SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

改訂ガバナンス・コードで、統合報告書のどこが見られるか

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / サステナビリティ・ガバナンス / 統合報告書

体制図より「取締役会が何を変えたか」が問われる

2026年7月21日、改訂コーポレートガバナンス・コードが公表されました

今回の改訂の大きなテーマは、成長投資の促進です。

会社の目指すところに向けて「成長の道筋」を構築すること。その実現に必要な設備、研究開発、人的資本、知的財産などへの投資や、事業ポートフォリオの見直しについて、具体的に何を実行するのかを説明すること。そして、経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切か、取締役会が「不断に検証」することが明記されました。

 

統合報告書の制作担当者様にとって重要なのは、コードの条文がどう変わったかだけではありません。

これによって、統合報告書のガバナンス開示のどこが見られるようになるのかです。

 

補足説明:
ここで一点、整理しておきます。

改訂コードへのコンプライ・オア・エクスプレインを記載する書類は、取引所規則に基づくコーポレート・ガバナンス報告書です。有価証券報告書は金融商品取引法に基づく法定開示であり、今回のコードでは、その株主総会前の提出が原則1-2に明記されました。

 

統合報告書は任意開示です。三者は制度上別の文書ですが、開示内容は地続きでもあります。統合報告書は、その実質を投資家向けに翻訳する任意開示です。両者は別物ですが、地続きでもあります。コードが取締役会に求める実質が上がれば、それを投資家向けに語り直す統合報告書に対して見られる目線も上がる。本稿は、この「翻訳される側」で何が問われるようになるかを扱います。

 

結論から言えば、ガバナンス章のページ数を増やせばよいわけではありません。

これから一段と見られるのは、取締役会の構成や開催回数だけではなく、取締役会が企業価値向上のために何を考え、何を問い、経営判断をどう変えたのかです。

 

コードは短くなったが、開示のハードルは下がっていない

今回の改訂では、従来の補充原則を整理し、ガバナンスの中核となる内容を原則に引き上げる一方、具体的な手法や背景を新設された「解釈指針」に移しています。

いわゆる「プリンシプル化・スリム化」です。

 

ここに、見落としやすい非対称があります。

コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる基本原則・原則は、抽象的・概念的な内容に整理されました。解釈指針は、その対象ではありません。解釈指針は、その対象ではありません。しかしコード本文は、解釈指針に移された事項や削除された事項について「重要性が失われたと考えることは適切ではない」と明記しています。

つまり、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる部分は抽象化された一方、実務の勘所はむしろ解釈指針に移ったのです。開示負担を単純に軽減するための改訂ではありません。

 

だからこそ、ひな型に沿って項目を埋めればコンプライしたことになる、という考え方から離れることが求められます。これは、統合報告書についても同じです。

「取締役会を何回開催したか」「独立社外取締役が何人いるか」「どの委員会を設置しているか」という体制情報だけでは、改訂コードが求める実質的な説明には届きません。体制記述で足りなくなるのは、勘所が抽象的な原則本文の外側、解釈指針が示す具体のレベルに移ったからです。

 

見られる点① 取締役会は、資源配分をどう検証したのか

今回、最も重要な変更の一つが、原則4-1と4-2です。

原則4-1は、取締役会に対し、成長の道筋を構築し、資本コストを踏まえた収益計画や資本政策、収益力・資本効率の目標を示した上で、成長投資や事業ポートフォリオの見直しについて具体的に説明することを求めています。

原則4-2(2)は、決めた資源配分が経営戦略や経営計画に照らして適切か、継続的に検証する責務を本文に置きました。

そして、その検証対象の具体例を示しているのが、原則4-2の解釈指針です。

ここは、原則本文と解釈指針の二層で読む必要があります。原則本文は、経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切かという検証責務と大枠の対象を定めています。解釈指針は、現預金等の金融資産や実物資産の有効活用を、その具体例として示しています。前節で触れたとおり、勘所は解釈指針側にあります。

 

ここから導き出される、制作実務上の示唆は明確です。

これまでキャピタルアロケーションは、主としてCFOメッセージや財務戦略のページで説明されてきました。しかし、今後は次の問いに答えられる必要があります。

  • どの投資案件や事業について、取締役会が重点的に議論したのか
  • 投資、M&A、還元、現預金保有などの選択肢を、どのように比較したのか
  • 投資実行後、どの指標で進捗や採算性を確認しているのか
  • 計画を修正、中止、縮小した案件はあったのか
  • 社外取締役の指摘によって、経営陣の提案はどう変わったのか

 

投資案件の機密情報を開示する必要はありません。

必要なのは、金額の詳細ではなく、取締役会の判断基準と検証のプロセスです。

日経統合報告書アワードの審査項目でも、資本コスト(WACC)を認識した資本配分・財務政策・事業ポートフォリオ管理の記述が問われています(注1)。「中期経営計画について議論した」という記述から、「どの資源配分を、どの観点から問い直したか」という記述への転換が必要になります。

 

見られる点② 社外取締役は、何を発言し、何を変えたのか

改訂コードは、独立社外取締役について、役割・責務(原則4-8)、質の確保(4-9)、数の確保(4-10)、独立性の確保(4-11)、機能発揮(4-12)を、それぞれ独立した原則として整理しました。

独立社外取締役には、経営陣の監督だけでなく、少数株主などの意見を取締役会に反映すること、必要に応じて株主との対話に臨むこと、M&Aや不祥事などの有事には独立した立場から判断することが期待されています。役割・責務そのものは原則本文に、こうした具体的な場面の想定は解釈指針に置かれています。

この方向性は、現在の投資家の統合報告書に対する評価とも一致します。

第5回日経統合報告書アワードでグランプリを受賞した富士通は、社外取締役から見た経営の変化や経営陣の議論が共有され、実効性評価も明示されている点が、投資家の分析に資すると評価されました(注2)。

優秀賞のTISについても、取締役会の実効性や議論内容に踏み込んだガバナンス開示が充実していると評価されています(注3)。

そして、同アワードの審査基準は、この目線を項目として明文化しています。社外取締役が、取締役会での議論の中身や自社の課題を、自らの言葉で説明しているか。これが審査のチェックポイントに入っています(注1)。

つまり、社外取締役対談を掲載するだけでは足りません。

これからの対談やメッセージで聞くべきなのは、次のような内容です。

  • 経営陣の説明に納得できなかった点
  • 取締役会で繰り返し問い続けている課題
  • 自身の指摘によって修正された施策
  • 現時点で十分に解決していない問題
  • 自身の経験や専門性が、どの判断に生かされたか

「活発な議論が行われました」という言葉では、実効性は伝わりません。

 

見られる点③ 実効性評価は、点数ではなく改善の履歴

改訂コードは、取締役会が毎年、取締役会全体の実効性を分析・評価し、その結果の概要を開示することを引き続き求めています(原則4-13)。

これとは別に、取締役会資料の事前提供、審議事項の設定、十分な審議時間、内部監査部門からの直接報告、取締役会事務局やコーポレートセクレタリーの機能強化など、議論を支える仕組みは、原則4-14で詳しく示されました。実効性評価そのものと、それを支える運営上の仕組みは、別の原則に分かれています。

ここで見られるのは、「取締役会の実効性はおおむね確保されている」という評価結果ではありません。

  • 前年度に認識した課題
  • その課題に対して行った改善
  • 改善によって何が変わったか
  • 今年度、新たに認識した課題
  • 次年度に実施する対応

という継続的な履歴です。

日経統合報告書アワードの審査基準でも、実効性評価に十分な記述があるか、そしてそれが取締役の指名や報酬の議論とリンクしているかが問われています(注1)。実効性評価が独立した儀式ではなく、人事や報酬の判断に接続しているか、という視点です。

実効性評価のページは、アンケートの実施方法を説明するページではなく、取締役会が自らの弱点を認識し、改善していることを示すページへ変える必要があります。

 

サステナビリティも「取締役会の判断」として見られる

今回、サステナビリティに関する取締役会の役割が、新たな原則4-5として独立しました。

取締役会は、サステナビリティ課題に積極的・能動的に取り組み、基本方針を策定した上で、適切な対応を行うことが求められます。

その解釈指針は、ISSB基準の策定と各国での適用進展に言及した上で、我が国においても、一定のプライム市場上場会社に対し、SSBJ基準に基づく有価証券報告書の作成が義務付けられていることを明記しています。対象となる一定のプライム市場上場会社にとって、これは努力目標ではなく制度上の前提です。その他のプライム市場上場会社についても、適用義務化に向けた検討が続いています。

 

統合報告書では、「サステナビリティ委員会から年4回報告を受けた」と記載するだけでは十分ではありません。

問われるのは、例えば次のような点です。

  • サステナビリティ課題を事業戦略にどう反映したのか
  • どの課題に資本や人材を優先配分したのか
  • リスクと収益機会をどのように比較したのか
  • 目標や投資額について、取締役会が何を問い直したのか
  • 経営者報酬や事業評価にどう組み込んだのか

サステナビリティ開示を充実させるだけではなく、サステナビリティに関する取締役会の判断を開示することが求められます。

 

制作担当者が、今から集めたい5つの材料

 

見られるようになる点 従来型の開示 今後必要になる材料
成長戦略への関与 中計を承認した 重点審議テーマ、論点、判断の変化
資源配分の監督 投資計画や還元方針 選択肢の比較、判断基準、実行後の検証
社外取締役の機能 略歴、スキル、出席率 問題提起、反対意見、経営への具体的影響
実効性評価 評価方法と総合評価 前年度課題、対応、成果、新たな課題
サステナビリティ監督 委員会体制、報告回数 経営判断、予算配分、KPIや報酬への反映

 

改訂コードへの対応期限としては、上場会社は遅くとも2027年7月末までに、改訂内容を反映したコーポレート・ガバナンス報告書を提出する必要があります。

しかし、統合報告書に対する投資家の見方は、すでに先行しています。

 

2026年版の制作で最初に行うべきことは、ガバナンス章を数ページ増やすことではありません。

取締役会議事録、実効性評価資料、委員会報告、社外取締役へのインタビュー、投資家との対話結果を確認し、取締役会が経営を動かした痕跡を探すことです。

ガバナンス開示は、もはやガバナンス章だけでは完結しません。

戦略、財務、事業ポートフォリオ、人的資本、サステナビリティ、リスクの各ページに、取締役会の判断と監督が通っているか。そこが、改訂後の統合報告書で最も見られる場所になります。

 

 


(注1)第5回日経統合報告書アワード 審査基準(Q6:資本配分政策・財務政策・事業ポートフォリオ管理/Q9:ガバナンス・システムの高度化、実効性評価と指名・報酬のリンク/Q10:取締役会での議論の中身、社外取締役による自らの言葉での説明)。
出所:日本経済新聞社「日経統合報告書アワード 2025年 審査基準」 https://ps.nikkei.com/nira/criteria.html

(注2)第5回日経統合報告書アワード グランプリ選定理由(富士通)。
出所:富士通IRニュース(2026年3月19日) https://global.fujitsu/ja-jp/ir/ir-news/2026/0319

(注3)第5回日経統合報告書アワード 優秀賞 審査員コメント(TIS)。
出所:TIS株式会社(2026年3月18日) https://www.tisi.jp/documents/jp/ir/news/2025/20260318_1.pdf

記事一覧へ