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業種分類が変わると、ESG評価の物差しも変わる――GICS見直し案をどう読むか

開示基準等

2026年7月17日、MSCIとS&P Dow Jones Indicesは、世界産業分類基準「GICS」の見直し案を公表し、意見募集を開始しました。

(ご参考)
S&P DOW JONES INDICES AND MSCI ANNOUNCE CONSULTATION ON POTENTIAL CHANGES TO THE GLOBAL INDUSTRY CLASSIFICATION STANDARD (GICS®)

今回の主な対象は、半導体、AIデータ関連サービス、高性能コンピューティング・アズ・ア・サービス、基盤モデル開発、金融機関向けソフトウェアなどです。意見募集は10月30日まで。変更の有無と実施時期は11月に公表される予定です。現段階では、変更が決まったわけではありません。

一見すると、AI企業や投資指数に関するニュースに見えます。しかし、プライム上場企業のサステナビリティ担当者にとっても、無関係ではありません。

GICSは、企業を投資家がどの業種として捉えるかを決めるだけでなく、MSCI ESG RatingsやS&P Global Corporate Sustainability Assessment(CSA)において、評価項目や比較対象を設定する際の基礎にもなっているためです。

 

GICSは、単なる「業種名」ではない

MSCI ESG Ratingsでは、GICSで定義された産業サブグループごとに、環境・社会面のESGキーイシューが選ばれます。評価対象となるキーイシューは業種によって異なり、それぞれのウェイトもGICS産業サブグループごとに設定されます。

最終的なスコアは、業種ピアとの比較によって調整されます。つまり、同じ情報を開示し、同じ取り組みを続けていても、所属業種や比較相手が変われば、評価上の位置づけが変わる可能性があります

 

S&P GlobalのCSAも、GICSをもとに企業のCSA業種を決定しています。CSAには62の業種別質問票があり、質問内容や評価ウェイトは業種によって異なります。スコアは同じ業種に属する企業との相対評価であり、異なる業種間のスコアを直接比較するものではありません。

したがって、GICSの見直しは、名称の付け替えにとどまりません。

自社が何の会社として評価されるのか。どのESG課題を重く見られるのか。誰と比較されるのか。その前提が動く可能性のある話です。

補足説明:
ただし、GICSはサステナビリティ開示基準ではありません。ISSB基準で参照されるSASBスタンダードは、「SICS」という別の産業分類で構成されています。GICSの変更によって、ISSB・SSBJ対応で用いる業種別開示項目が自動的に変わるわけではありません。

 

AI企業ではなく、事業モデルで分類する

今回の見直し案で注目したいのは、AIに関係する企業を一つの「AI業種」にまとめようとしているわけではないことです。

たとえば半導体については、AI向けチップか、それ以外かという用途別の分類も検討されました。しかし、複数用途の製品を扱う企業が多く、企業開示から安定的に切り分けることが難しいとして、事業モデルによる分類が提案されています。

具体的には、独自製品を設計・販売する半導体企業と、ファウンドリーや組立・検査を受託する製造サービス企業を分ける案です。太陽電池やモジュールなどは、情報技術セクターから資本財・サービスセクターの新しい産業サブグループへ移すことが提案されています。

AIの学習に使われるデータの収集、注釈、ラベリング、合成データ生成などを担う企業は、情報技術ではなく、資本財・サービスセクターの「情報処理・外注サービス」に含める案です。

一方、計算能力をサービスとして提供する事業は、インターネットサービス・インフラに位置づけます。基盤モデルの開発企業は、当面「システムソフトウェア」に分類し、将来、独立した産業サブグループを設ける必要があるかを検討するとしています。

金融機関向けのソフトウェアやテクノロジーサービスについても、情報技術から金融セクターへ移し、新たに「フィナンシャル・テクノロジー」を設ける案が示されました。

ここで分類の基準になっているのは、企業が「AI企業」や「フィンテック企業」と名乗っているかではありません。何を顧客に提供し、どこで収益を得て、どのような設備や人材を使い、どのリスクを負っているのか。事業モデルの違いです。

今回の資料には、開示が不十分なために用途別の分類を一貫して適用できない、という説明が繰り返し登場します。これは、分類を行う側の課題であると同時に、企業側の事業開示に対する示唆でもあります。

 

自社が「何の会社として読まれているか」を確認する

今回の見直し案の対象に直接該当する企業は、まず、自社の現在のGICS産業サブグループと、変更案の内容を確認する必要があります。

ただし、確認したいのはGICSだけではありません。

MSCI ESG Ratings上の業種、S&P Global CSAの業種、SASB・SICS上の業種を並べてみると、同じ会社であっても分類が完全には一致しない場合があります。それぞれの分類が、どの評価項目や開示項目につながっているかを整理しておくことが大切です。

あわせて確認したいのが、外部から自社の事業モデルを一貫して理解できる状態になっているかです。

有価証券報告書のセグメント情報、決算説明資料、統合報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトで、主要事業や収益構造の説明が異なっていないでしょうか。

「AI関連売上」「半導体関連事業」「金融DX」といった成長領域を強調していても、具体的にどの工程を担い、誰から対価を受け取り、どの資産・人材・サプライチェーンに依存しているのかがわからなければ、外部から事業モデルを正確に分類することはできません。

GICS見直しは、サステナビリティ情報の新しい開示義務ではありません。

それでも、サステナビリティ担当者が確認しておく意味はあります。業種分類は、自社がどのリスクと機会を持つ企業として読まれ、どの会社と比較されるかを決める入口だからです。

今回の見直しを機に確認したいのは、分類変更の対象になるかだけではありません。

自社の事業モデルが、財務情報とサステナビリティ情報を通じて、外部から同じように理解できる状態になっているか。その確認こそが、企業側で今からできる対応であると考えます。

 

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本日もお読みいただきありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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