統合報告書を開くと、成長領域への重点投資という記述は、比較的すぐに見つかります。選んだものについての説明は、言葉を尽くして書かれています。
見つけにくいのは、反対側の記述です。撤退でも売却でもなく、「残すけれども、従来と同じ強度では育てない」という判断。判断の説明を探す作業は、製造業でも、サービス業でも、金融業でも、同じように難航しがちです。
説明を求めている条文がどこに置かれているのかを確認すると、複数の文書に分散していることがわかります。
現行のコーポレートガバナンス・コード(2021年6月11日改訂)では、補充原則5-2①が、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針と、事業ポートフォリオの見直しの状況を分かりやすく示すべきである、と定めています。2021年の改訂で新設された条文です。
隣接する条文として、原則5-2が、資本コストを的確に把握したうえで、収益計画や資本政策の基本的な方針を示し、事業ポートフォリオの見直しや設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すべきである、と求めています。補充原則4-2②の第2文は、経営資源の配分と事業ポートフォリオに関する戦略の実行を、取締役会が実効的に監督すべきであるとしています。
2026年4月10日、金融庁と東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コードの改訂案を公表しました。パブリックコメントは5月15日に締め切られ、制度改正は2026年7月を目途に実施するとされています。改訂後のコードに対応したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は、2027年7月31日です。なお、2026年7月13日時点では、最終改訂版とパブリックコメントへの回答は公表されていません。
改訂案の構造は、現行と大きく異なります。基本原則5個・原則31個・補充原則47個という現行の構成に対し、改訂案では基本原則4個・原則26個へ整理され、補充原則という区分は廃止されます。補充原則は再整理され、その内容は、原則への格上げ、解釈指針への移管、重複部分等の削除という形で組み替えられます。改訂案は、解釈指針への移管や削除によって、その内容の重要性が失われたと捉えるべきではないとも説明しています。
補充原則5-2①は、独立した番号を持つ原則ではなくなり、その内容は、新しい原則4-1の解釈指針へ、ほぼ同じ文言で移される案となっています。したがって、「事業ポートフォリオの基本方針や見直し状況を示す」という要請が消えるわけではありません。ただし、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる独立した番地ではなくなります。
プライム市場・スタンダード市場では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象は基本原則と原則までとされ、解釈指針は対象外と位置づけられています。ただし、解釈指針は各原則への実務的な対応を考える際に参照することが期待されています。
改訂案の原則4-2は、取締役会が、自社の経営資源の配分について、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかを、不断に検証すべきであるとしています。
改訂の趣旨を説明した文書では、資本配分の考え方を示す方法として、キャピタルアロケーションの開示が例示されています。また、原則4-2の解釈指針には、現預金等の金融資産や実物資産を成長投資等に有効活用できているかという観点から検証することが盛り込まれました。
改訂の趣旨を示す文書のタイトルは「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」です。
コーポレートガバナンス・コードとは別に、経済産業省が2020年7月31日に策定した「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」があります。事業再編実務指針は、事業の切出しが十分に行われてこなかったという認識を出発点として、事業評価の仕組みの構築と開示の在り方、経営目標や業績評価指標の設定などを整理した文書です。別紙には、事業セグメントごとの貸借対照表の作成方法と資本コストの算定方法が付されています。
事業再編実務指針は、事業の切出しが進まない要因として、売却等の基準や検討プロセスが明確でないこと、売上高や利益額といった企業規模に連動する指標が重視されがちであることなどを挙げています。
東京証券取引所が2023年3月31日にプライム市場・スタンダード市場の全上場会社へ行った「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請においても、事業ポートフォリオの見直しは要請の一部として位置づけられていました。
改訂案は「成長投資の促進」を旗印に掲げています。成長投資という言葉は、資源を向ける先を指し示します。向けない先についての説明は、原則の本文と解釈指針のどちらへ、どのような濃度で残るのでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。