保や事業継続の条件も整います。取引先を含む産業基盤が強くなれば、自社だけでは維持できないサプライチェーンの安定にもつながります。

「社会に良いことをするから企業価値が上がる」と書くだけでは、この関係は説明できません。

自社が依存する社会や自然の状態がどう変わり、それによって自社のリスクや収益機会、事業継続の条件がどう変わるのか。そこまでつなぐことで、初めて「なぜ企業がサステナビリティに取り組むのか」が企業価値の説明になります。

 

価値創造モデルの右端を、一度見直してみる

もちろん、今回の意見要旨を受けて、すぐに価値創造プロセス図を描き直す必要があるわけではありません。

ただ、次回の統合報告書を考えるときには、一度確認してみてもよいのではないでしょうか。

自社の価値創造の説明が、「持続可能な社会の実現」で終わっていないか。

社会や自然の状態がよくなることによって、自社には何が戻ってくるのか。その結果、自社の事業や企業価値はどう変わるのか。

企業から社会へ向かう矢印は、すでに多くの企業が描いています。

次に問われるのは、その反対側の関係をどこまで説明できるか、なのかもしれません。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

 

参照
金融庁「『サステナブルファイナンス有識者会議(第30回)意見要旨』の公表について」(2026年8月5日)
https://www.fsa.go.jp/news/r8/singi/20260805.html

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