「政策保有株式」という言葉は、少し不思議です。
ここでいう「政策」は、政府の政策ではありません。企業が、取引関係の維持や業務提携、共同開発など、経営上の目的をもって株式を保有する。その企業自身の方針、すなわちポリシーを指すと考えるとわかりやすくなります。
そう考えると、政策保有株式は企業にとっての「外交拠点」に近いのかもしれません。
外交拠点を置くこと自体は、悪いことではありません。問題は、その拠点がいつの間にか相互不可侵条約になり、経営への監督を弱めてしまうことです。
7月12日付の日本経済新聞は、トヨタ自動車やデンソーなど8社の政策保有株式について、2026年3月期に9353億円分が売却され、保有銘柄数は4年前の3分の1になったと報じました。見出しは「持ち合い解消は最終局面」です。
(ご参考記事)
トヨタやデンソーなど、政策株4年で3分の1 持ち合い解消は最終局面 (2026年7月12日)
確かに、巨額の株式を長年保有したままにすれば、本来なら設備投資や研究開発、人材投資、株主還元に使えた資本が固定されます。取引先だからという理由で相手企業の議案に賛成し続けるなら、株主による監督機能も弱まります。
しかし、「株式を売った」という事実と、「ガバナンスが良くなった」という評価は同じではありません。
たとえばトヨタは、有価証券報告書で、政策保有株式は保有の意義が認められる場合を除いて保有しないことを基本方針とする一方、事業戦略や取引関係の構築・維持・強化などを総合的に勘案し、中長期的な企業価値向上に資すると判断する場合には保有すると説明しています。
2026年3月末の保有銘柄数は114銘柄で、2022年3月末の148銘柄から減少しましたが、ゼロではありません。連結純資産に対する残高の割合も12.2%から8.1%へ低下しています。
ここから読み取れるのは、保有か売却かの二者択一ではなく、企業関係に必要な資本の量を調整する作業です。
2026年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード原則1-4が求めるのは、政策保有に関する方針の開示、個別銘柄ごとの保有目的や便益・リスクの検証、議決権行使基準の策定です。
さらに、政策保有先から売却の意向を示された会社が、取引縮減を示唆して売却を妨げることも禁じています。
つまり、制度の原点は「持つな」ではありません。
「持つことで議決権行使や取引判断をゆがめていないか」「その便益は資本コストに見合うか」「相手が売りたいときに売れるか」を問うものです。
そう考えると、政府や取引所が関与すべきなのも、このガバナンス上の境界までではないでしょうか。どの企業と資本関係を築くかは、本来、企業が自らの戦略と責任で判断する領域です。
ところが実務では、検証よりも縮減実績が前に出がちです。
何銘柄減らしたか。
何千億円を売却したか。
こうした数字は比較しやすく、改革の成果として伝えやすいからです。
ですが、統合報告書では「政策保有株式を削減しました」で説明を終えないことが大切です。
売却によって、企業間の協業はどう変わったのか。議決権行使の独立性は高まったのか。得られた資金を何に振り向け、どのような価値を生み出すのか。
逆に、保有を続ける株式については、株式を持つことがなぜ契約だけでは代替できないのか。保有額は、関係維持のために必要な水準なのか。
問われるべきなのは、縮減の量ではなく、資本関係を組み替えた後の経営です。
政策保有株式は、持っているだけで悪い資産ではありません。売っただけで良い経営になるわけでもありません。
「株を減らした」は事実です。ですが、「ガバナンスが良くなった」は、その先の行動によって初めて確かめられることです。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。